表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄を「労災認定」しました 〜「冷たすぎる」と追放された監査令嬢、左遷先でブラックギルドに是正勧告を叩きつけます〜  作者: 小鳥遊ミント


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
19/20

第19話:公開聴聞会

 王都中央広場の公会堂に、千百人が入った。

 立ち見を含めれば、千四百。受付で数えさせた概数である。庶民、冒険者、商人、物見高い貴族の使用人、そして——目立たない席に、王宮の官服が数名。


「現在時刻、十時零分。ギルド監査院主催、公開聴聞会を開会します」


 壇上の長机に、私とグレゴール院長。証人席。そして、対面の席には召喚に応じたバルドメロ・ヘリオンが、五人の代理人を連れて座っていた。彼は来た。来ないという選択は、世論の上で敗北だと知っている男だ。


 最初の証人は、ロイドだった。

 彼は震える声で、しかし最後まで、装備天引きと未払いの三年間を証言した。

 二人目は黒槌の古参鉱夫。架空の支給簿の話。三人目、四人目——。

 そして五人目に、エルマ・コッツェが証言台に立ち、夫の手帳の最後の頁を、ゆっくりと読み上げた。


『明日の区画は支保が三本足りない。報告したが、工期優先と言われた。心配だ』


 千四百人の会場が、水を打ったようになった。

 すすり泣きが、あちこちで聞こえた。


「異議あり」


 バルドメロの代理人が立った。


「ただいまの手帳は、故人の私的な記録に過ぎない。労働の現場には常に危険が伴う。鉱夫はそれを承知で坑道に入った。報酬には危険の対価が含まれている。これは契約であり、契約は自己責任である」

「契約について、当院から確認します」


 私は、押収帳簿の写しを掲げた。


「コッツェ氏の雇用契約書、第十一条。『ギルドは作業区画の安全を確保する義務を負う』。——契約とおっしゃるなら、契約は双方を縛ります。氏は危険の対価を受け取る契約をしましたが、回避可能な危険を放置される契約は、していません。支保三本の補修費は、当時の相場で金貨二枚。氏の命の補償を不払いにして『節約』された金額は、貴商会の裏帳簿の集計頁によれば——」


 私は頁をめくり、読み上げた。


「『死亡補償・未払い分・累計、金貨四千百六十枚』。同じ帳簿に、そう書いてあります。あなた方が書いたのです」


 会場が、どよめいた。代理人は着席した。


 昼を過ぎて、予定外の証人が現れた。

 仕立ての良い藍色の上着。若い男だ。二十代半ば。彼は証人席ではなく、発言許可を求めて挙手をした。


「蒼天ギルド長、ユリウス・ファルケ。業界の人間として、一言申し上げたい」


 ざわめき。蒼天——ヘリオンに次ぐ、王都第二のギルド。


「私はヘリオン氏のやり方を、道徳では批判しない。道徳は人によって違うのでね。だから計算で批判する。——冒険者一人を新人から一人前に育てるのにかかる費用は、依頼換算で約金貨六十枚。使い潰せば、その投資が毎回ゼロになる。ヘリオン傘下の人材の平均稼働年数は二・八年。うちは九・四年だ。つまり彼のやり方は、残酷である以前に、計算ができていない。私が申し上げたいのはそれだけだ。……ああ、それと監査官殿」


 彼は私に向き直り、にこりと笑った。


「うちの帳簿には、いつでもどうぞ。王都で最も美しい帳簿を、ぜひその目で」

「公正のため、予告なく伺います。着席してください」


 会場に、この日初めての笑いが起きた。空気が、変わった。恐怖で縛られていた業界の中から、ヘリオンを公然と突き放す者が出た——その事実は、千四百人の前で記録された。


 締めくくりに、バルドメロ本人が発言を求めた。彼は壇を見上げ、余裕の笑みを作り直していた。


「……皆さん、お聞きの通り、うちにも至らぬ点はあったようだ。改善しよう、約束する。だがね、考えてもみてほしい。王都の依頼の七割を回しているのは、誰だ? 明日からあんたたちに仕事を割り振るのは、誰だ? 正義は飯を食わせてくれるかね?」


 恫喝を、千四百人の前で、笑顔で言える男。

 私は、静かに一枚の紙を取り出した。


「バルドメロ氏。最後に、当院の記録を一点だけ読み上げます。先月十二日、黒槌ギルドにて、あなたは次のように発言しました。証人六十名。——『冒険者というのは、消耗品でしてな』」


 会場の温度が、変わるのが分かった。


「あなたが明日から仕事を割り振る相手は、あなたが消耗品と呼んだ人々です。以上で、本聴聞会の証拠調べを終了します。当院は七日以内に、処分を決定します」


 閉会後。人波の去った会場の隅で、ヴァンがぽつりと言った。


「……あの『消耗品』、よく取っといたな」

「発言は資産です。発言者にとっては、負債ですが」


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


千四百人の前で、帳簿と発言記録が開示されました。

処分決定まで、七日。次話、第2章クライマックスです。


ブックマークと評価(☆☆☆☆☆)は、発言と違って、皆様の資産になります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ