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303 ゲーム

 まとめると、カルメラはあくまでも主導権争いのゲーム。その一方のプレイヤーになることを了承しただけだった。間違っても「倒されるべき悪役」を務めたわけじゃなかった。


 ただでさえ強い魔人の中でも突出していた彼が女神に祝福されたことでその強さ──女神曰くに「存在としての格」は本来あるべき天井を打ち破り、魔王として君臨させた。その際に彼は目覚めた異能力ユニークによって魔人を一人残らず自らの血縁とする「血の支配」を行なった。アンラマリーゼも言っていた儀術と呼ばれる危険な魔術も加えて実行されたそれは見事に魔人全体の強度を引き上げ、そのときから魔人は魔族という人ならざる種族となって人類種から外れることになった……ここら辺は、一部しか伝わっていないとはいえルールスさんの知識にもあった通りの流れだった。


 こうして女神の思惑通りに魔族という人類種が手を組まざるを得ない新たな、そして絶対的な脅威が誕生した。のはいいけれど、元から生態系・・・でトップにいた魔人が更に強くなったのだ。数の少なさと個々人の強さ故のまとまりのなさで覇権こそ取れていなかったとはいえ、今後はそんな欠点も問題にならない。四人種がその脅威を正しく認識する頃には魔族が勝利する。それは目に見えた結末だった。


 これではゲームにならない。だから女神はいくつかこのゲームをゲームとして成立させるためのルールも定めた。


 戦争が始まるまでの準備期間、いわゆる「百日の猶予」の発祥もここにある。これは魔人の変貌とその力を知った人類側が対策を練るために与えられたハンデとしての猶予だったのだ。現在では復活した魔王が百日をかけて力を取り戻すからこそ生じている時間だと受け取られているしそれ自体は間違っていないけれど、そもそも力を取り戻すのに百日かかるように設定したのも女神だ。魔王期が繰り返されている中でそうやって今の形になっていったのだろう。


 そう、女神は初めから何度となく魔王期を、魔族と人類種とが争うゲームを繰り返すつもりでいたんだ。人種間闘争と同じように……だけど人種間闘争と同じにはならないように、人という生き物を団結させ続けるために。


「カルメラ率いる魔族にあまりに有利では、四人種が一方的に虐殺されるだけになります。魔族が勝利すればそのまま世界の覇者となって統治すればいい。そう申したのも勿論嘘ではありませんが、それでは結局のところ世界が長続きしないことも目に見えておりました。わたくしとしてはやはり脅威たる魔族も、それに晒されて手を取る四人種も、共に末永く存続してもらいたかったのです。故の、ルール。カルメラに才を授けたのですから人類側にも祝福はあって然るべき。そう説き、わたくしは『勇者』の招来をゲームを行うための条件と致しました。魔王に対する人類側の希望として。カルメラは、面白いと一言それを笑って受け入れましたよ」


 ハンデの最たるもの……というより、ゲームに不可欠な要素として魔王という圧倒的な強者にも対抗できるだけの駒を人類側にも与える。本心はともかくとしてカルメラは──アンラマリーゼの大元だと思えばきっと本心なんだろうとは思う──これを快諾した。そうでないとゲームにならないと考えたのは彼も同じに違いない。ハンデがなければ、そしてあったとしても自身の勝利は揺るぎない。魔人がそもそも傲岸不遜な種族だったというのだからその自信はあったはずだ。


「そしてわたくしは勇者にも祝福を与え四人種を導く側に立つことも伝えました。その代わりにわたくしの計らいが功を奏し魔族が敗北し、魔王が討たれることがあったとしても、時を経て復活ができるように。再び魔王期ゲームが訪れるようにも設定を致しました。カルメラはこれを女神が向こうに回る対価であると理解したようですが、勿論そうではありません。魔族の敗北を目指す代わりに・・・・時機を辿りその脅威としての役目を復活させる。わたくしが呈したのはそういった条件でしたが。しかし、どのような受け取り方をするのも本人の自由ですからね」


 あえて何も言いはしなかった、ということだ。カルメラが開花させた「血の支配」と合わせて女神は魔王城の建設にも協力してカルメラと城を「一個」として紐づけ、彼が死しても魔王城がある限りは本当の意味での死にはならない。魔力を生み出し続けるその内部では留まり、やがては新たな肉体を得て復活を果たす。そういう仕組みにしたらしい……はっきり言ってここら辺は詳しく説明されても私の魔術理解度、異能力ユニーク理解度ではちんぷんかんぷん。話されれば話されるほど訳がわからなくなっていったので割愛を頼んだ。


 とにかく、やはり魔王城はただの城ではなく、ルールスさんが目していた通りに魔王の復活や魔境の形成の根幹だったということだ。それがわかっていればその先を聞くにも困りはしなかった。


「わたくしは魔王が戦いを繰り返す度に必然と起こる効率化、そして万が一のマンネリによるモチベーションの低下を避けるために復活するごとにそのパーソナルに変化が加わるようにも致しました。力と記憶の一部こそ持ち越せども、別人となるように。同じ魂でも生まれや育ちが違えば別人になるものですからその点に関しては然程の不自然もありません。もっともカルメラはそっくりと『自分自身』が再生されるものと信じ切っていたようでしたが……訊ねられなかったのでわたくしもその誤解を解くことはしませんでした」


 そりゃ、自分そのままに蘇るのだと信じているからにはいちいち「それって本当に自分か?」なんて確認を取ったりはしないだろう。復活の約束を向こうからしてきたっていうのにそこを疑うなんて発想はまずない。私だったらそもそも復活っていうのがピンと来なくて質問攻めにしたかもしれないが、カルメラと同じ立場で同じだけの力を持っていたら、そこへ世界を守る神様が直々にお声かけしてきたとなれば、きっと私だって鼻高々に納得して鵜呑みにしていたことだろう。


 そういう起きるべくして起きた齟齬に女神は最大限付け込んだわけだ。と言っても女神の認識からすれば付け込んだつもりさえもないんだろうけど。あくまで正直に言いたいことだけ言って、どこにも嘘はついていない。確認を怠るほうに問題がある。それだけのことだと、それだけのことでしかないと思っている。


「初代魔王の君臨と宣戦布告、それと同時にわたくしが呼び寄せた初代勇者を御旗に、人類種は遅々ではありますがようやくと種族間の確執を取り除き始めました。ですが歴史上初となる歩み寄りですから、猶予期間があっても一枚岩にはまだまだ遠く。カルメラが魔族を兵隊として運用することに思いの外に手間取っていなければ、条件付けがあったとしても魔族の勝利が決定付けられていたやもしれませんね」


 突出した個人でしかないカルメラは、それだけに魔族を率いることの才能はあまりなかったと言う。平服させることはできても組織力を設けることはできなかった、と。あるいは、おそらくはカルメラが想定した以上に手厚かった女神の「導き」がなければそれでも充分に戦いの趨勢を決せていたかもしれないが。なんであれ女神は事前に取り決めた通りに人類側を守護し、思惑通りに魔族側を敗北へと追い立て──そしてカルメラが死亡する。いつかの復活を胸に彼は初代勇者に討たれた。


「かくして魔王と勇者、世界の恒常化のためのシステムが確立されたのです」


 と、女神は魔王期の初回についてそう締めくくった。



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