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382 一致団結しなければ

 どうもみなさまごきげんよう。私です、ハルコです。

 私は今、だらしなく床に伸びているところです。ちょっと起き上がれそうにないっす。


 いやー参った。さすがに顔を掴まれそうなくらいの至近距離から神力を叩き込まれた(たぶん)とあっちゃあどうしようもない。さっきみたいに咄嗟に糸を差し込む猶予なんてなく、おもっきしまともに食らっちゃったよ。


 打たれた、というよりは揺さぶられた感覚だ。脳がぐわんぐわんしていて視界も定まらない。気持ちが悪いし、身体に力を入れられない……ホント参ったな、ここからどうやって復帰すればいいんだ?


 これは試練であり訓練だ。まさかトドメを刺されるなんてことはない。それに私だって灰だ、今こそ動けなくても少し休めば自力で回復もできる──はず。その間は一時戦線離脱という扱いで女神からは放っておかれることとはおもうけど。しかし、私が抜けて戦力が減ってしまうとそのぶんだけ皆の苦労が増す。下手をすれば私以外の誰かも落ちてしまうかもしれない。いや、五対一でもギリギリなんだから四対一になっちゃったらほぼ確実に他にも離脱者は出ることだろう。


 それは、避けたい。言うまでもないことだが全員揃って戦っている状況こそが私たちのベスト。常に離脱者がいるまま戦い続けることになったらいよいよもって打開ができない。成長待ちの時間稼ぎを女神が許してくれないからには最悪の場合……ダラダラ戦ったまま全員が倒されてしまうと、その罰として例の超絶苦しい激痛ペナルティを与えてくるかもしれない。あの女神ならそれくらいはやってもおかしくない。そしてそれをあえて事前には教えない、くらいのことだって当然にやるだろう。


 罰なんてないものと思って気が緩んだところを、責める。うむ、やりそうというか絶対にやるぞっていう確信が持てちゃうな。女神の指導法はこれまでのチャプターでそれはもう嫌というほど、吐き気がするほど味わってきた。やはりこのままではマズい。最終チャプターともなれば女神の設定するペナルティのレベルもきっととんでもないことになる。何があろうともそんなの受けたくない。それを避けるためには誰かがやられてしまう前に私が立ち上がる必要があるわけだが、まだ頭の中が絶賛ぐらぐら中。食らった直後よりもいくらかマシになった気もするけど、だとしても復帰までは程遠い。


 くっそ、思考は安定してできるのに……できてるよね? 自分ではそう思ってるけど実は支離滅裂とかないよね。怖くなってきた。いやまあとにかく、ある程度物を考えることができているのにこんなにも頭や視界が揺れているように感じるってのはつまり、やられたのは頭は頭でも重点的に狙われたのが三半規管だってことか?


 とんでもない悪路でもなければどんなに荒い運転の車に乗ったって酔わない自信があるくらいには三半規管も鍛えられているつもりだけど、神力で狂わされちゃ多少鍛えられていようがいなかろうが関係ない。これだけ気持ち悪くなるのも、どんなに手足に力を入れようと立てないのも納得だ。体幹と平衡感覚がおかしくなってちゃそりゃ起き上がれるわけなんてない。


 だが、あくまでおかしくなっているのがバランスだけだとすれば、こんな状態でもまだやれることはあるかもしれない。そう思い付いた私は目を閉じ、気持ち悪さをなるべく無視し、糸繰りで糸を作り出すことだけに意識を集中させる。すると、いつもより時間はかかったが(それでもプラス数秒程度だ)なんとか満足のいく出来の物が完成した。


 それは糸の弾丸として活用してきた技である突糸を、先端を尖らせて多少長くさせた……言うなれば刺糸。撃ち放つのではなく突き刺すことだけに特化させた形状だが、しかしこれの目的は敵に致命傷を与えることではないのでそのサイズ感は突糸と比べてもかなり小さめにしてある。具体的にはそう、耳の穴にするりと入り込める程度の大きさしかない。


「ぐ、く……」


 上手く動かせないので手や腕は使わず、糸操作だけで持ち上げた刺糸を顔の上に持ってきて、そして首を動かして迎え入れやすい角度を作る。それだけの動作でも今の私には大変な重労働だったが、これが成功してくれれば……!


「来い──ッぅ!?」


 多少以上の恐怖もあったが、こういうのは勢いが肝心だ。臆する心が肥大してしまう前に刺糸を耳の中に入れて、進ませる。行き着く先は鼓膜。その奥にある三半規管だ。そのどちらもが糸に貫かれて、鮮烈な痛みが頭の中を走った。お、思ったよりキツいのな、自分でひとつの器官を潰すってのは……!


 でも大丈夫だ、痛くてもこのくらいなら耐えられる。女神の与える激痛に比べればこんなのなんてことはない。それにアンラマリーゼとの戦いで私は自分の身体を糸で縫ったり、なんなら体内に潜り込ませて簡易手術みたいなこともした。それからすると耳の中をちょっと掻き混ぜる程度、軽い軽い。


 そう自分に言い聞かせて念入りに三半規管を壊し、それから反対側も同じようにして、そこから全力で自己治癒を開始。神力で感覚を乱されてしまえば、それは女神のやることだ、私がどれだけ治ってくれと自己治癒を促したってどうにもならない。やらないよりは多少効果もあるかもしれないがそれで跳ね除けられるほど女神の力は甘くない。どうしたって時間経過で徐々に感覚が戻ってくるのを待つしかない──が、それならいっそおかしくされている感覚、つまりは神力の影響を受けている三半規管を自ら壊してしまえばいい。


 徹底的に破壊してしまえばもう影響もクソもない。そして物理的な破壊ならば自己治癒による癒しが効く。灰になったことで自前の修復機能──まさしく機能・・だ、今の私は神様の道具なんだから──も以前より強化されている。限られた範囲であればズタズタになっていようとそこに治癒力を集中させれば簡単に治せる。これはライネ戦でもやったことなので確証があった。


「──よし!」


 思った通りにすぐ治せたし、新品ピカピカになったことで三半規管はもう女神の神力の影響を受けていない。完全に元の感覚を取り戻している。何もかも上手くいった! のはいいが、私が寝転がっている間に事態は進んでいたようだ。


 起き上がったところ目に飛び込んできたのは、もはや弾幕を超えて津波のようにあっちへこっちへと暴れ狂っている神弾の群れ。そしてそれに追われてどうしようもなくなっている四人だった。


 ナゴミちゃんとシズキちゃんは相変わらず単独で四苦八苦しているし、コマレちゃんとカザリちゃんも引き離されて対処により苦しんでいるのが見て取れる。そりゃそうだ、たとえ二人が揃ったままでもあれだけの数の神弾はそうそう凌げやしない。まだしも踏み堪えているだけ四人とも大したものだろう。


 ちっ、女神のやつギアを上げ過ぎだろこれは……! 私が倒れていた時間なんて精々一分か二分あるかどうかだってのに、その僅かな間にここまで状況が悪化しているとは。こうも追い込まれてしまっては私があそこに飛び込んでいっても全員で固まるのはどうにも無理臭い。


 となると、仕方ない。もう全滅まで先がないからには後先なんて考えず、全てを懸けるしかない!


「皆! 全力で、合わせよう!」


 駆け出しながら最大声量で叫んでそう伝える。あるいは今の私たちなら強く念じるだけでも充分に伝わったかもしれないけど、これは言葉にしたかった。直接口にすることでより全員の想いが、やるべきことが重なり合う気がしたから。


 そうやってできる限りに一致団結しなければいけないと、直感が強く訴えてくれているからだ。


 四人それぞれと視線が合う。意思の交錯と決断。それらは一瞬のことで、もう私たちは行動に移っていた。



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