385 上へ
高校生くらいの見た目になって伸びたシズキちゃんの腕のリーチ。そこからさらに変形によってリーチが伸び、それが女神を捉えた。これまで誰も触れられなかったその身に確かに拳を当ててみせた。目撃した私たちも驚いているが、誰よりも衝撃を受けているのは当てた当事者だった。
自分が成し遂げたことが信じられないような面持ちになっているシズキちゃんに対し、当てられた側であるもう一方の当事者は静かな口調で言った。
「このわたくしにも対応を追いつかせないとは。こまれやかざりの協力もあれどしずき、あなたの手にしたそれは臨機応変の極みと言ってもいいでしょう」
カザリちゃんの魔弾が与えた掌の焦げ跡に同じ。当たってはいてもちゃんとしたダメージにはなっていない。それがよくわかる淀みのなさで女神はシズキちゃんの突き手を掴んだ。あまりに自然に、そして素早く行われたそれにシズキちゃんは反応できていない。手首を握り締められてからようやくハッとしている。
おそらくは自身が上げた戦果に呆けて若干の気の緩みも出てしまっていた。そこを女神は的確に突いたんだ。
「もっと磨きなさい」
シズキちゃんの腕が捻り上げられてその体が宙を舞う。どういう力の加え方をすればそうなるのか見ていてもまったくわからなかった。合気の真似事は妹もできるので何度となくこの身に味わってきているけど、それとはどうも違う匂いがする。人の武術を会得しているんじゃなく女神がやっているのは神力流しの応用かもしれないな。
「おっとぉ!」
とにかく軽い所作で投げられたとは思えないほどの勢いで床へ叩きつけられそうになっていたシズキちゃんを、その落下地点に先回りして受け止める。うおっ、けっこう重ぇ! 見かけから想像できる重量の軽く五倍はあるぞ今のシズキちゃん。けど身に纏っている(というか限りなく融合している)ショーちゃんを思えばそりゃこれくらいにはなるか。
想像以上に重いとは言っても腰を抜かしたり取り落としたりするほどじゃない。私だって神力を全解放しているところだ。膂力も相当に引き上がっているし、機動力もあるからこそ落下前に救出が間に合いもした。そして追撃が私たち二人をまとめて襲わないようにナゴミちゃんが女神に突っ込んでいってくれている。なので慌てず騒がず、抱き留めたシズキちゃんを丁寧に床へ下ろす。大丈夫かと怪我の有無を確認すれば問題ないと彼女はこくこく頷いた。成長した見た目になっていても中身はやはりシズキちゃん。なんだかギャップがあってこれはこれでいつもの彼女とはまた違った可愛らしさがあるな……って、そんなことはどうでもよくて。
「すごいじゃんシズキちゃん! 女神に一発ぶち当てるなんてさ。できれば私が最初にやり遂げたかったよ」
「でも……全然効いてはいませんでした。それに私、油断までしてしまって。せっかくもっと攻めるチャンスだったのに」
「やーそこはしょうがないっしょ。私でもああなってたよ絶対。それに女神も言ってたじゃん? シズキちゃんのそれ、磨けばもっとすごいことになる。だからほら、今度は一緒に頑張ろうぜ」
「……! は、はい!」
シズキちゃんが感極まったような顔で笑みを向けてくる。うーむ、大人っぽくなっている今の顔付きでそんな潤んだ目をされるとなんというか、いじらしさに加えて色っぽさまで出ていて圧倒されてしまう。いけないものを見ているような気分だ。彼女から私を想う気持ちがひしひしと伝わってもくるので──戦闘面とは関係ないこういうところにまで灰同士の繋がりは作用するらしい──余計に感情が高まり、不意にシズキちゃんを抱きしめたい衝動に駆られるが、言うまでもなく我慢だ。私は頭を振って雑念を払い、意識を戦闘モードへ戻す。
いくらナゴミちゃんが体勢を立て直す時間を稼いでくれているとはいえ、そしてその援護をコマレちゃんやカザリちゃんもしてくれているとはいえ。あの女神を相手にいつまでもナゴミちゃんだけに正面戦闘を任せるわけにはいかない。私たちもすぐに戦線へ加わる必要がある。それは言わなくたってシズキちゃんもわかっていることだ。
「行けるね!」
「はい!」
そんじゃあ行こう! 同時に駆け出した私たちはほぼ同等の速度で女神対ナゴミちゃんの現場に急ぎ、そして私は左から。シズキちゃんは右から回り込んでナゴミちゃんの邪魔にならないよう、んでもって最大限に女神の邪魔になるように攻め込んでいった。
「やぁっ!」
「っらぁ!」
変形加速パンチと最高速飛び蹴りの挟撃。弄ぶようにナゴミちゃんの攻撃を捌いていた女神はその身から神力を溢れさせることでこれに対抗。私たちだけでなくその後から迫る複数の魔弾への防御も兼ねているようで、女神に向かう力は全て立ち昇る神力に強引に方向を変えられて上空へと流されてしまう。
これまで見た中で断トツに規模の大きい神力流し! ということはつまり──。
「はい。もう一段階、上へ」
流れに捕らわれながらもそれに抗って着地する、かどうかというタイミングで女神の手がトンとシズキちゃんに触れた。そしてその接触点から撃ち出される神弾。さっきまでの神弾よりもいくらか小さいもののしかし、ゼロ距離から叩き込まれたそれの破壊力は凄まじくて。
「ッッ!?」
「シズキちゃん!」
言葉もなくシズキちゃんは吹っ飛ばされ、先程の落下地点に出戻りを食らう。まともに受けたが意識はあるようで、彼女はすぐに立ち上がった……けどすごく辛そうにもしている。無理もない、今のはとんでもない勢いだったもの。けどそれにしたってショーちゃんによってあれだけ重くて硬くなっているシズキちゃんがたった一発でグロッキーだなんて……彼女だからあれだけで済んでいるけど、私とかが同じように受ければまた床に伸びることになりそうだ。
出現と同時に弾けた神弾。サイズこそ小型化していたが威力までは控え目にはなっていないっぽいな。むしろもっと上がっているようにも思えた。あのサイズ感に神力の量が変わることなく凝縮されているのかもしれない。それを触れながら発射してくるとなったらそりゃあヤバい。女神は神力の規模だけでなく戦い方まで変化をつけてくるつもりのようだ。しかも当然に、私たちにより不利な方向へ舵を切ると。
「とことんってわけね──ますます上等!」
カザリちゃんとコマレちゃんの援護射撃に紛れながらナゴミちゃんと共に接近。今の火力組が繰り出す攻撃は女神であっても注意して対応しなければならないくらいになっている。ナゴミちゃんも全開の連撃なら女神の両手を使わせられる。そこに私も加わり、遅れて前線に戻ってくるシズキちゃんまで追加となればいくら段階を引き上げた女神でもそう楽には捌けないだろう。
という目論見で、私としては本命をシズキちゃんに据えて女神のリソースをいかに削るかっていう部分に着手するつもりだったんだけど。
「なっ……ぐぁっ!?」
様々な角度から迫る魔弾に対しては同規模の神弾を撃って迎撃。そして私とナゴミちゃんのペアには神力流しによる妨害プラス零距離射撃──捌きながら触れたその手で神弾を直にぶつけてきやがった! 防御しながら繰り出されるそれに私たちはなすすべもなくまんまと食らってさっきのシズキちゃんみたいに吹っ飛ばされる。
ごろごろと床を転がりながら痛みに呻き、そして内心でも苦悶を吐く。ガチじゃん! もうガチガチのガチじゃん、女神のやってること! 一部の隙も無く構えちゃって、これでもかってくらい完璧な対処をしている……これじゃこっちが五人いるっていう数の利さえも何も活きやしない。
どうする、ここから私たちはどう戦えばいい……!?




