第28話:十九件の「自己鍛錬不足」
御前聴聞の裁可に基づき、騎士団の内部記録が、ついに当院へ開示された。
三十年分の従士名簿。訓練日誌。診療所の記録。懲罰簿。
荷馬車二台分の紙の山を前に、ミリィは袖をまくり、ヴァンはなぜか遠い目をした。
「……なあ、毎回思うんだが、あんたらのいう『勝利』ってのは、つまり紙が増えることなんだな」
「ええ。最良の勝利は、相手の紙が全部こちらの机に載ることです」
検証の目的は一つ。トマス・ベルツは、最初の犠牲者だったのか。
従士名簿と死亡・除籍の記録を、年次で突き合わせていく。地味で、重く、間違いの許されない作業だ。三日目の夜、集計表が完成した。
「読み上げます。過去三十年間、騎士団従士の在籍記録からの除籍事由。『騎士昇格』四百十一名。『自主退去』千二百九名。『死亡』——三十一名」
「三十一……」
「うち、戦時従軍中の死亡が九名。これは軍務です。残り二十二名が、平時の死亡。事由の内訳は『病死』三件。そして『訓練中の事故』が——十九件」
平時の訓練で、三十年に十九人。
ヴァンが、集計表を引き寄せた。
「十九件の発生時期は」
「そこが、本題です。最初の十五年間で、二件。後の十五年間で、十七件。そして直近五年間に限ると——十一件。明確に、加速しています」
「五年前……ベルナールが団長になった年か?」
「いいえ。ロックフォード卿の団長就任は十二年前です。五年前に変わったのは別のものです。ミリィさん、例の対照表を」
ミリィが、二枚目の表を広げた。彼女がこの三日で作り上げた、十九件の事故の個票対照表だ。
「十九件のうち、直近五年の十一件には、共通点が三つあります。一つ、全件が『夜間または早朝の単独訓練中』。目撃者がいません。二つ、全件の死亡認定書の書式が同一で、認定までの日数が平均二・三日。三つ——全件の従士が、死亡の直前に、懲罰簿に載っています。事由はほぼ同じ。『上官への不適切な言動』『規律への疑義の表明』」
規律へ疑義を表明した従士が、目撃者のいない訓練で死に、三日以内に処理される。
十一回。
「……トマスと、同じだ」
「ええ。トマス・ベルツは十一件目でした。そしてカイ・エルマーが、十二件目になるはずだった」
部屋が、冷えた気がした。実際の室温は変わっていない。
「整理します。これはもはや、労務環境の問題ではありません。『規律に疑義を呈する従士が、継続的に排除されてきた疑い』です。ですが、ここで飛躍してはいけません。十一件の個別の再調査が必要です。当院単独では権限も人手も足りない。司法局との合同調査を要請します」
そして、もう一つ。
私は、十一件の死亡認定書の写しを、光に透かした。認定書の決裁欄。騎士団の判の隣に、小さく、もう一つの確認印がある。十一件、全件に。
双頭の鷲に、天秤。
王宮監査局——管理番号、第七号。
「……またか」
「ええ。ヴァンさんの告発を棄却した判。アガレスの『清算』の月に上納が倍になった先。そして、従士の死亡認定書の確認印。第七号の判は、五年間、すべての蓋の上に押されています」
五年前。第七号。
王宮監査局で五年前に第七号の判を保持していた人物。照会請求は、いまだに「精査中」のまま、回答されない。
だが、私には、もう照会は必要なかった。五年前のあの頃、私は新人で、局の判の貸与簿の管理補助は——私の仕事だったからだ。
思い出すべき記憶は、最初からずっと、私の中にあった。認めたくなかっただけだ。
第七号の判の保持者。王宮監査局、次席監査官(当時)。
オズワルド・グレイン。
私の、恩師。
「……監査官さま?」
ミリィの声で、我に返った。私は手帳を開き、事実だけを、一行書いた。
書き終えるまで、十一秒かかった。通常の三倍である。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
十九件の「訓練中の事故」。そのすべての蓋の上に、同じ判が押されていました。
第七号。——アデルは、その持ち主を知っています。
ブックマークと評価(☆☆☆☆☆)の集計は、何件でも冷静に行います。たぶん。




