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305 過干渉

「あんた、さっきは自分にミスなんて無いって……」

「それは今期を指しての言葉。初期に関してはその限りではありませんよ。手探りのままに成功した初回を下敷きに二回目、三回目と魔王期を重ねることで少しずつ形になっていったのです。試練の旅路や儀の巡礼といった伝統が出来上がったのもそれ故。各時代の要人へ宣告することを始めたのも三回目からですね。そこからぐっと魔王期が安定したのを覚えています」


 回によっては魔族から与えられた被害が大きく、大量に戦死者が出たり出なかったりもしてきたそうだが、女神の言う安定とは死人の数の多寡ではなく滞りなく魔王期が進み、そして終わることを意味している。究極的に言えば第三大陸が丸ごと滅びない。勇者が途中で死なない。魔王が生き残る。この三つのトラブルさえ起きなければ女神にとってはそれでいい。余程に人類が死のうともひとつの大陸の被害で済んでいる内は、次の魔王期までの百年から二百年というインターバルで充分に回復・・ができる。ちゃんと備えが終わるからには何も問題なし、という理屈だ。


「宣告って『女神のお告げ』って呼ばれてる例の夢のことだよね。やっぱあれって助け舟とかじゃなくて、あんたが思い通りに人を動かしたかっただけってわけね」


 結果的に人類にとっては助け舟になっているから別に悪いことではないんだけどさ。ただ、女神はどこまでも恣意的にしか動いていないっていうのに、人類からすれば慈悲深い行いにしか見えないっていうのがやっぱり納得のいかない部分ではある。


「はい。わたくしが勇者の妨げになるものを退かしたり、あるいはその反対に成長を促すために妨げを用意するのも、世界への過干渉。魔族、そして魔王と戦う前に戦闘の経験を積ませること。それも段階に合わせた順序で試練を与えるにはやはり、現地民への促しこそが最適な方法でした。しかしそれさえも直接的過ぎれば均衡によろしくない影響を与えかねませんから、どうすべきかを教え諭しつつも本人に裁量の余地を残すこと、これが肝要です」


 そうでないと結局のところわたくしが手を下すのと同じになってしまうのです、と女神はやれやれとでも言いたげな困ったような雰囲気でそう言った。


 ふーん、なるほど? 私が思う以上に女神の干渉には制限というか制約が多いようだ。そしてこの言い方からすると、どれだけ手を出すとどれだけの影響が出るかについては女神もきちんと把握できていない感じがする。まあ、そこの区分がはっきり付いているならそもそも魔王と勇者のシステムなんて遠回りな解決手段を取る必要もない。人種間闘争を終わらせるってけなら女神にはいくらでもやりようがあるんだから。


「ええ、世界は揺蕩う水面の如し。投げ込まれた一石がどのような波へ至るかは神の目にも覗けぬこと。さざ波に収まるのを期待して恐々と触れるわたくしたち管理者にも苦悩があるのですよ」


 大変な思いをしているのはシステムを遂行する私たちや世界の人々だけじゃない……というか、本当に大変なのは管理者である己なのだとでも言いたいのだろうか。聞くぶんには確かにそれなりに苦労していそうだとは思うけれど。


「それなり、どころではありませんね。行き過ぎれば取り返しがつかないだけにそれはもう慎重に、過度なまでに丁寧に調整しなければならないのです。初回などは特に大変でした」


 カルメラに祝福を与えてやった時点で干渉度は天井スレスレ。なものだから、人類側にはろくな導きを授けられず、初代勇者をメッセンジャーとすることでなんとか団結を促した。そっちでもまた一歩間違えれば全てが終わっていた程度には危うい綱渡りをしたのだと、女神はまさに昔の苦労話を聞かせる体で語った。


「勇者をメッセンジャーにって、初代さんにはそれだけ詳しく世界のこととか、何をしなくちゃいけないのかってのを説明したってこと?」


 その質問に女神は肯定を返した。さっきからあっさりとした「はい」の返答にはまたぞろ鬱憤も募りだしていたが、私はそれを流して重ねて訊ねる。


「じゃあなんで私たちにはあんなにテキトーだったのさ。初代さんに何もかも話したってんなら毎回ちゃんとそうしてもいいでしょうに」


 初代勇者だって魔王城の仕組みとか知らなかったこともあったみたいだから、本当に何もかも説明を受けたうえで魔王退治を始めたってわけでもなさそうだけど。でもこっちの世界の人たちへ女神の意思を伝えられる程度には事情を理解していたのは間違いないわけよね。すると。ほとんど何も理解できていないままほっぽり出された私たちなんかとは事前に貰えた情報量に雲泥の差があるのは明らかだ。


 その不満をぶつけたが、けれど女神はやっぱりアルカイックで。


「それこそ過干渉への対策に他なりません」

「対策?」

「初代勇者へ祝福だけでなく少なからずの知識をも授けられたのは、対になる初代魔王へ同じだけのものを授けていたからです。勿論、与えた才も情報もそれぞれに異なりますが、質量・・は同等。白と黒の片方にだけわたくしの加護という重石を乗せるのではそちらの方が遥かにバランスが悪い。理解できますね?」

「それは、まあ」

「ですが、そうやって天秤の加減を求められているということは即ち、いつ崩れてしまってもおかしくない状況でもある。それ以上の大きな干渉ができなかったのはそのせいなのです。これも理解できますね?」

「それも、まあ」

「そしてそれは初回故のこと。回を重ねながらわたくしは魔王から遠ざかり、それに伴って勇者との接触も最低限のものとしました。何故ならわたくしが勇者に自覚を促さずとも、現地民が既に勇者というものがどういう存在なのかを理解しているからです。知識を授けるのは彼らの役割となり、わたくしはそんな彼らの助けとなるように干渉の対象を現地民や現地生物へと移していったのです」


 つまり……勇者にも魔王にも深く関わらなくなったことで浮いた干渉リソース(この言い方でいいのかはよくわからんけど)を、お告げだとか試練の用意とかに当てられるようになった。魔王期がどんどん安定していったのはそのおかげだってことか。


 言われてみればお告げ無し、試練という成長イベントも無しまたは自分たちで見繕わなくちゃならないとなったら、死ぬほど大変だ。死ぬほどっていうか死ぬ。お膳立て何もなしだとまず現地の人々と信頼関係を結べるかさえも不明だもの。


 勇者の伝説こそ伝わってはいてもお告げによる来訪の知らせがなければ私たちが勇者だって名乗ってもその証明、というか信じてもらうのには時間がかかるだろう。それに、まず最初にバロッサさんみたいな指南役に選ばれた人との出会いがないとなるとその後の全ての工程に大幅な遅延が発生して、結果として何もかもが上手くいかなくなる可能性も高い。単純に魔族が本格的に動き出すまでに成長が間に合わないってのも含めてね。


 そういう補助がほとんどないままに人々の先頭に立って魔境にまで乗り込んでいった初代勇者ってマジですげえや。カルメラっていう傑物に対抗できるようにと女神も相当な吟味をして逸材を選んだと見える。少なくともそのときの勇者が私で、しかも一人きりだったとしたら何もできない自信があるわ。まだしも呼び出されたのが五人一組勇者である今期で良かったって思うべきかな──って。


 そうだよ、一番の疑問はそこ。真っ先に訊ねなくちゃいけないのはこの部分だった。


「初回のことはわかったからさ。なんで今回がこんなにイレギュラー尽くしなのか、そこもちゃんと説明してもらえるかな」



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