384 今また進化を
無尽と言っていいくらいに溢れまくって視界を埋め尽くしていた神弾。宙を舞う大波みたいなそれが、綺麗さっぱりに消滅した。それはもちろん、皆が頑張った結果だ。私が女神の懐へ入り込んで注意を引き付けたと同時に四人もそれぞれ先のことを考えない超大技を繰り出し、まとめて神弾を打ち落としたんだ。
全員で全力を出したからこそ窮地を逃れられた。そのせいで戦えるタイムリミットはぐっと短くなったが、全滅待ったなしだったさっきまでの惨状からすればそんなの屁でもない。あとはもうペース配分なんか気にせずに畳みかけるだけ。細かいことを考えなくていいだけに、ある意味ではずっと戦いやすくなったとも言える。
「そう簡単に行くとお思いですか?」
「思わせてもらうよ。そしてその通りにするんだ。それが試練を乗り越えるってことなんでしょうが!」
女神の返答を待たずに再び横を取る。そして私がいた位置には驚異の脚力で間を詰めて来たナゴミちゃんがいて、速射砲の三連撃が放たれた。接近しながら突き込まれたそれを女神は片腕だけで止める。隙ありと見て蹴りつけた私の足もだ。
うっそでしょ、私の体感からすれば今の計四発はほぼ同時に打たれたに等しい。それを女神は慌てず騒がず迫る順番通りに止めてみせた。つまり、それだけ体感時間が違うっていう証だ。私じゃ同時にしか見えず感じない攻撃も女神の目にはしっかりとその差が映っているし捉えられている。
神力を全解放していてもまったく及んでいない! 持っている強度の土台が違い過ぎることに戦慄を覚えながらも、私の体は動いている。まだまだ遠い女神の背中に軽くショックを受けようが追いかけるべく行動は止めない。止めている暇なんてありはしない。
「発ッ!!」
「!」
反撃を予感して私とナゴミちゃんは素早く女神から離れ、それを女神は余裕綽々に見送る。その舐め腐った態度を咎めるようにナゴミちゃんがものすごい勢いで掌打を突き出した。距離を詰めずに打たれたそれはもちろん女神に届きはしないが、しかし拳圧ならぬ掌圧が生じ、砲撃めいたその神力混じりの衝撃波に女神が僅かに後退した。
後退した!? つまり、被害こそないが「まともに食らった」ってことだ。おそらくは守ったり避けたりしなくても被害はない、とあの一瞬で威力を正確に見抜いたからこそ無防備に受けたんだと思われるが、けれどダメージはなくたって女神が押された。一歩分にも満たない程度であっても確かに押し込まれた──その事実は私にとって大きかった。
それは無論のこと、私以外の四人にとっても。
「大拡充魔力法・魔弾大殺界」
「──これは」
渦を巻く魔力。先程と同様にいつの間にか女神の周囲にあったそれが彼女を絡め取り、縛り付けるようにしてその動きを封じようとする。直接浴びなくても相当な重力がかかっているとわかるその空間内にいながらそれでも女神は興味深そうな顔をして辺りを見回している。けれど、動作がちょっとだけ鈍い。神力混じりの魔力によってこうも濃密に全身を掴まれてはさすがの女神も影響を受けずにはいられないようだ。
少なくとも今の神力の出力では防ぎ切れないし、受け切れないものもある。現時点での私たちでも「そこまで」なら行ける。ナゴミちゃんの掌圧といい、これは嬉しい知らせだ。
「やはりこまれの魔術的素養は高い。わたくしの与えた祝福が単なる足掛かりにしかなっていない程度にはとても器用で、魔力操作が美しい。先の今で自力でこれに辿り着くとは驚きました。しかし……真面目な性格故か術の作りが少々綺麗過ぎるきらいもありますか」
渦を巻く魔力の中で女神の神力が渦を巻く。ちょうどコマレちゃんが女神を動かさないために起こしている魔力の流れに相反するような流れがそこに生じ、結果として女神の肉体にかかる疑似重力は一気に弱まる。いや、ゼロにされてしまったようだった。
「合理は大事です。ですが何事にも『あそび』の余裕はあって然るべきですよ。術においても同じく、あなたが作り出すものはかくも返しやすい」
遠くにいるコマレちゃんに向けての偉そうな説教。もとい、アドバイスだろう。言わずもがな届くような声量ではないけど、コマレちゃんにはすぐ耳元で囁かれでもしているみたいによく聞こえているはずだ。その内容は手厳しくも的を射ているもので含蓄が確かにある。けれどコマレちゃんだって女神の神力流し(と勝手に呼ぶことにした)を参考にしたと思しき今の技がいつまでも女神を留めておけるなんて想定はしていなかったろう。
返されることを前提として、じゃあ何がしたかったのかと言えばそれは、私が行なった強襲と同じ。ほんの少しでも女神の気を引くための囮である。
「超過過重反発魔弾」
流星のような白と黒の軌跡が女神に衝突。着弾のその瞬間に二色が完全に混ざり合って灰色に光ったそれが「ボッ」と爆ぜる。爆発は規模も音も小さく、けれど真っ白空間の全土を揺るがすような、空気の悲鳴とでも言うべき重い振動が拡散していく。それは込められた魔力の割に矮小にも思える影響範囲。その範囲内においてのみ破壊力が突出した、極限までに圧縮された火力によるものだ。
内部に威力が留まる打撃。それの魔弾版と言ってもいい、そしてそれ以上に研ぎ澄まされた技術が生み出したその究極的な一撃を受けて──女神はなおも健在。重力の渦から解放されるかどうかという際どい一瞬を的確に狙った射撃にも彼女はしかと反応しており、手で魔弾を受け止めていた。
神力を纏う掌で防いだのだろう。が、そこからは煙が上がっている。そしてその掌の表面には焦げ付いたような跡がちらりと見えた。見間違いか……? いや違う、女神自身も興味深そうに自分の左手を眺めている。間違いない。女神の手には傷がついた。ナゴミちゃんの魔弾でダメージを負ったんだ。
初めて、手傷を負わせた。その事実にぶるりと震えが走る。女神が呟いた。
「素晴らしい。こまれとは趣が異なれどかざりも魔術の才が卓越している。特に攻撃面においては他の追随を許しませんね」
そして、と女神は迫る影を見据えて続ける。
「あなたもまた素晴らしい、しずき。たった今また進化を遂げたのですね」
カザリちゃんの魔弾を追いかけるようにして女神に肉迫したのはシズキちゃん。けれど、白銀色のショーちゃんと一体化して見た目が大人らしくなっていたさっきまでとは違って、今の外見は……なんというか、刺々しい。人の形から逸脱はしていないがどことなく竜っぽいというか恐竜っぽいというか。とにかく戦意がそのまま体に表れているような荒々しい姿になっている。
そして威勢よく、見た目から感じられる獰猛さそのままに殴りかかっていきながらその都度に微妙に形が変わっていく。あれは、私がミギちゃんでやっていたのと同じ。変形による加速&攻撃性能の向上。大いに助けてもらった形を取りながらも不定形であることの強み──それをもっとシームレスに、しかもフレキシブルに活用しているんだ!
パワーはあってもいまひとつ速度が足りず、技術もまるでなかったついさっきまでとは一転。通常の格闘技術とはまるで違うものの独自の闘法を突き詰めた形で会得しており、さらには変形加速によって身のこなしや打撃の速度もとんでもなく上がっている。たった今実践し始めたばかりとは思えない完成度。その凄まじさはシズキちゃんのの連撃を捌くのに女神が両手を使っていることからも明らか過ぎるほどに明らかだ。
「あぁあああっ!!」
気合の咆哮を上げて一際に鋭い一閃。シズキちゃんの拳が、女神の頬を打ち抜いた。




