386 面目躍如
既に一人残らず全力以上を出しているというのに、女神がまた少し段階を引き上げた。たったそれだけで軽くあしらわれるようになってしまった。カザリちゃんとシズキちゃんの攻撃が連続ヒットしたときには確かに感じた手応えと喜びがまるで夢でも見ていたみたいに呆気なく萎んで消えていく。やれる、という感触が手の内からなくなっていく。
いくらなんでも強過ぎる。神力流しも神弾による打ち落としもゼロ距離射撃も、その全てが揃ってド級にヤバい突破困難な技で、その全てを遠慮なく行使して私たちの連携一切を無に帰してくるのが今の女神だ。もちろん女神からすればまだ上があって、こんなのはまだまだ戯れの範囲でしかないんだろうが……でも私たちはとっくに限界いっぱい、上限に達した状態で戦っていて、これより上なんてないのだ。
なのにこれ以上どうしろって!?
「くっ、そ……」
痛みは案の定にひどいが寝転がってはいられない。先のシズキちゃんを見習ってすぐに足腰に力を入れて起き上がるが、うぐ。ふ、震えちゃってんよ両足とも。全解放中だっていうのに一発貰っただけでこれかい。泣きたくなるが泣き言なんて言っていられない。戦わねば。先が見えなくても、今にも負けてしまいそうでも、それでも戦わねば。そうでなきゃ本当に先はない。試練の終わりはやってこないんだから。
そう思って顔を上げれば、シズキちゃんが急ブレーキをかけて女神への接近を取り止めているところだった。正しい。彼女が女神へ突っ込もうとしていたのはそこに私とナゴミちゃんもいる前提での選択だ。情けないことにシズキちゃんの到着まで持ち堪えることさえできずに私たちが吹っ飛ばされてしまった以上、それでも突撃を敢行するのは勇猛ではなく無謀でしかない。一人で挑んだところであえなく撃沈されるだけなのは目に見えている。
一旦ストップするのは利に適った選択だ。そして、そんなシズキちゃんを狙うべく動き出している女神にそうはさせじと食らいついていくのが、私とナゴミちゃんの利に適った選択となる。
「まだ……まだいけるよね、ナゴミちゃん!」
「もちだよぉハルっち! やろう!」
ぐっと身を沈め、倒れ込むくらいに低く姿勢を取って──走る。体の落ちる速度をそのまま走力に変えて一歩目からの最高加速を得た私たちは、真っ直ぐに女神へと突っ走る。そうやって無理矢理にでも足を動かせば自然とついてくる。入らなかった力も入るし、まだ痛みに悲鳴を上げている全身のことも気にならなくなってくる。やはり身も心も甘やかしてはダメだ。鉄火場にいる内はどこまでも厳しくしなければならない。そうすればそうするだけ身も心も応えてくれる。頑張ってくれる。前に向かって進ませてくれる……!
「どぉっっっ──」
踏み切る。その一瞬、その一歩で私は同速度だったナゴミちゃんを振り切った。刹那の差、だけど確かに先に女神の下へ到達。シズキちゃんとの間に割って入ることができた。そしてそのままに、奮い立たせた心身の熱意のままに繰り出す。
「──っっっせいやぁッ!!!!」
女神の反応は間に合っている。シズキちゃんに向けようとしていた手を私に、私の蹴り足に向け直してそこに神力が高まっていく。構うか。もう蹴っているんだ。女神が何をしようがあとは蹴り抜くだけ!
発射された神弾と私の足が激突する。押し戻されそうになる、が、それでも力を込める。前に。前へ! もっと前だ!!
「ほう」
「ぶち抜いたらぁ!!」
神弾を蹴っ飛ばす。神力を打ち貫き、蹴り足は確かに女神へ届いた。その手に握り込まれて止まっている。けれど、ようやく私もヒットを取れた。神力にも何にも阻まれていない。その手と完全に触れ合っている──そしてそれだけで満足したりはしない。
「だッッ!!」
女神の掴む力は半端じゃない。離させようとしても離れない、なんてことはわかっているのでそこを起点に跳び上がりながら回る。握力を支えにしてもう一方の足で蹴る! そこに合わせて追いついてきたナゴミちゃんの脳天踵落とし、それから私の補助に回ってくれたシズキちゃんの変形足払いが迫る。上中下の同時攻撃。そのどれもが高威力を誇る殺意満点のコンビネーションを、女神は見ていた。笑いながら三つのどれをも受け入れていた。
「良き哉」
滑るような例の足捌き。それによって僅かに位置を変えながら女神の手が捻られ、それに合わせて私の蹴る方向も変わってしまう。向かう先はナゴミちゃんが落とす踵。それと私の振り上げた足が衝突して私たちは互いを弾いてしまう。その直下で擦り抜けるようにしてシズキちゃんの足払いも空を切っていて、ビリビリとした左足の衝撃に呻きながら私は臍を噛む。
またしても軽々とあしらわれてしまった。こんなに、これだけ息を合わせて攻めてもダメなのか。今の女神のレベルだと鼻で笑いながら片付けてしまえる程度なのか──だとしても! 怯みやしないぞ、だって私たちにはまだ! 上はなくとも先があるんだ!
「──ハぁあああああああああっっ!!」
「!」
とっくに全解放して上限に達している、それは言った通り。嘘偽りなく私は全力を出しているし出し切っている。だけど、どれだけ絞り尽くそうとそこにある。戦いを諦めない限り、闘志を燃やし続ける限り、出し切っても出し切ってもまだ出せるものはあるんだ。それは灰として勝手に成長していくのとはまた別。私が私として、人間が人間として持っている強さ。人が先を目指すが故に放てる輝き──を!
「あんたも見たいんでしょう!?」
「だとしたら?}
「だとしなくたって言ってやんのさ──とくと御覧じろってね!!」
強引に足を引き剥がし、そのまま回転し、真横になったまま再び蹴りを振り上げる。女神の顎を狙ったそれは首を逸らすだけで躱されてしまったが私は止まっていない。ビッと伸ばした足を回転の向きを変えることで次は振り下ろす。100から0から100。ベクトルを反対にしながら勢いを削がない連撃で女神の顔面を狙ったが、残念。それは神力で止められた。が、私はやっぱり止まっていない。
「ふふ──面目躍如、といったところですか」
速度を一切落とさない、そして先を読ませない連撃を加えていく。考えずに放つそれらはけれど考えなしではなくちゃんと全てが次に繋げるためのものであり、それでいてひとつ残らず全力だ。愉快そうに笑った女神はあえてなのか神力ではなく自分の手でその全部に対応している。余裕のつもりか援護射撃への対策かは知らないが好都合だ。
気紛れだろうとなんだろうと今が攻めどき。そう判じたのはナゴミちゃんとシズキちゃんも同じで、私と一緒に手数と速度を求めた、ながらに威力も取りこぼさない本気の連続攻撃を見舞っていく。三人三方向からの拳打蹴足の雨霰。横向きに振る豪雨に晒されているようなものなのに女神の余裕は消えない。楽しげな笑みも雰囲気もそのままだ。けれど私たちだってただあしらわれるばかりじゃない。攻撃をしながらその意気も域も高まっていっている。連撃中にも連撃の程度はより脅威を増していっている。
特にキレで言えばナゴミちゃんが飛び抜けている。シズキちゃんの進化や私の気合に呼応するみたいに神力の力強さがどんどん上がっていき、それに伴って拳も蹴りもとにかく切れる切れる。一人で私とシズキちゃんを合わせたぶんは攻めていると言っても過言ではない。
「ふむ。壁の越え方に差はあれどこうも易々と……はるこ、なごみ。あなた方もやはり素晴らしい。あなた方がいるからこそ他の三名も引き上げられていく」
逆もまた然りですが。と、語る女神の両腕にコマレちゃんの魔力が纏わりつく。そしてそこに一直線の魔弾──いや、魔力の光線が飛んできて。
女神の側頭部を穿った。




