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353 功も責も

 悪戦苦闘することしばらく、なんとかチャプター3をクリアした私たちはそのまますぐにチャプター4へ移行。維持に続いてハイ・ロウとオン・オフの切り替えを練習し、ノルマを達成してそのままチャプター5へ。ここまでくるともはや疲労に喘ぐこともほとんどなくなっていた。もうへとへとなのが当たり前。極度の疲労が積み重なっている状態こそが素であるかのように、私たちは喋る気力もないままに平然と、自分でも不思議なくらいに平穏な心で難度を増していく試練と向き合っていた。


 その調子でチャプター6、7、8まで進んだところで久方ぶりに女神から休憩を取ってよしのお言葉が出た。最初は本気で聞き間違いだと思ったそれに一人一回ずつ確認を取って、どうやら本当に休憩していいようだと理解した私たちの胸にあったのは──安堵よりも不安。あれだけ苦と労を課すことを強調し、実際に試練を怒涛に畳みかけてきた女神のいきなりの心変わりだ。そりゃあ安易に喜べはしない。警戒のほうが勝るのはごく自然な反応だと思う。


 来たるチャプター9はよっぽど、鬼畜なくらいに難度がまた激上がりするのではないか。そんな風に考えてむしろ私たちは暗い気持ちにまでなったんだけど、女神が休めと言うのなら休まないわけにはいかない。それにいくら疲労に慣れたと言ったって休みを欲していないわけでもないのだ。どこかから女神が用意したふかふかのソファーにおずおずと座り、リラックス体勢に入る。


 いやぁ、とろけるかと思ったね。かれこれ相当に長い時間、それぞれのチャプターでミスってぶっ倒れる以外では立ちっぱなしの力みっぱなしだったものだからさ。その緊張からの解放で得られるカタルシスは半端なものじゃなかった。つーか自分で自分の疲れっぷりを舐めてたわ。ただゆっくりと座れるってだけでこんな、ありえないくらい極上の快感を味わえちゃうほど身も心もボロボロだったのね私。私だけじゃなく私たち。


 我ながら超だらしない顔になってるって自覚があったが、横を見れば皆もだらしない顔になっていた。たまーに笑う以外じゃ顔面が鉄でできてるのかってくらいいつも澄ました表情をしてるカザリちゃんでさえも、だ。例えるなら疲れ切ったキャリアウーマンが十年ぶりくらいのまとまった休暇を取って温泉に浸かったところみたいな。そういう至福の心地良さを堪能している顔だった。


 わかる、わかるよ。またこのソファの座り心地がとんでもなくいいもんだからねぇ。バルフレアとの戦闘後にシズキちゃんが用意してくれたショーちゃんソファもすごかったけど、あれにも負けない、いやむしろ勝ってるんじゃないかっていう絶妙な柔らかさとフィット感だ。これはショーちゃんソファを上回るものをポンと出してしまえる女神の神パワーに慄けばいいのか、それとも神パワーとも互角に近しいレベルで競えるシズキちゃんの創造力にひれ伏せばいいのか、実に悩ましいところだ。まあ後者にしとくかね、女神にこれ以上大きな面はしてほしくないし。


「大きな顔をしているつもりもなければ、したいとも思っていませんよ。あなた方へ与えるこの褒美・・はこれまでに休息を取らせなかったのと同様に、必要な措置として行っているだけのこと。そこに特別な意味を見出すのはあなたのあなたらしさとして尊重されるべきものですが、どうか誤解だけはなきように」


 チクリと女神が刺してくる。お休み中にも思考リーディング&訂正を欠かさないとはこの女神、どこまでも慈悲のない女神だ。なーにが慈母の女神なのよ、マジで。私らに対してその呼び名に相応しいこと一回でもしてくれたことある? ないよ、ないない。訊くまでもなくないっす。逆に慈悲とは真逆の苛烈な運命ばかり背負わされてきてんだもの、まったく信じらんないよね。


 世界を丁重に守れるのならもう少しくらいそれの役に立ってる私たちのことだって丁重に扱ってくれてもいーんじゃないの。や、世界を守るために女神は私たちを「使っている」側なんだから、道具に入れ込み過ぎの気遣いなんかそりゃできないだろうけども。最低限のメンテナンス以外では保護のしようもないってのはわかるんだけど……わかっちゃいるんだけどこう、もっとなんかないのかって思っちゃうよね。どうしてもこっちとしてはさ。


 まーいいや。必要な措置だなんだと言ってもこうして念願の休憩を貰えているのは事実。そこに感謝だけはしておこう。小さくね、小さく。女神もただがむしゃらに私たちへ負荷をかけているんじゃなくて、ちゃんと調節しようとしているってのがわかって少しは安心できたし。


 それだって女神からすれば指導に欠かせないことを欠かさずにやっているだけだと言うんだろうし、こんな長丁場で鬼畜難度の訓練を課されているこちら側としてもそれくらいの管理はしてもらって当然だとも思いはするけど……むしろもっと甘くしてくれたっていいんじゃないのと心から思いはするけど、これも思うだけで口にはすまい。そういうわけにもいかないってこともわかっているからだ。


 これだけ休憩やら失敗のリスクやらで負荷をかけて、時間を切り詰めに切り詰めても長丁場になっているんだから──もはや私にはこの真っ白空間に呼ばれてどれくらいの時間、いやさ期間が経過したのか体感でも想像でもまったく判断できなくなっている──もしも私たちに無理のない、過剰な罰を下さない「甘い方針」に女神がシフトなんてしたら、それだけ成長も遅くなり、今でさえ終わりの見えないこの試練がマジで果てのないものになってしまう。


 認めたくないけど、処刑レベルのとんでもない罰は確実に私たちのバネになっているからね。本当に認めたくないけど、心底から受けたくない罰のあるなしで必死度はやっぱり変わってくる。仮に罰がなくたって私たちの中に本腰を入れて訓練を受けない子なんているはずもないけど、一所懸命と一生懸命ってどうしたって違うからね。今の私たちはまさに試練のために、灰らしい灰になるために生きている。そういう状態であり、そういう状態に女神がした。それはここまでのチャプターの進展の一助にも二助にもなっている、否定しがたい女神の管理能力の高さの裏付けでもあった。


 いい指導者ではないけど、優秀な指導者ではある。灰を持ったことがないと言う割には女神の導きは確固たるものだ。それもまた神としての能力なのかもしれない。対する私たちは、優秀な生徒であれているだろうか? こんなに切り詰めてもまだチャプターの終わりが見えてこないのは、指導の的確さに反して私たちがそれに応えられていないからじゃないかと。長丁場になっている責任は全てこちらにあるんじゃないかと、そんな風にまで考えてしまう。


「それは違います。あなた方の潜在能力を引き出せないのは全てわたくしの不徳の為すところ。灰が如何様にして灰らしくなれるかはその持ち主に依存することなのです──完成に至るまでの功も責もあまねくわたくしへ掛かるもの。あなた方にそれらが問われるのは灰として完成して以後となります」


「それまでは、なんの責任も生じないってわけだ? 完成までが遅くたってそれは私たちのせいじゃないと」

「その通り。あなた方は未だ孵っていない。卵の段階でその成長にとやかくと文句を付けられる道理はどこにもございませんでしょう?」

「あーね。そりゃそうだ」


 孵っていない卵、か。これでもミニ女神に挑んでいた段階からすればかなり、そりゃあもう先進的に前に進んでいるつもりなんだけど。でもちゃんとした完成を迎えるまでは女神の目には「生まれていない」も同然ってこと、なんだろう。そしてそこに至るまで私たちは女神と共に真っ白空間で過ごさなくちゃならないと。


 あーあ、早く孵りたいもんだよ。



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