第40話:品質等級という名の詐術
港町に宿を取り、私は三日かけて、埠頭の荷揚げを実際に観察することにした。帳簿だけでは見えないものが、現場には必ずある。
鉱石の荷が着くたび、検分役の男が石を叩き、色を見て、等級を判定する。私はその手つきを、時刻とともに記録した。
「現在時刻、十時十二分。荷番号三十七。検分役、槌で三回叩き、色見本と比較。判定――『中』」
その荷を、私は密かに、自分の携行する簡易な鑑定器具で調べていた。監査院に来て初めて役立った、監査官養成時代の授業だった。埠頭に立ち続ける三日間、潮風と鉱石の粉塵で、喉が絶えず乾いた。
「ヴァンさん。この石、あなたの目にはどう見えますか」
「……門外漢だが、光り方は悪くねえな。『上』寄りに見える」
「私の見立ても同じです。ですが、検分役は『中』と判定しました」
三日間、私は同じ手順を繰り返した。荷番号ごとの実測値と、検分役の判定を突き合わせる。結果は明白だった。判定は、常に実際より一段低い。しかも、判定の基準は、荷主ごとに微妙に違っていた。
「王都の大手商会からの注文分は、正規に近い判定。中小の坑道関係者の荷は、軒並み一段低い判定。これは、意図的な区別です」
私は検分役を呼び出し、記録を突きつけた。検分役の男は、槌を握ったまま、目を泳がせた。
「あなたの判定基準を伺います。荷主によって等級判定が変わる理由は」
「そ、それは……組合長の指示、で」
「具体的にどのような指示ですか」
「坑道関係者――特に黒槌ギルド経由の荷は、『中』を上限に判定しろ、と」
私は、その供述を記録し、次にヴィンセルの元へ向かった。
「ヴィンセル様。検分役から、荷主による判定基準の使い分けについて供述を得ました。黒槌ギルド経由の荷は、意図的に等級を下げて判定するよう指示があった、と」
「……検分役の勘違いでございましょう。彼らも人間ですから」
「三日分、荷番号すべての実測値を、私自身が記録しています。勘違いにしては、傾向が一貫しすぎています」
ヴィンセルの余裕が、わずかに揺らいだ。だが、崩れはしなかった。
「監査官殿。仮にそのような判定があったとして――等級を下げれば、坑道側への支払いは減ります。それは組合の利益にはなりますが、法に触れる話ではございません。単なる商取引上の判断です」
「では伺います。荷主――王都の受注元への請求は、どちらの等級で行われていますか」
「……実測に基づく等級で、です」
「つまり、坑道側には低い等級で支払い、受注元には高い等級で請求している。差額は、組合の懐に入る。これは、単なる商取引上の判断ではなく、二重の申告による利ざやの詐取です」
ヴィンセルは、しばらく無言だった。それから、静かに笑った。指先で、卓上の羽根ペンを、静かに立てたり倒したりしている。
「……なるほど。よくお調べになる」
「記録は、嘘をつきません。ですが、まだ足りません。この差額が、最終的にどこへ流れているか――そこまで辿らなければ、あなたを本当に追い詰めたことにはなりません」
「……追い詰める、とは、穏やかではございませんね」
「穏やかである必要はありません。正確であれば、それで十分です」
私は懐中時計を確かめた。十四時二十分。まだ、核心には遠い。だが、確実に近づいていた。
三日間の張り込み、実を結びました。等級偽装の手口は確定。ですが、差額の行き先――そこがまだ見えません。
次話、王都からミリィさんの便りが届きます。ようやく、事務仕事の頼れる相棒の登場……というより、彼女自身の便りです。
ブックマークと評価(☆☆☆☆☆)は、三日間の張り込みの記録として、しっかり保管しております。




