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334 恩義

「さ、寂しそう? あの女神が?」

「はい……特に根拠もなく、本当に勝手に、そう思っちゃって……親近感みたいなものを、覚えてしまったんです。わたしもすごく、皆さんと出会う前までは本当に、毎日が寂しくてどうにかなりそうだった、ので……」


 私が第一印象として女神のことを胡散臭い美女であると感じ取った一方で、シズキちゃんはそこに寂しさを見出して、自分と重ねてまでいた。同じ人物ものを前にしてこうまで受け取り方が違うとは、とんでもない落差だ。落差があり過ぎていっそ面白いまであるな。


 ナゴミちゃんは共感能力に優れているという話をしたばかりだけど、それで言ったらシズキちゃんも相当なもんだね。だってあの女神だよ? 超然とした上位者の態度を隠しもしない、隠すっていう発想すら持っていなさそうな死ぬほどナチュラルに上から目線の、超絶美人。そんな相手を一目見て寂しそう、だなんて誰が思える? や、シズキちゃんはそう思ったみたいだけども、少なくとも私には無理。私に限らず世の大多数が無理でしょ。


 まあ確かに? たった一人で世界を管理する職務に励んでいる女神ほど孤独な存在も他にはいないわけで? あんな態度であっても彼女自身にもわかっていない寂寥感がそこにないとは私も言い切れないし、もしも真実女神が寂しさとは無縁の女であったとしても、その在り方を見てシズキちゃんが自分の寂しさを重ねるのは何もおかしなことじゃないだろう。だろうけど、だとしても私は絶対に、女神に対してそんな感想は抱けない。


 抱きたくもない、というのが本音だった。


「優しいね、シズキちゃんは」

「い、いえ……自己憐憫、ですから。優しさとは、違うんですけど……でも、女神さまがどんな非常識なことを言ったりやったりしても……わたしたちとは常識が違う、わけですから。しょうがないのかな、と思ったりもして」

「大目に見てあげようって気になるんだ」

「は、はい」


 やっぱ優しいじゃん。底抜けに優しい子じゃん、シズキちゃん。私にはないな、そういう強さは。情状酌量の余地があるかどうかは、マイナスに対してプラスもあるかどうかで計算するのが私だ。そこをシズキちゃんはマイナスの中にも何かしらの事情があるかどうかを重視して、まったくプラスの行いがなくたって減刑・・をするわけだ。そういう許し方を私だってまったくしないとは言わないけど、でもどこかにプラスを見つけられないことにはやっぱり厳しい目で見ちゃうよね。


 それが一般的で、シズキちゃんのほうがどちらかというなら珍しいんじゃないかと思うんだけど……これは私なりの感性だからどっちがどうとは断じれもしないか。


 ただどちらにしたってシズキちゃんが特別、人の弱さに大らかな少女だってことに変わりはない。だからこそ、こんないい子を目的のために駒として利用している女神へ余計に腹が立ちもするってものだ。


「そこでハルコさんが怒るのは筋違いなのでは? シズキさんとしては各種ケアの拙さはともかくとして勇者に選ばれたこと自体には不満もない、というかむしろ、コマレと一緒でその点については女神様に感謝申し上げたいくらいなんですから。ねえシズキさん」


「はい」


 シズキちゃんはしっかりと、迷いなく肯定を返した。


 むう。考えてみると、それもそうか。前提と言うならまずそこから違っているんだ──元の世界から逃げ出すための切っ掛け。女神の誘拐をそう捉えている彼女たちとは、女神に対するファーストインプレッションに差があるのは当然の話だった。


 もちろん、真の最初も最初で言えば皆だって得体の知れない女神への警戒が何よりも勝っていただろうけど。この面子で旅をしながら危機を乗り越えていく内に、そこに確かな楽しさを見出していた彼女たちは──言わずもがな過酷な中にも楽しさを覚えていたのは他ならぬ私もである──やがて女神へ警戒と不信だけでなく、それを上回る感謝も覚えるようになったと。つまりはそういうことなんだ。


 なーるへそ。通りでねぇ。これに関しては前々から薄々と感じていたことなんだけど、私と皆とで女神への不信感の度合いがちょっとだけ違ってたんだよな。


 貰った祝福が私だけ意味不明だったってのもあって、そこはまあ皆との不満の熱量に差が出るのは何も不思議じゃないんだけど。でもそれを抜きにしてもだ。まだこっちの世界の右も左もわかっていなくて、それをバロッサさんから教えてもらっていた辺りでは言ってもまあまあ同じくらいの熱量があったんだよね、私の記憶が確かなら。でも次第次第に、気付けば私ばっかりが女神をメタクソに言うようになってたのよ。


 私が根に持ち過ぎってのもあるにはあるかもしれないけど、だとしても皆が妙にカラッとしてるなぁとは気になってはいた。なので、人にはどうしても相性ってものがあるように、女神と私の相性が特別に悪いんだろうかとも思ってたんだけど……またまた謎が解けたね。そこのズレも元の世界での境遇の違い。そこから来る「女神に恩義を感じているか否か」の違いだったわけだ。


 納得だ。どんなに胡散臭い誘拐犯だろうと恩を感じちゃっているならなかなか悪口一辺倒にはなれないだろうさ。私はそんなもの女神に対して一切持ってはいないので、好き放題に言えちゃうけれど。皆はそうじゃなかったんだ。


 それなら確かに、シズキちゃんが攫われてきたことに私が憤りを覚えるのは筋違いもいいところだな。彼女がそれに対して怒っていて、でも怒り方を知らないものだから怒れない、っていうのなら私が代わりにその怒りを女神にぶつけてもよかったんだけど。そこまで怒ってもいなければなんなら少なからずの感謝までしているとなったら怒り代理人の出番なんてないわな。いや怒りの代理人ってまずなんだよって話でもあるけど。


「ハルコの立場なら女神に隔意しか持たないのも、わかる。フラットな目で見るなら女神はそういう扱いを受けても仕方ないことしかしていない……私も感謝こそあれ、女神を信じ過ぎないようにしたいとは思っている。信じることを前提に考えているのは我ながら『選んでもらえた』とはしゃいでいるようで、恥ずかしいけれど」


 と、カザリちゃんはやはりどこまでもクールに自分のことをこの上なく客観視した意見を述べながら、続けて私に向けて言った。


「だけど、私たちと違って取り払わなくちゃいけないバイアスなんてないのに。ハルコはそれでも手伝うつもりでいる。恨み骨髄の相手の助けになって、その手先になってこれからも戦うつもりでいる……私からすれば女神以上にそっちのほうが不思議」

「言われてみればそうですね。ハルコさんこそあれだけ日頃から女神様への不平不満を口にしていながら、どうして女神様の利になることができるんです? その激しい怒りは意地・・を優先させない理由にはなり得ないんですか?」


 その問いかけは、コマレちゃん自身は意地を張らない理由になると捉えている。それだけ私の女神に対する恨みが深く重たいものだと見做しているってことでもある……そしてそれは決して間違ってはいないと私も認めるところだ。


 恨み骨髄ってのは、まさにその通り。特にマジであやとり+αくらいのことしかできなかった初期も初期は、そんな状態で命懸けの使命へ放り出してくれやがったあんちくしょうへの燃えるような怒りが常にこの心身を焼いてやまなかった。それから段々と力がついてきて、どう戦えばいいのかかがわかってきてからも、一度燃え上がったものは収まらなかった。むしろ折に触れて燃料が追加されたりもしてきたものだから私の怒りの熱量はずっとキープされてきている。


 それは色々な種明かしが終わった今だって変わらない。私はやっぱり女神が好きじゃないし、信用ならないし、できることなら一発蹴り飛ばしたいという野望を捨てていない。


 ──けれど。



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