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小田原攻めは案外あっさり決着がついたな

 さて、東海道の最大の難所である箱根の山中にある山中城、韮山城、足柄城の三城を突破し小田原城の周囲を包囲し始めた。


 下田などの水軍用の城も落ちて伊豆全域と相模の最西部はこちらの手に落ちた。


 本来であれば山中城などをこちらが攻めあぐねているところを小田原城からの後詰めで攻撃して足止めをしたかったのだろうが、大軍の前には籠城できる兵の少なさが致命的でほとんど抵抗できなかったようだ。


 時代の移り変わりというのは恐ろしいものだ。


 そしてこのころ北方の鉢形城では小田原が包囲されたという情報が入り、城主である北条氏邦が野戦へうって出て上杉謙信率いる北方軍とケリを付け小田原の援護へ向かおうとしていた。


「だから言わんことではない、最初から集結したところを叩くべきだったのだ。」


 だがしかし手勢3000で戦国の野戦では最強の上杉謙信・上杉家久親子の率いる2万に敵うべくもなく敗れて北条氏邦は捕らえられた。


 しかしそういった行動を上杉家久はこのましくおもったらしい。


「死なすには惜しい男じゃのう、なんとか命を助けてもらえぬか兄上に頼んでみるとしよう」


 上杉謙信もそれにうなずいた。


「うむ、敵ながら死なせるには惜しい、ぜひともそうしてくれ」


 そういう連絡があったが俺はもちろん北条氏邦を助命した。


「とはいえ全くの咎なしというわけには行かぬゆえ頭を丸めることだけはしてもらおうか。

 道案内などに使うもよし、城へ押し込めておくもよし、後は好きにするがよかろう」


 北方軍が鉢形城を落とすと川越城の大道寺政繁も降伏し、八王子城の北条氏照が残るのみとなった。


 一方の相模東部に対しての行動では、


「小田原を包囲しつつ、まずは玉縄を開城させようか、俺が直接出向くとしよう」


「かしこまりました」


 鎌倉の玉縄城には北条綱成と氏繁、そして守るのに不向きな小机城は放棄し、小机衆や三浦衆などを率いる北条幻庵がいっしょにこもっていたが、もともと外交官として上洛をした綱成は総力戦で後北条が鷹司に勝てるとも思ってはいなかった。


 であればこそ玉縄を攻める関東の諸大名や国人から玉縄を守り、小田原城は箱根の山中で足止めをさせ後方の補給線を水軍で叩き、なんとか講和に持ち込むことを考えていたが伊豆が鷹司の手に落ち、小田原が包囲され、そこより軍が向けられたことで後北条にはもはや勝ち目がないことも良い条件で講和に持ち込むこともほぼ不可能になったことを悟った。


「かくなる上は私が責任をとって腹を切り、せめてそなたたちが責任を取らされぬようにするしかあるまい」


 北条幻庵が、そういうと北条綱成は首を振った。


「幻庵翁は一門の長老として大事なお方ゆえ腹を切るなら私が適任でありましょう」


 そんな状況であった所へ俺は直接出向くことにした。


 そして玉縄城へ使者を出し北条綱成・氏繁・幻庵自らが俺の元へやって来れば、配下のものや民の罪は問わぬがやってこぬのならば根切りとすると通達した。


 そして俺の元へ北条綱成・氏繁・幻庵の三名が死に装束をまといやってきた。


「鷹司執柄相国殿においてはお久しぶりでございます。

 北条上総介出頭いたしました」


「同じく息子北条左衛門大夫出頭いたしました」


「小机城主幻庵宗哲出頭いたしました」


 そして北条綱成がいう。


「どうか我らの命と引き換えに家臣及び民への誅伐をおやめいただきたい」


 俺はふっと笑う。


「うむ、その姿勢は潔し。

 俺とて無辜の民を殺すようなことはしたくない。

 ならばこれよりは小田原の北条本家への仲介役も努めてもらおう」


「我らの命は必要ないと申されるか?」


「お前さんたちが俺に命を預けてくれるってんならそれでいいんじゃねえか?

 むしろこれから後の統治のほうが大変だし、有能なやつを殺したら大変なのは俺達なんでな」


「真かたじけなくございます」


 こうして北条綱成・氏繁・幻庵が降伏し、小机城・三浦城・玉縄城などの相模東部の主要な支城も制圧したことで小田原城はほぼ孤立状態になった。


 松井田城・岩槻城・忍城・江戸城などの城主は最初からこちらについているので残るはほぼ八王子城だけだ。


 俺は小田原城の南の海上へ戻って小田原の包囲には関東軍も加わることになったが、小田原包囲戦は、力攻めで落とすのはほぼ無理なこともあって海上から本丸や二の丸、そして本陣のある八幡山へカルバリン砲を打ち込んだり櫓の見張りと銃撃を交わすぐらいで、大半の者たちは城へ出入りするものがいないかを交代で見張るくらいしかやることがなかった。


 俺は略奪乱妨取りのたぐいは禁止していたので、ならばやってられるかと脱走兵が出るようになっていた。


「ふむこのままではいかんか」


 俺は大名たちに妻を小田原に呼び寄せ、住むための屋敷も作らせのんびり過ごせるようにし、商人や遊女を集めて金を与えて息抜きができるようにした。


 そうなると呼ばずとも商人や遊女たちが集まり、小屋を立ててその中でいたせるようにしたりもしている。


 さらに、米や味噌、肉、野菜といった食材から、食器や調理道具などの日用品、絹織物などの高級衣類まで扱う市を立て、旅芸人に踊り歌わせ娯楽を与えることで、略奪乱妨取りをしなくても十分利益があるように思わせることにする。


 そんな所で噂が流れた、それは。


「九州の畠山義弘が謀反を起こすのではないか」


 というものだった。


「どうやら流言飛語でなんとか俺たちを撤退させようとしてるようだな」


 毛利元就がうなずく。


「もはやそれくらいしか手立てはないでしょうからな」


 宇喜多直家も言う。


「北条の風魔によるものでございましょうな、今ならば商人や遊女に紛れてそのような噂を流すのもたやすいことでしょう。」


 更に他の噂も流れた。


「上杉謙信は養子の家久を傀儡としてそのまま東国を切り取るつもりらしい」


「今更上杉謙信が俺たちに逆らってもいいことはない気がするがな」


「そもそも弟君が傀儡にされるようなたまではありますまい」


 兵士たちもむしろここで何年も楽しく過ごせるならそれでもいいと思ってるようだ。


 無論、働くべきところではちゃんと働くようにしてるさ。


 夜襲対策に交代で夜中も見張りにたったりしている上でな。


 一方で小田原城内も最初は士気は旺盛だったようだ。


 あちらも夜に篝火をともし、兵士たちは交代制で油断なく警備を続けていたらしいく、更には兵士が非番の時には酒宴を開いたり、妻や遊女と合わせたりして、こちらも将兵が気を張り詰めすぎたり退屈しないようと娯楽が提供され事前に物資を城内に蓄えており、小田原城は城下町や東海道までその中に含められていることもあって市での買い物にも不自由せず、普通に生活をおくれていた。


 大軍に対しての籠城の手際も良く普通に相手すれば確かに撤退に追い込まれるのも仕方がないと言い得る。


 だが、八王子城も武田と上杉の連合軍に包囲され降伏を余儀なくされると降伏した北条氏照が連行されてきた。


「ふむ、由井源三殿は北条氏の家中において取次を行われていて、伊達氏とも縁が深いそうですな」


「それがいががいたした?」


「うむ、俺から声をかけても京へはやって来ない伊達をこちらへ参陣させていただきたいのですよ」


「断ると言ったら?」


「うむ、その場合はお前さんの首をはねるしかないな。

 使えるやつは使う、使えないなら殺す。

 それが薩摩流でな」


「わかりました、伊達の当主をこちらへお連れいたしましょう」


「うむ、頼みましたぞ」


 2ヶ月ほどで残るは小田原城だけになった。


 そして毛利元就と宇喜多直家はここぞとばかり城内の武将に後北条からの離反工作をしかけている。


「鷹司が総攻撃を仕掛けたら城内の老若男女にかかわらず全て根切りで殺される。

 だが今逃げ出せば命は許されるらしい」


 というもので、150名を率いて籠城に参加していた国人衆である和田左衛門が城を脱出して投降してきたことを皮切りに商人や国人衆などが少しずつ投降するようになり、北条早雲以来の譜代の家老の家柄の松田憲秀が寝返りを打診してきた。


 彼が城内に火を放ったあと城門を開いて包囲軍を侵入させると言ってきたのだ。


「ふむ、もはやあちらも末期症状のようだな」


 評定でも徹底抗戦するか降伏するかで長く紛糾したようだがこれ以上抗戦しても勝ち目はないと思うのだがな。


 前日の夜に俺は大きな仕掛け花火を作らせそれに火ををつけた。


 ”ばばばばばばば”という火薬が爆ぜる音とともにそれがくっきり映し出された。


「おお、小田原城が燃えている」


「きっと、もうすぐこうなるのであろう」


 そう大きな城をかたどった仕掛け花火を俺は行わせたのだ。


 そして当日になった、予定通り松田憲秀が城内に火を放ったあと西側の城門を開いて包囲軍を突入できるようにしてきたので三の丸に兵を突入させつつつ、本丸にとどめを刺すべく艦砲射撃を行うことにした。


「よし、北条にトドメをさすぞ。

 カルバリン砲を小田原城の本丸及び二の丸にむけて一斉射撃せよ!」


「砲撃準備よし!撃てい!」


 ”どおん””どおん”


 砲撃の音とともに10隻の大型改造ジャンク船に搭載された20門ずつのカルバリン砲が火を吹き飛翔する200個の鉄の玉が本丸の上空に到達した後に本丸やその周りのニの丸のあちこちを突き破った。


「うぎゃー!」


「うわぁぁー!」


「ぐわぁ!」


 更に海上からでは届きにくい八幡山の本陣へ向けて西側の陸からはなったコングリーブロケットが轟音を上げて八幡山の本陣に命中した。


「ああああ!」


「ぐわあああ!」


「なんだこれはー!」


「天罰か?天罰なのか?!」


 裏切りにより三の丸に包囲軍の兵が侵入すると兵数差もあってあっという間に殆どは降伏し、三の丸は陥落して、海上からでは届かぬと思っていた本陣の兵士にコングリーブロケットによる攻撃で多数の死者が出た。


 こちらの使者となった北条綱成・幻庵の説得もあって北条氏康・氏政親子はやはり死に装束で降伏を申し出て自分の命と引き換えに、城兵たちの助命を嘆願してきた。


「どうか我々の首をもって城将、城兵の命はすくっていただきたく」


「寛大な対処を願いいたします」


 俺はざっと刀を抜くと氏政の髷を斬っていう。


「これで北条左京大夫は死んだ。

 だが相模守には腹を切って貰おうか。

 それが当主としての勤めであろう。

 そのかわりに城将、城兵の命に関しては俺が保証しよう」


 氏康は笑って言った。


「切腹の機会をいただきありがたく存ずる」


 ”夏は来つ 音に鳴く蝉の 空衣 己己の 身の上に着よ”


 そう辞世の句を詠んだ後で、彼、北条氏康は見事に果てた。


 最後に判断を誤ったと後世では評されるのだろうな。


「さて北条左京大夫、お前さんには泥水を啜ってでも生きてもらうぞ。

 戦でかたをつければいい時代ではなく戦のない世の中のほうが統治は難しいのでな。

 そして俺や弟達の手助けをしてほしいのだよ。

 その生命はをもって民のために働いてみよ。

 おそらく様々な方面から蛇蝎のように嫌われるであろうがな」


「はは、この生命があることをもってありがたく鷹司の下で働かせていただきます」


 ま、豊臣政権における石田三成のような役割をするやつは必要だしな。


 彼を退出させると周りが俺になにか言いたげに見ている。


「本当に彼を生かしておいていいのですか?

 責任を取らせ父同様に切腹させるべきだったのでは?」


 と毛利元就が聞いてくる。


「ああ、ちなみに聞くが、お前さんは200万石の独立した大名の名門当主から1万国の奉行になって、民に石を投げられながら自ら検地をやり、隠田を残らず暴き、戸籍を調べ、隠し子まですべて記録する、そんな役目をやりたいと思うか?」


 それを聞いた毛利元就はなるほどと思ったのか表情を変えた。


「いえ、できればやりたくありませんな」


「そういうことさ、北条の一族や家臣には汚れ役を押し付けてやるのさ。

 生きてることが嬉しいとは思えんくらいに辛いことになるだろうが」


 宇喜多直家が笑いながらいう。


「さすが我々の上司、なかなか酷うございますな」


「いや、お前さんにはそう言われたくないが。

 いずれにせよ、誰かにやってもらわなければならんしな」


 このまま切腹して死んだほうが実は楽かもしれないが生きて責任はとってもらう。


 三成は汚れ仕事を一切合切受け持って豊臣秀吉への非難が出ないようにしていた。


 俺は北条氏政を改名させ「伊勢氏政」を名乗らせ、後北条の当主の名も関東管領の名目も権威も全て失い、俺の直轄奉行として1万石だけ与え、検地及び戸籍作成を行わせることにしたのさ。


 最悪彼が殺されても俺の人材的な懐は傷まんし、うまくやってくれればもちろん助かるしどちらにせよ北条一門は使い潰すつもりで働かせるさ。


 それでもうまくやり遂げれば当然奉行衆として高い役職と高禄で取り立てるぞ。


 彼らには自分たちが役に立つとこを実証してもらわねば周りも納得しないだろうし、上洛をしなかった事による汚名をそそぐにはそれくらいは必要だろう。


 後北条家は氏照に継がせ加賀の一部30万石とさせた、でかすぎはしないが小さくもないだろう


 そして伊豆・相模・武蔵・下総・上総などは鷹司の直轄としたのだ。


「後は伊達だけだが、まあこれでやって来ないようだったら相当な馬鹿だな」


 俺は小田原から関東衆をまずは地元へ戻させ畿内などの国人なども徐々に戻しつつ伊達がやってくるのを待ったのだった。

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