表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄を「労災認定」しました 〜「冷たすぎる」と追放された監査令嬢、左遷先でブラックギルドに是正勧告を叩きつけます〜  作者: 小鳥遊ミント


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
46/50

第46話:祖父の遺した目

 翌日、ミリィは自ら申し出て、倉庫の帳簿をもう一度検めたいと言った。一晩眠って、多少は落ち着いたのだろう。今度は、震えではなく、確かな目的を持った手つきだった。


「監査官さま。祖父の署名がある発注記録、他にもいくつか見つけました。……見てください。この頃から、査定局から回される新人冒険者の等級に、不自然な偏りが出始めています」


 彼女が示した数字は、査定不正の核心と、確かに繋がっていた。低い等級をつけられた新人の出身地は、いずれも王都近郊の平民地区。ロイドの件と、同じ構図だった。


「祖父は、これに気づいて、抗議したんだと思います。総長として、査定局の判断に異議を唱える権限がありましたから」

「そして、その抗議が、彼の死に繋がった」

「……はい。母は、祖父が『査定局のやり方はいずれ組合そのものを腐らせる』と言っていたのを覚えているそうです。事故と発表された日、母はまだ子供でしたが、大人たちが妙に静かだったことを、今でも覚えていると」


 私は、ミリィの語る過去を、静かに聞いた。感情語を挟まず、ただ、記録するように。


「ミリィさん。一つ、確認させてください。あなたは今、怖いですか」

「……怖いです。でも」


 彼女は、帳簿を胸に抱いた。


「怖いのと、逃げるのは、別なんだと、監査官さまが教えてくれました。ヴァンさんの焼印だって、消えたわけじゃないのに、あの人は逃げずに、証拠を集め続けてます。私も、そうありたいです」


 ヴァンが、窓辺で腕を組んだまま、口を挟んだ。


「……逃げてねえわけじゃねえ。逃げ場がなかっただけだ。あんたは、逃げ場があるのに、自分から残る道を選んだ。それは、俺よりよっぽど強えよ」


 ミリィは、驚いたように目を丸くし、それから、くしゃりと笑った。


「ヴァンさんが、そんなこと言うなんて」

「調子に乗るな」


 私は、その掛け合いを見ながら、一つの決断を固めていた。


「ミリィさん。あなたの正体――先代総長の孫娘であることは、当面、私とヴァンさん、グレゴール院長の三名だけの記録に留めます。あなたが望むまで、公にはしません。ただし、査定不正の調査そのものは、あなたの名で、正式な監査院の記録として進めます」

「……ありがとうございます」

「感謝は不要です。これは、記録の正しい扱い方についての、私の判断です。それと――」


 私は、懐中時計を取り出した。


「あなたの祖父の死についても、いずれ必ず、正式な記録として再調査します。今すぐではありません。今は、目の前のヴィンセル氏と、五年前の坑道事件に集中します。ですが、忘れることはありません。記録は、後回しにしても、消えはしませんから」


 ミリィは、深く頭を下げた。


「監査官さま。私、もっと台帳が読めるようになります。祖父の分まで」

「期待しています。ですが、無理はしないでください。あなたが倒れては、記録係が一人減るだけです」

「……はいっ。監査官さまも、たまには無理しないでくださいね」


 その物言いに、ヴァンが小さく噴き出した。私は、何も言い返せなかった。


 懐中時計を確かめる。十時十五分。窓から差し込む光が、埃の舞う倉庫を、静かに照らしていた。

ミリィさんの過去と決意、しっかり受け止めました。A3(査定不正)は第3部での本格回収に向けて、また一つ布石が積まれました。


次話からは、いよいよ五年前の口止め料の行方――核心に迫ります。


ブックマークと評価(☆☆☆☆☆)は、ミリィさんの祖父への手向けも兼ねて、大切に頂戴いたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ