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378 ガンガン行くよ!

 私も自分そっくりに作った擬態糸を身に纏ったりもしたけれど、シズキちゃんのこれはそれよりもっと自然で、その役目もまったく違う。あくまで身代わりとか陽動のための、つまりは攪乱目的で使う私の擬態糸纏いとは異なり──自分自身の強化。新形態のショーちゃんと全身で一体となることでパワーアップを果たしている。それこそがこの高校生くらいの見た目になったシズキちゃんだと、私にはすぐにわかった。


 灰としての例の通じ合っている感覚がそう教えてくれた、のではなくて。そっちもあるにはあるけどもっと単純に、ただ見ただけでもヒシヒシと伝わってきたのだ。今のシズキちゃんが持つ強さの異質さ。これまでの彼女が持っていた、武器としていた強みとは別種の強靭な何かがその身に宿っていることを、本能的な部分で感じ取った。だから私は思わず唾を飲み込んだ。味方に対して、ぶるりと震えたんだ。


 凛とした声でシズキちゃんが言う。


「私も近接戦に参加します。三人で攻めましょう」


 近接組と火力組の人数を変える提案。シズキちゃんが自分なら担えると言い出したであろうそれが受諾されたのはカザリちゃんとコマレちゃん、頭脳担当の二人が「足りない」と判じたから。私とナゴミちゃんという殴り合い特化の二枚看板だけでは女神のリソースを充分に削れやしないと判断してのことだ。


 任せられた役割を果たせていない。そこは素直に悔しいし不甲斐ないとも思うけど、シズキちゃんの割り振りを変更する案自体は間違っていないとも思う。確かにここまでの経過を見れば厚くするべきは火力組よりも、火力組の攻撃を効果的にするための近接組のほうだ。何せ私たちはリソースを削れていないどころか、女神にいいようにやられ、それを助けるために火力組のリソースこそが逆に減らされている状況なのだから。


 今だって攻撃を通すためではなく私たちを復帰させるためにとにかくむやみやたらの魔弾乱射をしているわけで。そのおかげで起き上がれはしたものの、これでは分担の意味がない。しかもこれだけ撃ちまくっていても女神がその気になれば弾幕に対処しながら私たちの相手だってできるのは疑いようもないことだ。なので女神が少しばかり──そう、本当に少しばかりだろう、女神の基準からすれば──積極的に動くようになった今、私たちの作戦は既に破綻していると言える。


 だったら策を変えるしかないし、それに合わせて変わっていくしかない。女神のお望み通りに好転と成長を「待つ」のではなく自力で、無理矢理でもなんでも、より早い打開と急成長を遂げなければならない。


「エクステンド発動中は他にショーちゃんを増やせず、カザリさんたちの射撃を強化することもできません。ですが」


 その欠点を補って余りある個としての強度が、今までのシズキちゃんには持ち得なかった新たなカードがある。と来れば、なんとも頼もしい。ちょうど私ももう一人ぶんくらいの手が欲しいと思っていたところなのだ。まさかそれで本当に、しかもシズキちゃんの手が借りられるとは夢にも思わなかったけど。でも言わずもがな今の彼女なら格闘戦だって背中を預けるになんの不足もない。どころか、下手をすればこっちが置いていかれるだろう。


「よっしゃ。シズキちゃん、ナゴミちゃん。ガンガン行くよ!」

「お~!」

「はい!」


 三人で並んで構えを取る。魔弾の連射が途切れた。私たちの準備ができたからだろう。最後の弾群を打ち払った女神の目が静かに私たちを見つめている。その視線を振り切るように、一斉に駆け出す。


「──!」


 最速はシズキちゃんだった。迂回もなく真っ直ぐ最短を走った彼女の、生身にしか見えないがその実ショーちゃんと重なり合っている腕が突き出され、女神はそれに対して掌打をぶつけた。その一合が生み出す衝撃を掻き分けてナゴミちゃんが低い姿勢で急襲。掬い上げるショートアッパーの軌道で連打するが女神はそれを首の動きだけで躱している。続け様にシズキちゃんも殴打を放つもののそちらは全て手で防がれる。


 ちっ、見るからにパワーのあるシズキちゃんとスピード優先のナゴミちゃんの連撃でも崩せないか。けれどなんの気紛れか女神は神力操作ではなく自ら動くことで攻撃に対処している。やつのことだからそこにもなんらかの考えがあるんだろうけど、なんだっていい。チャンスだ。スカされるという意味じゃさっきまでと何も変わっていないけど、でも神力で邪魔されるのと体で防がれるのとじゃまだしも後者のほうが攻め入る隙も見つけやすい。


 あるいはこれは私が格闘畑の人間だからそう思えているだけで、それを利用して女神はあえて私たち三人を引き付けているのかもしれないが──繰り返す。なんだっていい。とにかく行けそうならガンガン行く。そこは貫徹する!


「ッしゃおらぁッ!!」


 加速に加速を乗せて自分でも制御の利かない、直線の移動しかできない速度を出して突っ込んでいく。多少なりとも神力を我がものとしている今だからこそ可能となる限界以上の速さ。それを引っ提げ、その勢いのままに繰り出した蹴りを女神はしっかりとした。感じたのは、自分の千倍は重いだろうかという金属の塊を蹴ったような硬さ。女神が防御するとここまで度の超えた堅牢ぶりを見せやがるのか──だが! 私はそんなとんでもない相手に「防御を取らせた」んだ! 今この瞬間は蹴りを受け止めている片腕が使えない。そしてこちらにはフリーの二人がいる……!


「はっ!!」

「やぁッ!」


 同時に発射された強烈な一打と一打。ナゴミちゃんの蹴りをもう一方の腕で、シズキちゃんの殴打を神力の壁で女神は防いだ。なんだ、壁もまだ使うのか。でもシズキちゃんのパワーはやっぱりすごい、私たち以上に壁を押し込んでいて今にも突き破りそうだ。女神も少しばかり驚いている雰囲気がある。


 女神はチャプター10でシズキちゃんの戦い、その成長の度合いを直に見て確かめているはず。なのに驚くってことは、シズキちゃんも私やナゴミちゃんと同様に、この一瞬にも強くなっていっている。灰として高まっていっているんだ。そしてそれは、近接担当の私にはわかりにくいけど、火力組の二人だって同じなはず。私たちは五人共にメキメキと強度を上げているわけだ──これなら光明も見えてくる。


「ッしぃ!」


 体勢を入れ替えて反転しながらの横踵蹴り。それに合わせてナゴミちゃんも再びド迫力のキックをお見舞いして女神を釘付けにし、そこにシズキちゃんの追撃が叩き込まれる。が、惜しい。今度こそ壁を破れるかと思ったが、神力の固め方に調整が入ったのかまるで材質が変わったかのように壁は硬くもよく伸びてシズキちゃんの拳を止めていた。硬度と軟度の両立。神力でそんな真似までできるのかと歯噛みしたところで、女神が大きく動いた。


「うっ、」


 私とナゴミちゃんに、一撃。何を食らったのかは見えなかったが腕が伸ばされていたからにはそこから拳圧だか神力そのものだかを飛ばしてきたんだろうと思われる。まんまとそれを食らって、軽い当たりに感じたのに全身丸ごと吹っ飛ばされて地を転がされる。とんでもない隙を晒していることになるが、私が素早く起きたのは自分の身を案じてではない。ナゴミちゃん共々に引き離されたことで何が起ころうとしているのかはわかりきっていた。


 女神の狙いはシズキちゃんだ! 孤立させて悠々と。私の視線の先ではまさにその通りの光景が広がろうとしているんだから寝てなんていられない。また超加速に乗るべく足を回転させるが、しかし距離が距離。既に女神の手はシズキちゃんに伸びている。間に合ってくれるか……!?



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