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373 パワーアップ

 ──いざ尋常に。


 そう静かに呟いた女神からは戦意の類いを一切感じない。感じられない。けれど、それは何も彼女に戦うつもりがないということを意味しない。


 既に臨戦態勢である。私たちにはそれがよくわかった。もっと正確に言うなら、こうして無防備に佇んでいるだけにしか見えないそれが、けれど必要十分。私たちを相手取るにはその程度で十二分に足りる構えになる、ということだった。


 つまりは舐められている。それはもう盛大にぺろぺろと舐め回されているが、でも、女神のそんな態度が決して認識不足や自信過剰から来るものではないこともよくわかっている。これでいいのだ。女神は正しく彼我の間に横たわる巨大な溝、力量差というものを把握している。気のない佇まいはあくまでも私たちという「灰」がどれだけの「戦力」であるかを見極めた上での然るべき対応でしかないのだと。彼女と繋がっている私たちにだってそんなことは理解できている。


 しかし。いや、だからこそか。その程度で事足りてしまえるという事実を否定してやりたくてしょうがなくなるのも、ごく自然な道理ってものだろう。


「混合錬気」


 四属性の魔力と神力を混ぜ合わせたものをコマレちゃんが纏う。ゾクゾクするような圧力を感じさせるそれはチャプター10で他世界の灰と戦いを繰り広げる中で開拓した彼女の新たな武器だろう。冷や汗を流してしまいそうになるほどのその迫力は味方としてはこの上なく頼もしい。


「スペシャルモード~!」


 ナゴミちゃんが、彼女の二大必殺技であるスペシャルパンチとスペシャルキック。それらを放つときに手足に集中させて練り上げる極大な魔力を、なんと全身で発現させている。その存在感たるや一個の星がそこにあるかのように絶大なものだった。今の彼女はつまり一挙手一投足が特別スペシャル。攻防移の全てにおいて最大限を常に発揮できる状態なのだろう。寒気すら覚える力強さだ。


「双極の極位」


 光と闇、相対するふたつの属性を同時に操ることの特異性を何よりの強みとしていたカザリちゃんだけど、とうとう彼女はその到達点に至ったらしい。かつては一個の術として同時に放つのが精一杯だったそれを完全一個の代物として自分自身の強化に当てていて、それの相乗効果なのか見るからに彼女の出で立ちは常識ってものを飛び越えてしまっている。


「アルティマ・ショーちゃん」


 白銀色。見慣れた黒ずんだ鈍色とは明らかに色味も、そして迫力も様変わりしたプラチナに輝くショーちゃんをどろりと全身から溢れさせて、そしてその状態のままシズキちゃんが身構える。性能も戦い方も大きく変更されたのが一目瞭然。ながらに、何をしようとしているのかはまったく読めない。それでも彼女の強度が一段も二段も引き上がっていることだけは確かめるまでもなかった。


 うむむ、皆してすごいな。戦いぶりを見ない内から相当なパワーアップをしているのが丸わかりだ。それだけ、他世界の灰との戦闘で得るものが大きかったってことだろう。チャプター10以前までとはもはや全員が別人。そう言い切ってもちっとも過言じゃないくらいに急成長を果たしている。


 そうでもなければ他世界の灰とは渡り合えなかったってことを思うとつくづく女神の与える試練ってのはイヤらしい……私と同じように皆も格では自分を凌駕する相手とやらされたのは間違いない。そうでもなければたった一度の戦闘の前と後でこんなにも様変わりなんてしないものな。


 それは私自身がそうだったからこその確信だった。


「──はあっ!」


 気合を露わに全身に力を込める。神力を纏うというより身を委ねる感覚で巡らせながら意識を高めて例の過集中状態へと持っていく。そうすることで私の体は作り替わる。あたかもエオリグで変身したときのように。でも、わざわざ変身のプロセスなんて経なくても素のままでエオリグの力も発揮できている今となっては、もう変身の比じゃない。あれ以上の比率で増した力が漲っている。


 見た目や振り撒く圧力は皆ほど派手じゃない。っていうか神力の猛りを除けば髪がちょっと逆立っているくらいしか外見的な変化がなくてはっきり言って地味なんだけども、しかしそれでもパワーアップはパワーアップ。この姿になった私の強度は自分でも驚くほどに引き上がっている。


 皆との共闘でもきっと後れは取らない。いや、取っちゃいけない。むしろ皆を引っ張っていくつもりで挑んでいこう。そういう意気込みで戦っていたからこそ、ライネとのバトルでもこれを編み出すことができたんだから。


 さしずめ女神とのバトルでの目標は、まだまだ手探りなこの新しい力を使いこなせるように習熟すること。もっと欲張るならこの力を超えるもっとすごい何かを手にすること……なんだけど、それはさすがに先を見すぎかな。遠くを見据えるのも悪くはないけどそのせいで足元を疎かにさせちゃナンセンスだ。まずは今あるものを完璧に、だね。兆しってのはつまりそうやって見つけ出していくものだって、これまでのチャプターを通して学んでもいる私だった。


 お? お互いにお互いの変化を眺めて感心したり感服したりしている私たちだけど、私に目を留めたシズキちゃんが妙に熱心に見つめてくる。表情は呆け気味? でも瞳は妙に熱っぽい。な、なんだ? そんなに際立って目を奪われるような恰好にはなってないはずだけど……言ったように五人の中じゃ私がダントツで地味な変化だし。


 理由はわからないがとにかくシズキちゃんが固まってしまっているので、正気に戻そうと軽く笑いかけながら手を振ってみたところ。彼女はものすごい大仰に「ハッ!」として我に返ったかと思えば「ボッ!」と一瞬で顔を真っ赤にさせて私から目を逸らし、俯いてモジモジし始めた。えぇ? ごめんシズキちゃん、ますます意味がわかんないよ。あなたの中で何がどうなってそういうリアクションを取っているのか本気で私にはわからない。どれだけ考えてもわかる気がしないほどさっぱりなんですけど。


 ただまあ、とりあえず硬直は解除されたのでヨシとしておこう。結局は気もそぞろのままっぽいのがちょっとアレだけど、固まったまま動かないよりはモジモジしているほうが幾分もマシだろうと思う。一応思考は働いているようなのでいざ戦闘が始まればちゃんと切り替えてくれるだろうし……さっきまでは明らかに脳みそまでフリーズしてたもの。あれじゃいくらなんでもヤバかった。初手で狙われでもしたら即脱落もあり得た。その心配がなくなったなら上出来だ。


 さて、これで私たちの準備は万端。力の増し方も全員が全員共に想像以上と言っていい。これなら充分にやりようもある。ってか割とあっさり勝てちゃうんじゃない? 女神だって自ら相手役を担うにしたってまさか本気で戦うはずもない。ミニ女神っていう僅かな力しかない──ここでの「僅か」とはもちろん女神基準でのものだ──分身を戦わせていたときみたいに、何かしら制約を設けるだろう。その女神が相手なら、この著しく神力の質も量も上がった今の私たちであればどうにかできる公算が高い──。


 なんて考えた、次の瞬間。


「うっ……?!」


 思わず呻いたのは女神から感じられる神力──否、神格の圧が、暴風みたいに途方もなく吹き荒れたからだ。その凄まじさたるや、私たち五人が纏う成長した神力をひどくちっぽけなものへと……大樹の中に紛れる葉っぱの一枚程度の、ほんの小さくて頼りないものに変えてしまった。それくらいに女神が放つそれは圧倒的だった。


 本気・・。女神はなんの手心も加減もなく叩き潰そうとしている。言葉にされるよりもずっと瞭然とそう告げられて、シズキちゃんのみならずに完全硬直してしまう私たちに、女神はいつも通りに宣った。


「始めましょうか。最後の試練を」



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