そろそろ納税か軍役かで軍役を選択した大名には天下普請を行わせようか
さて、なんやかんやを定めている間に年が明けて永禄10年(1567年)になった。
去年までは鷹司という公家の家であるとともに五摂家の持ち回りである関白太政大臣でもあったことで、宮廷行事をつつがなく行うために、必要な費用を俺というか島津家が出して行えるようにしていたが、関白太政大臣をやめ、直轄地における検地と武器狩りの方も順調に進み、全国の国司から中央朝廷のもとにも税がきちんと入るように手配を進めたので、今年はそちらから金を出せばいいようになった。
だから俺は上司たる天下大元帥の東宮様へ挨拶をするだけでいいのだ。
というか本来は国の行事を一個人が負担するほうがおかしかったのだけどな。
「では、二条新御所へ参内して来るのであとは頼むぞ」
「はっ!」
今年も今上帝の四方拝や元旦節会などは行われてるだろう。
その隙間を縫って東宮様にご挨拶を行い、五摂家の家にも挨拶回りを行い、正月の贈答品を贈っておいてそれなりに仲がよい所を世間にはアピールしておく。
翌日にはとんぼ返りで大坂に戻り新年の挨拶を諸大名から受けるが、その後は京へまた行って様々な宮廷行事に参加する必要がないのは助かる。
太政大臣で宮廷行事の差配担当といえば確かに聞こえはいいが、要は会社の宴会の幹事を立て続けにやらされるようなものだ。
とはいえお爆竹の馬揃えはことしも派手に華やかに行ったけどな。
きっと今上陛下や東宮様なども満足していただけたことだろう。
そういったことで正月を大過なく過ごした後に、納税ではなく軍役を選んだ大名を大坂城へ改めて集めていわゆる天下普請を行わせることにする。
「ここに集まったものは皆軍役負担を望んだものだ。
ゆえに我が国の防衛のために必要な城の改修や河川の治水、街道の整備をそれぞれ命ずるものとする」
史実では徳川家康が慶長9年(1604年)に諸大名に“天下普請”を命じている。
このときはまだ豊臣家が健在でもあることから駿府城、名古屋城、彦根城、二条城、伏見城、丹波亀山城、丹波篠山城など大坂城から江戸への侵攻があった場合にそれに対処できるような重要拠点の城を築城もしくは大改修したのだな。
こういった軍役は何も徳川家康が最初に行ったわけではなく、鎌倉幕府は元寇のときに博多周辺に防衛用の土塁をつくるように九州の豪族に命じていて実際それは役に立ってる……はずだ。
それはともかく天下普請における築城は、ほぼ外様の西国大名に行わせており、大名に対して大きな経済的負担を負わせその弱体化を図ってもいる。
もっとも徳川家も工事に必要な補助金は出したりしているようだが。
また、石垣造りを各大名に分担して担当させることで、それぞれの武将の名誉欲を刺激したり、忠誠心を量るねらいもあったようだ。
さらにこういった競争をさせた上で他の大名と揉め事を起こしたものや工期を守れなかったものは、軍役を行うための監督能力がないと改易となる場合もあった。
ちなみに名古屋城の築城を命じられた大名は、加藤清正、福島正則、浅野幸長、加藤忠広、前田利長ら豊臣恩顧の大名達であったが、彼等は豊臣の攻撃から徳川を守るための工事に従わされたわけだな。
もっともこの頃はまだ家康も豊臣を滅ぼすつもりはなかったかもしれないが。
「まずは大坂の町の埋め立て拡張、川の治水及び大坂城を改築するぞ。
それぞれの割当は書類にて定める。
なお工期内に完全な状態で普請をおこなえかったものは改易措置とするぞ。
逆に完成度の高い普請を行ったものは陸軍にてそのものを高い階級に据えることも考えるゆえ、それぞれ励むようにせよ」
「か、かしこまりました」
戸惑っているものもいるし、ここが好機と喜色を浮かべているものもいる。
基本的に普請に必要な資金や木材や石材、漆喰などの必要資材、輸送や工事に必要な人員などの人数の手配は大名の石高に応じて決める。
それに対して俺たちは補助銭の配布や食料の配給などはある程度行い、監督者である大名はともかく現場で働く者そのものには普請にたいして不満がたまらぬようにはしておく。
どちらにせよ、すでに通貨の発行権は俺たちが握ってるし、金は人の間で回さなければ意味がないからな。
戦の場がなくなっても働き口が容易に見つかり、それによって食べることに困ることなく、不安なく生活していけるようにすることは大事だ。
そして工事の期間もきっちり定め、城や堤などがちゃんと機能するかなどの仕上がりやそもそも工期をきちっと守れるかどうかで、大名の評価も今後は変わるのだな。
もっとも石高の低い大名などは軍役を担うことをやめ、納税の負担をすればいいように態度を変えるものもでてくるとは思うが。
事実上島津の直轄となる納税を選んだ国人などのところにはそういった負担は行かないが、そういった者が統治している場所の街道や橋の整備はかわりに島津直轄の陸軍が普請を担当する。
戦闘をするだけが兵士の役割ではない、土木作業は兵士にとっても重要だし、その上の人間の監督能力があるかどうかの判断にも役に立つしな。
日本は地震が多いからそういった災害からの復旧のときにも陸軍の土木作業の能力は意味を持つはずだ。
しかしながら江戸のような湿地帯や江戸時代にはその干拓に失敗し続けた印旛沼のような比較的大きな沼などの干拓を行うためには、オランダの持つ風車をつかった排水の技術を手に入れたいし、可能なら蒸気機関の開発も進めたい。
それ故にオランダやイングランドと技術的な接触はしておきたいところではあるな。
ついでに英蘭とトルデシリャス条約のような物を結び、セイロン以東の太平洋全域を日本のものとして確保し、インドやセイロンに目を向かせないためにも、西洋への香辛料の輸出を推し進めてバブルを弾けさせて南アジアや東南アジアの旨味を減らし、現状はポルトガルが領有している南米のブラジルへの進出を提示して、現在のアメリカ合衆国やカナダなどの北米地域への入植を遅らせたいものだ。




