第41話:王都からの便り
宿に戻ると、王都からの書状が届いていた。差出人は、ミリィ・ロッタ。
『監査官さま
ご無沙汰しております。王都は、変わらずです。グレゴール院長は、相変わらず書類仕事を私に押し付けて、ほっほ、と笑っています。
ご依頼の件、進捗をご報告します。査定と実績の乖離――類例、当初の十七件から、二十三件に増えました。共通点も見えてきています。低ランク査定を受けた者の出身は、いずれも王都近郊の平民地区。査定を行ったのは、同一の査定官が関わった案件が多く見られます。
それと――もう一つ、ご報告したいことがあります。文章にするのが難しいので、詳しくは、お会いした時に。
実は、私、そちらへ伺いたいのです。院長には、もう話をつけました。「ここぞという時のために、あんたを飼い殺しにする趣味はないよ」と、笑って送り出してくださいました。留守は、営繕組のロイドさんたちが手伝ってくれるそうです。
監査官さまと、ヴァンさんに、直接お渡ししたい書類もあります。近々、そちらに参ります。
ミリィ・ロッタ』
私は、その手紙を、何度か読み返した。几帳面な字は、王都にいた頃と変わらない。だが、行間に、これまでとは違う緊張が滲んでいる気がした。
「……ミリィさんが、来るのか」
ヴァンが、覗き込むようにして訊いた。
「ええ。院長の許可も得ているようです」
「あの怖がりが、単身でここまで来る気になったのか」
「怖がりではありますが、彼女は臆病ではありません。区別が必要です」
私は手紙の一文を、もう一度見た。『文章にするのが難しい』。事務処理においては誰よりも的確な言葉を選ぶミリィが、そう書くのは珍しい。
「何か、思い当たることでも」
「いいえ。ですが――査定不正の調査を進める中で、彼女自身に関わる何かに突き当たった可能性があります」
私は、これまでのミリィの様子を思い返した。台帳の読み方が、教わったにしては正確すぎる。数字の扱いに、どこか年季が入っている。拾って以来、何度か覚えた違和感だった。
「杞憂かもしれません。ですが、記録は、いつも思わぬところから繋がります」
私は返信をしたためた。歓迎の言葉と、到着予定日の確認、それに――念のため、道中の護衛について、川港の輸送組合とは無関係の経路を使うよう指示を添えて。書きながら、少し口元が緩んだ。感情語を使わないと決めている私にしては、珍しいことだった。
「ヴィンセル氏は、こちらの動きを常に見ています。ミリィさんの到着を、悟られたくありません」
「用心深いな」
「彼女は、私たちの記録係であり、この調査の生き証人にもなり得ます。守るべき人が増えるのは、悪いことではありません」
「……あんたがそう言うなら、いいんだけどよ」
「心配なら、あなたも護衛の段取りを一緒に考えてください。二人で考えた方が、抜けが少なくなります」
懐中時計の蓋を開ける。十九時四十分。窓の外、川面に町の灯りが揺れていた。
「数日のうちに、彼女が来ます。それまでに、ヴィンセル氏の帳簿の隙間を、もう少し広げておきましょう」
ミリィさんの合流予告です! 事務処理最強の助っ人が来てくれるのは嬉しい限りですが、彼女の「文章にするのが難しい」報告――少し気になります。
次話、再会です。
ブックマークと評価(☆☆☆☆☆)は、ミリィさんへのお土産として、川港の名物と一緒に用意しております。




