350 ただ死んでるだけ
チャプター2の内容をもう少しちゃんと説明すると、ペアを組んでどっちが神力の制御を早く成功させるか。それを一度やって勝った負けたではい終わり、というものではなかった。それだけで終わるようじゃ訓練にはならない。わざわざチャプターのひとつに区切られるほどの試練ではない──ので。
まずは十戦。想起&静清の競争を十回行い、結果がどうあれそこで二分休憩。その後に再開、今度は勝ち越した側が負け越した側にレベルを合わせて想起も静清も同時になるよう目指す。負け越し側は気にせず勝つつもりでやる。そういうやり方でまた十戦し、勝ち越しと負け越しがそのままだろうと反対だろうと勝敗が出ているなら二分休憩後に再び十戦。これを五対五、きっちりと勝ち負けが同数になるまで続ける。それもワンセットではなくファイブセット。要するに五十回やって二十五と二十五で綺麗に別れるように、それもワンセットごとに五・五のバランスが崩れないように達成しなければこれまた延々と……「永遠」とチャプター2が繰り返されることになる。
言わずもがなとんでもない訓練だ。またしても先のチャプターがお遊びだったと思わされるくらいにキツくてしんどくて投げ出したくなるような、逃げ出したくなるような試練だ。クリア条件の達成難度自体もそうだけど、これをあくまでペアのお互いが「勝つつもり」でやらなくちゃいけないってところが狂ってる。狂いまくってる。協力して勝ち負けを半々にしようとしたって想起と静清そのものの難しさから達成が困難だっていうのに──まあ、そんな真似はなんでもお見通しの女神相手には当然に筒抜けになってしまうため元からやりたくてもできないわけだけど、そこも含めてめちゃくちゃな訓練だよ。って、これは対ミニ女神戦でもチャプター1でも抱いた感想だけどさ。でも今度こそマジでめちゃくちゃ、真なるめちゃくちゃだ。
で、ここまでがシズキちゃん&コマレちゃんペア、カザリちゃん&ナゴミちゃんペアが必死になってやっている内容。そしてこの説明をされながら女神相手に奮闘している私の訓練内容は……ペア練のそれとははっきり言ってまったく別物だった。
「ぐぺ」
全身が破裂。比喩でも冗談でもなくガチで肉や骨ごとに皮膚が千切れ飛んで四散した、ところを映像の逆再生みたいにバラバラになりかけたそれらが集い、元通りの私になる。死を実感するような激痛を受けた次の瞬間にはその後味だけを残してなんともない、という悪夢のような現象。それを何度も何度も。数える意義を早々に見失ったので正確な回数は不明だがとにかく数多く、私は爆死とそこから力業で引き摺り戻されることを繰り返している。
こんなことになっている原因はただひとつ。女神の想起が強烈過ぎるせいだ。
私のペアが女神である以上、競争にはならない。私たちの神力の大元である女神相手に神力勝負なんて成立するわけがないんだから、じゃあ何をするのかって疑問に思った私に告げられたのは「抗うこと」。女神がやる想起をなるべく緩やかに無理のない想起へ自分で変える。それでも限界に達して暴走状態になればそこから静清で抑える、という競争とはまた趣の異なる訓練だった。どちらかと言えばこちらのほうがチャプター1からの正統な発展に思える。言い換えれば皆のやっていることよりも進歩がないようにも、思えた。
「一歩先んじていながら皆と足並みが揃っている。それは出遅れているのと同じですよ。ですからあなたのペアをわたくしが務めるのです」
ペアの決め方もテキトーなそれではなく、ちゃんと女神なりに各々の力量を見極めての組み合わせらしかった。チャプター1の開始時と終了時では神力への馴染み方の度合いも変化があったようで、具体的に言えばナゴミちゃんがコマレちゃんを追い越した。や、明確にナゴミちゃんが上に立ったっていうよりもあくまで想起と静清の範囲においては少しだけ前に出た、というのが正しい評価みたいだけども。なんにせよ(誤差レベルとはいえ)遅れている側だったのにすごいよね。
持ち前のセンス、あるいは例の共感力の高さがスタイルの不利を覆したか。それとも初期値こそ低くても高く伸びる順当な成長なのかは──女神曰く神力への馴染み方は個人差がとにかく大きいようなので──私にはわからないが、とにかく高評価を得たことでナゴミちゃんの対戦相手はカザリちゃんに、先行を許したコマレちゃんのペアはシズキちゃんになった。一応は、女神なりに互角の競争ができるように振り分けた形だろう。
そして私に関してだけど……どうも女神はチャプター1のクリアが皆と同時になった私のことを不甲斐なく思っているらしく。そこから逆算してチャプター2の内容がこうなったんじゃないかってくらいに私だけがスパルタの訓練になった。いやまあ、言った通り皆がやってるのだって充分以上にヤバいものだよ? そこはまず前提として、でもそれ以上に私のやってることがもっとヤバいよねって話よ。
だってもうこれ訓練じゃないもん。拷問の域すら超越して処刑だもん、処刑。エンドレス処刑だ。女神の遠慮を感じない想起に私なんかの制御が太刀打ちできるわけもなく、あえなく暴走。その暴走だってちっとも抑えられずに爆発四散し続けてるのが今の私であるからして、つまるところ現時点ではなーんにも成長がない。皆は少しずつ競争が拮抗してきている様子なのに対して私だけがこのチャプター2で未だになんの成果も得ていないのだ。
ただ死んでるだけ。単なる死に損をこいてるだけだ。
「ふむ。足並みを揃える意味もなく、また死を連想する程の痛みを何度となく味わいながら、それでも足踏みを続けるとは。あなたの精神力にはわたくしも感服するばかりですよ、はるこ」
女神からすれば私はチャプター1を速攻でクリアするはずだったし、このチャプター2にしたってもっと簡単に次なる「兆し」を見出すはずだったのだろう。彼女らしく言うなら相応の苦と労を課されれば灰は自然とより灰らしくなっていくわけで、私の体質? 才能? を踏まえればそれはなおさらのことであり、また今私に施されているこの処刑、もとい訓練での負荷は成長をこの上なく促す高レベルの負荷である──あくまで私たちの段階での高レベルだが──というのに、私の神力制御力の向上は女神にとっても信じがたいほどに遅々としたものだと言う。
その言い方からして、私なりの実感とは異なりまったくの無成長ってわけでもないみたいだけど。しかし牛歩どころか蝸牛の歩み並みに進展が鈍いと言われてしまえば私も顔をしかめる以外にない。なんたって目覚ましい成長を遂げるまでこの処刑は続行されるわけで、それで苦しむのは他ならぬ私なんだからいい加減に苦情のひとつやふたつ……いや十や二十も言いたくなってくる。
「やっぱおかしいって! 私が腑抜けの才能無しだってのはこの際認めるからさ、あんたも認めて!? 絶対加減を間違ってるでしょそっちも!」
「否」
「否ぁ!?」
「あなた方の兆すところを見定めるわたくしが、掛けるべき負荷を見誤るとお思いですか? 適正にして適切。あなたに課されている試練はあなたが乗り越えるべきものであり、必ず乗り越えられるものであることをここに誓って宣言いたしましょう。無用の疑念はただ目を曇らせ想起と静清を乱すばかり。今一度集中を、はるこ。あなたに足りていないのは畢竟、『受け入れない覚悟』なのです」
なんでも受け入れる体にしやがったのはお前だろうが、とは言い返す気力もなかった。
皆と違って僅か十秒の短すぎる休憩が終わりを告げ、また私の連続爆死が再開された。……次の十秒が来たら遺書を書いたほうがいいかもしれない。それこそ、死ぬ気で。




