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333 どうせ戦わせたいんだったら

 何もかも女神が織り込み済みなんだとすると面白くはない。だってそれじゃあ、私たちが必死こいて頑張って成し遂げた魔王討伐も、リスクを承知で決意した「灰への昇格」も、全てが女神の筋書き通りの展開。私たちの意思なんて関係なくそうなる・・・・と決まっていたかのようで……もしも本当にその程度の認識でいるとすれば、ハッキリ言って不愉快だ。そしてあの女神ならそれも全然あり得るだけに。私たちの「今」が全て自身の企てた予定調和だと思っていてもまったくおかしくないために、私はやるせなくなる。


 そんな傲慢での気持ちをまるで知らない、知ろうともしない奴の配下にこれからなろうとしているのかと思うと、心底やれやれだ。


 勇者である現時点で私たちはこの世界の住人からすれば神の遣い。つまり配下だっていう扱いに変わりはないんだけど、そこは女神も説明していた通り、やっぱり勇者と灰とではどう考えたって格が違うからね。そこが何よりの問題になっている。


 勇者はまだ人間で、自分というものがある。だけど灰になってしまえば私たちは揃って勇者という職(なのか? あまり深く考えてこなかったけど)だけでなく人間という種族まで卒業することになってしまう。そしてそれはともすれば不可逆のものになりかねない。


 ……灰から人間に戻れる手段もあるにはあるようだけど、それは簡単な道のりではないようだし、これまたあの女神のこと。私たちが灰に戻れるかどうかはこれから先の要点にはまったく含まれていなくても不思議じゃない。というかなんなら灰のままこちらの世界で生きていくことになったらラッキー、くらいに考えているかもしれない。


 もちろん、灰から戻れなくなっても……人間でなくなったままだとしても、次の波を乗り越えたなら元の世界に帰りたい。私はそう願っているけれど、でもそれは「今の私」が願うこと。「灰になった私」が果たして同じ願いを持ってくれるかどうかは、なんとも言えない。それはそうなってみなければわからないことであり、そしてなってからではもう遅い、くそったれオブくそったれな未知数。しかも、だ。仮に灰になっても帰還を望んだとして、そしてもうひとつ仮にそのときの女神が滞りなく帰してくれたとして、しかし人間でない私に元の世界で元のように過ごせるのか、という更なる未知数まである。


 とまあこんな具合に、これらを筆頭に「灰への昇格」にはとかく問題点が付きまとう。当然だ、人間をやめるってのはそれだけのこと。言葉にすれば軽いし冗談にしか聞こえないけれどそれがマジに起こるっていうんだから私たちの不安は計り知れない。きっと実際にはこうして考え得る以上の変化があるはずだしね……その全部が、いざ灰になってみたあとには何も気にならなくなっているかもしれないと想像するとなんともゾッとする。それはもう私であって私じゃない別の何かだろう──そう怯えているのは皆も同じで、だけどその怯えをないものとして私たちはこの道を選んだ。


 戦うことを、そのために変わることを選んだ。


 そう、私たちが選択したのは帰還と未帰還の二択ではなく──意地を貫くか否かの二択。最後までやり遂げるかどうかの分かれ道だったのだ。


 突き付けられた選択肢をそんな風に捉える五人だと。女神にはそれものはやはり、間違いないだろうと私は思う。


「まさかハルコさんは、『大いなる波』を越えた『その先』でもコマレたちを戦わせるつもりだと。果てなく灰として使い続けようと画策していると疑っているんですか?」

「……うん。どこまで女神が具体的にそういう未来を思い描いているのか、それにどこまで本気なのかはともかくとしてさ。まったくそういう欲がないとは言えないし、思えないよね」


 皆もそうじゃないの、と逆に問えば、その点もまた皆して近からずとも遠からずの懸念は抱いていたらしい。うーんと難しい顔と声での呻き声があちこちから上がる。


「灰としての活動がどこで終わるか。終わらせてもらえるかっていう前提部分が変わっちゃうとこっちの選択の意味も変わってこない? 帰還云々のことは置いておくにしても『人間をやめたままでいい』なんて思ってる人はいないでしょ──いないよね?」


 そこも私は当たり前のことだと思っているんだけど、同じくそう思っていた「皆は帰還を望むだろう」っていう予想がとんでもない大外れの的外れだったものだから急に怖くなって念のための確認を取ってみれば、良かった。さすがにそこは私の考えも一致しており、誰も「ずっと灰のままでいい」なんて言い出すメンバーは出てこなかった。あーホッとした。ここでも私だけが反対の立場だったらもう泣いてたよ。


「いやぁ、存在としての格が上だなんだって言われたってよくわかんないし、やっぱり怖いよねぇ。人間じゃなくなるなんて……貴重な体験ではあるからちょっと面白そうだとは思うけど~」


 と、持ち前の呑気さというか楽観思考でナゴミちゃんは言うけど、そんな彼女でも灰になることに対しては楽観100パーになれない。忌避感のほうが強く出ているってことが、私たちの抱える不安の大きさをよく表していると言えるだろう。


 取り返しがつかないってのはそれだけ重大なのである。しかも、強制的に魔王討伐に放り出されたあのときとは違って今回は一応、本当に一応程度だけど選択権が自分にあるっていうのがまた余計にやらしいというかややこしいというか、スパッと決めきれない原因になっている。


 女神もどうせ戦わせたいんだったらいっそのことこっちも強制にすりゃよかったのにな。なんでそこだけ当人の意思を尊重します的な善性を滲ませようとするのかわからん。滲ませられてないし。私たちが残ることを基本にしてプラン立ててる時点でそんなもん滲まんし。百歩譲ってそこに目を瞑ったとしてもまず魔王討伐が強制だった段階でもうおせーし。

 その前科があるからにはいきなりさも配慮してますよ面したって手遅れなのよ。そんなんで帳消しにゃならねえし信用なんてできるわきゃねえ。


 ってところまで女神はわかってるんだろうか? わかってないんだろうな。私たちの人の好さに付け込んで先を見据えることはできても、そういう人の心理的な部分は見えないっていうか、とんと無頓着なのがあの女神だろうから……そういう部分も灰になるのが怖い理由なんだよなぁ。ホント、自由に動かせる強い手先が欲しいってんなら初めから私らの信用を勝ち取れるようにそこも計画しておけって話だよ。上手に騙してくれるなら私だって文句も迷いもなく、気持ちよく協力できたっていうのに。


 ということを愚痴として零せば。


「そ、そんなに女神……さまのことが、嫌ですか?」


 最初に反応を返したのは意外にもシズキちゃんだった。それにちょっとだけ驚きつつも、私はその問いを反芻して考える。


「嫌、か。まあそうね、嫌いっていうより嫌って感じだね私は。一目顔を拝んだ瞬間からどうにも胡散臭さが勝ったっていうか、『合わないな』って思ったんだよね……そしてそれが案の定だったわけだけど。シズキちゃん的にはそうでもないの? 女神に対して思うところは、あんまない?」

「ない……わけでは、わたしもないんですけど」


 言葉を探しているのか、それとも私と目を合わせることに照れているのか、まだ頬に赤らみを残したままシズキちゃんはもじもじとして。


「わたしは、女神さまを一目見たときから……なんとなく、ですけど。なんだか『寂しそうな人だな』って、そう感じたんです」


 と言った。



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