383 私の本番
「神力全解放……!!」
身に着けた神力強化の出力を、あとのことなんて一切考えずにマックスにする。こうなると私の変化はもう地味じゃなくなる。魔力は操作が完璧になると──それにプラスで一定以上の出力も合わさっていると──激しい光を放つようになるが、全解放した神力もそれに近い。キラキラというよりギラギラした銀色っぽい光が私の全身から溢れている。ライネとの戦いでも一瞬だけやった、そしてその一瞬だけでもがっつりと気力と体力を持っていかれた、最悪の燃費を誇る奥の手にして禁じ手が、これである。
魔力のみだったなら出力を全開にしたってそこそこは持つ。どう戦うかっていう中身にも左右はされるけど、けれどたとえどれだけ激しいバトルをしたって最低でも数分くらいなら維持できる。アンラマリーゼとの最終決戦の時点で私もそれくらいにはなっていた。が、そこに神力も加わった今となってはもう違う。
神力の扱いがまだ完璧じゃないっていうのもあるし、まずもって神力の有する「力」が魔力のそれとは質が違い過ぎるせいでもある。今の私が操っているのは魔力と神力が混然となったものだが、その出力はハッキリ言って魔力のみだった頃とは雲泥だ。神力込みの場合だと通常出力でも以前の全開出力と同等か下手をすれば上回っていると言えば、そこにどれだけの差があるかわかっていただけるだろう。
これ、一見していいことのように思えるかもしれないが……というか出力の向上は即ち戦闘力の向上と言ってもいいのだから実際いいことではあるんだけども、でも決していいことばかりでもない。出力が上がるだけならいいが、上がり過ぎるとそこには弊害も生まれるのだ。
まず、制御が難しい。出力が上がれば上がるだけそれを緻密に操る難度も上がっていく。当然、以前の最高出力が現在の最低基準ぐらいにインフレしているからには操作難度の上がりっぷりも半端ではない。神力が魔力よりも扱いの難しい力であることも踏まえて、二重三重に制御には気を遣わなくちゃいけなくなった。
そして次に、これは操作難度の問題から派生している問題だが、ガス欠が早い。基準の出力のままであれば神力強化をしていてもそれなりに持つけれど……ライネ戦を経て持たせられるようになったけれども、基準というのはあくまで「持たせるために」無理のない範囲で出せる最高点の出力であって、そこを超えれば神力特有の出力の高さが私の全部を持っていこうとするのだ。
魔力のみだったなら最高出力でも、消費速度はそこまでじゃない。たとえば100が魔力の総量だとして、それを身体強化にフル活用した場合の消費量が毎分10とすれば、継続時間は十分。回復量も加味するなら十分強だ。あくまでわかりやすい数字で表現しているだけで以前の私の本気で戦える時間が十分だったっていうわけじゃないが──戦う相手にもよるがその倍から三倍はあったと思う──この例に倣って現在の消費速度がどうかと言うと。
同じく100が魔力&神力の総量だとすればフル活用での消費量は毎分30超え、その上で回復量も魔力のみだった頃より落ちているという、驚くべき燃費の悪化を遂げているのが今だった。いやまあ、回復量に関して言えば総量を100で統一しているせいで落ちているように思えるだけで、実数で言えばそんなことは全然ない。それが神力の特性なのかそれとも灰になったことでの成長の一環なのか、回復の早さは実際には相当に上がっていて、基準の消費量から外れなければ継戦能力はむしろかなり高まっていると言える。
なので以前の総量が100だとすれば現在は1000で、フル活用での消費量が毎分300以上で、回復量の上昇がその激しい消費に追いつけていないというのが正確な言い方になる。100から1000は例えだとしてもあまりに飛躍させ過ぎているように聞こえるだろうけど、実態に即しているのはむしろこっちだと思う。さすがに今の自分が前の十倍もの魔力(&神力)総量を有していると断言まではできないが、それに近しいだけの差はあると思っていただきたい。
で、長々と説明してつまり何が言いたいかっていうと、この全身から銀光を放つ全解放はそう長く続くものじゃなく、それだけに強力だってこと。短時間だけの超強化って意味じゃ勇者装甲の力を変身しなきゃ使えなかったのに近いかな。強化幅もガス欠の早さもよく似ていると思う。ガス欠時の「どうしようもなさ」で言うならまだ全解放のほうがマシで、回復量・速度共に多いから出力差だけじゃなく総合的に勝っていると言えば勝っている。
だがそれをぶつけなくちゃならないのが女神だからね。いくらエオリグの変身よりも強くて融通も利くとは言っても、それだけでどうにかなるような相手じゃない。だから変身がそうだったみたいに、全解放も切り時をちゃんと選び、ちゃんと考えて使わなくちゃいけない。切ってそのまま勝てるのを目指す。それができなくてもせめて、ここぞっていう最も効果的に全力を発揮できるタイミングを見極めなくちゃいけない──と、チャプター10で身に着けたばかりの新技にして奥義を大切に懐で温めていたわけだが。
ご存知の通りもはやそんなことは言っていられなくなった。女神に痛恨を与えられる「ここぞ」を待つなんていう贅沢はもうできっこない。なんか、せっかく作戦とか戦いの流れとか考えても結局いつも出たとこ勝負になってる気がするけど……それも含めて私の戦い方なんだと受け入れるしかないな。もう少し私に力があれば事前に決めた通り上手に戦えるはずだが、そのもう少しが常に足りていないんだから。
でも、足りていないものを埋めるために。ぶっつけの本番でどうにかするために奮闘してきたからこそ勝ってこられたし成長もできたんだ。順調な戦いばかり経験していたらアンラマリーゼを倒せたかは怪しいし、こうして女神と向き合うこともできていなかったかもしれない。そう思えばこれも悪くない。いつでもぶっつけ。そのときを全力で、目の前のことをどうにかする。あまり褒められたやり方じゃないのは重々承知で、けれどこれが私には合っている気もする──ってことで。
「ここからが私の本番だッ!!」
「!」
制限や抑制を取っ払った最高潮の状態で駆けた私は加速のための時間を経ずに一瞬でトップスピードに到達する。その速度もさっきまでより上がっているのはもちろん、神力を全解放した今は直進するだけじゃなく曲がったり止まったりもしやすくなっている。普段通りの機敏さとまではいかないが速さに加えてある程度の小回りも利くようになった。この変化は大きい!
攻めの全てを神弾任せにして悠然と佇んだまま皆を追い詰めていた女神の懐に飛び込んだ私は、しかしその速度にもしっかりと照準を合わせてきた彼女の手。翳されたそれから素早くステップインして避難する。横手を取り、だけど離れはせず、むしろもっと近づいて──ぶん殴る! フックを脇腹へ!
「チッ!」
がら空きだったはずのそこがしっかりと神力の壁で守られている。完璧な機を捉えたつもりだったが女神を相手にはこれでもまだ甘いか。残念でしたね、とでも言わんばかりの眼差しと目が合うが、すぐに向こうも気付いた。全力全開での強襲にはあえなく失敗したものの、しかしそれでも私の目的はちゃんと果たされているのだということに。
「おやおや」
そのタイミングであれだけあった神弾が一斉に消し飛ばされたのを受けて、女神は淡々と。けれど楽しげな雰囲気でそう呟いた。




