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355 全一の兆すもの

「要訣として申し上げましょう。自らの神力へ意識を向ける必要は、ありません。同調のためには自己を手放し他四名の神力へ気丈させる──いえ、あなた方の感覚で言うなら『合わせる』のが吉ですよ。それが全一達成への近道となるでしょう」


 五度の失敗の後に女神からそうコツを教わって、溢れかえった神力に内臓ごと引っ繰り返されてへろへろの私たちはそれでもなんとか立ち上がって、六度目の同調に挑戦する。


 その間にも女神は何やらと喋り続けていたが、どうも彼女が指揮を取れば私たちの同調はとても簡単というか、自ずとそういうになるんだとか? その指揮なしで指揮ありと同じように、私たちだけの力で一個になれるかどうか。今試されているのはそういう部分のようだ。


 チャプターが進むごとに説明されずとも薄々と気付き始めていたことではあるが、私たちは灰になることで女神とだけじゃなく、お互い同士でもかなりの強度で結びついている。それは当初に想像していたよりもずっと強く、固くだ。同じ管理者に従事? 従属? するっていうのは私がなんとなくで思っていた以上に格式ばっているというか、立場を克明にしているというか。とにかく私たちは一人の女神に仕える者として同期であり同期しているらしい。それは女神との関係性と同じく切っても切れない仲だということ。


 それを実感し、理解する。自分だけじゃなく「自分たちが灰である」とちゃんと学習することがより灰らしくなるために必要なステップ。総決算の一段階目って感じかな……女神の小難しい言い回しでの長々とした説明を私なりに噛み砕く限りそういうことになる。


 自己ではなく自己に限りなく近しい他者になった皆との同期、同調。を経ての全一。全体で個であり個が全体を司る灰独自の在り方。一人で灰になっていたら絶対に辿り着けないそこへ私たちは手を取り足並みを揃えて踏み入らなくちゃいけない。こればかりは誰が先んじても遅れてもダメだ。ここまでバラつきのあった習熟度、馴染み方、クリアする前後を、ここにきて完璧・・に横並び一線に合わせること──これは確かに、試練としては優しめ。だけど決して容易なことでもない、なんとも言えないバランスの難度だった。


 十度目の失敗。うまくできそうな手応えがばっちりとあるだけにもどかしさを感じずにはいられない。先ほど女神が歯痒いと言ったその気持ちが今ならよくわかる。できるはずなのにできていない、というときほど歯痒さを感じることも他にない。神力との付き合い方を心身で心得始めた今だから私はこの確か過ぎるほどの手応えを感じられているが、女神はきっと最初から。チュートリアル扱いだったミニ女神とのバトルのときからずっとこういうもどかしさを味わっていたんだろう。


 何故できないのか。もっとできるはずなのに。上手くやれるはずなのに──と。それでいてその通りに導けない自分自身の指導力不足を嘆いていたのだ。それを殊勝だとか人ができているとは思わない。灰として、管理者である彼女の未経験故の不手際。神であっても覆せない不都合というものがあることだって、今のある程度の成長を経た私にはわかっているからだ。女神の評価はやはりどこまでも正確で、なんでも見通している。それは女神自身に対しても例外じゃないってこと。なんとも窮屈そうだな、と思っちゃうね。


 何か大きな転換があったわけじゃないけれど、十二度目の挑戦でいきなり私たちは神力の完全なる統一に成功。そのまま少しのズレもない想起を行ない、女神の目からも充分に完成された全一へと至れた。その瞬間に私たちは私たちだけじゃなく、女神とも、なんならこの真っ白空間とも「個」になった感覚を抱いた。皆が私と同じ感覚を抱いていることがわかるし、私の感覚が皆に伝わっていることもわかる。それを俯瞰的に眺めている女神の感覚も、私たちをこの場に固定している空間にも全員の意識が共に伝播していっていることまで、流れ込むように──いや違う、私の中から流れ出していくかのように、わかる。わかり過ぎる。


 これは──。


「それが統一であり、全一の兆すもの。よすが・・・の究るところです」


 ただし自分が傍にいて私たちの心派を増幅させているからこその反応であり、ただ同調に成功しただけではここまで拡張されはしない、との注釈を女神は付け加えた。


 想起と静清もそうだけど、神力関連(あるいは灰関連と言うべきなのか)の用語は本来の──というか私たちが用いる際の意味とは違っているのが本気でややこしい。一瞬だけどいちいち理解が遅れるんだよね。と言っても女神の言いたいことはわかるし、別に言うほど普段使いするような単語たちでもないからそこまで支障はないっちゃないんだけど……でも灰になったことで繋がりが強化されていなかったら絶対ちんぷんかんぷんだったろうなっていう自負(?)もあるものだから、やっぱり問題と言えば問題だよな。


 もっと人の使う言葉と被らない独自の単語でも作るわけにはいかないのか……ああいや、それだと女神の話すことが一から十まで意味不明の造語集になってしまって余計ダメか。単語だけならまだいいほうで、あいうえおすら用いない神語とか持ち出されたらおてあげだものな。


 なんなら既に女神は神語を常用していて、それが私たちの耳には自分たちに馴染みのある言語に聞こえているだけって線もある。そのもっと発展した形が、この奇妙な同調……なのかもしれない。


「ふふ。色々と考えるものですね。いいでしょう、それはあなた方が自らを失っていないことの印。思考の連なりこそが自己の確立と言ってもよいのですから思うこと考えることをやめてはいけませんよ。たとえ完全なる灰として完成した後においても」


 私がつらつらと物を考えたように皆もそれぞれ思い思いに思考を重ねている。そしてそれが全員で重なり合っていっている。なんていうんだろう、皆で一枚の紙の上に絵を描いているっていうか、ひとつの部屋を共有しているというか。そういう感じ? 壁も隔たりもなく相手が何を思っているのか「見える」し、相手からも「見えて」いる。冷静に考えてみるとわけのわからない、ものすごい状態になっているんだけど、これに驚くと同時にこれが当たり前だっていう感覚もある。


 これが、灰の世界。管理する側の意識・・ってことか。いよいよそこへ私たちは一歩足を踏み入れた、と。今は女神の仲介? があって初めて成立しているが、行く行くはおそらく私たちだけでもこの状態になれる。というかならなくちゃいけないんだろうな。灰らしい灰になるというのはきっとこうやって、見えるものまで変わっていくことを指すんだ。


 管理する側の景色ってやつ? それがここまで人と違うとは……いやそれも薄っすらと察せていたことではあるんだけど、こうして実際に自分の身で体感してみるとその差は想像を絶するものがある。そりゃあ、こんな意識や視界をしていたら人と同じようには考えられないし、人の視点に立つのだって難しい。マジで感覚が違い過ぎる。未熟な灰でしかない私でさえこうなんだから、これがもっと極まっているであろう女神がどんな視点で物を見ているかなんて彼女に近づいた今でさえも……いや半端に近づいた今だからこそ、余計にわからない。


 女神という生産者おやに包み込まれているせいで、人だった頃よりもいっそうその存在感が強大に感じられる。


「この状態を維持したまま、静清。それが叶えばチャプター10へと移りましょうか」


 まだ浮足立っている私たちを諫めるように、女神が粛々と進行した。



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