7話 おもちゃの兵隊
「次の試験に進む前に、少し休憩となります。こちらでお待ちください」
マルはそう言って、鏡の部屋の外にあったベンチを指し示した。
やっと休憩ができる……。
「はぁ、疲れたーーー」
独り言を呟いて、ベンチの上にドサっと腰を下ろし、ぼーっと天井を見上げた。
ゆっくりと目を閉じると、先程マルから言われた、"合格"という言葉が頭の中で映像として再生され、二次試験を通過したという嬉しさが込み上げてきた。
パッと目を開けて天井に手を伸ばし、それをグッと握りしめた。
「よぉぉぉおおおし!!」
誰もいない廊下で大声を上げて、1人で喜びを噛み締めていると……
——「オツカレサマデス。」
突然、横から機械音声が聞こえた。
「なんだっ?!」
声がした方に咄嗟に振り向くと、縦に長く伸びた円筒形の黒い帽子に、赤い服を着たロボットがお盆を持って立っていた。
その姿はまるで……
「……おもちゃの兵隊?」
「ハイ。」
えぇぇえええ?!
「す、すげぇ!!俺、ロボットと会話してる!」
「シテマスヨ。」
兵隊はそう答えると、大興奮の俺の膝の前までやって来て、くるりと向きを変えた。
「オチャヲ、オモチシマシタ。」
「……飲んでいいのか?」
「ハイ。ドウゾ。」
「ありがとう!」
少しドキドキしながら、お盆に乗っていたコップを手に取り、お礼を伝えた。
すると一瞬満足そうに微笑んだ兵隊は、すぐに真顔に戻って敬礼をすると、慌てた様子で去っていった。
……あの兵隊は、お茶を渡しに来ただけなのか?ビックリしたけど、なんだか癒された。
貰ったお茶をグイッと飲み干し、冷静になって二次試験のことを思い返す。
……ついに俺は、あのルービックキューブを自分の意思で、武器として使ったんだよなぁ。
"カチャ……"
普段から聞き慣れている心地いい音。それが今日、自分の攻撃の合図の音へと変わった。
さっきの試験で面をずらした時、やけに音が大きく聞こえた。
今はマルに預けてある、俺のルービックキューブ。
「……早く触りてぇな」
無意識に、そんな独り言を呟いた時だった。
——「お待たせいたしました!」
いきなり、分厚いメガネが視界に入り込んできた。
「……ビックリした!今度は、マルか!」
「驚かせてしまい、すみません。最終試験の準備が整いましたので、ご案内させていただきます」
「えっ?!次が、最終試験?!」
「はい。次で試験は最後となります」
うわぁあああ!!!
「って事は、次合格をもらえれば……」
「晴れて、トイカルマの仲間入りになります」
「まじか!」
食い気味に答えたマルの言葉を聞いて、俄然やる気に満ちてきた俺は、ベンチから勢いよく立ち上がった。
「それでは、行きましょうか」
「おう!」
二次試験の前とは違い、前向きな気持ちでマルの後を追い、廊下を歩き出した。
カツン、カツン……
ヒールの音が廊下に響き渡る。
少し奥へと廊下を進むと、赤い扉の前で彼女は立ち止まった。
「三次試験会場は、こちらになります」
ガチャ。
「どうぞ」
マルが扉を開いた先に見えたのは、縦に長い黒い帽子に赤い服を着たロボットの姿。
「お前は、さっきの……!」
「オチャハイカガデシタカ?」
くるりとこちらに振り返ったのは、先程お茶をくれた兵隊だった。
それも何故か、三体同じ兵隊が並んでいる。
「ナンノハナシ?」
「オチャイイナ。」
「イイダロ。」
なんか、ワチャワチャしてるし……。
「……なぁ、この兵隊達は試験に関係あるのか?」
状況が理解出来ず、兵隊達を指差してマルに問いかける。
「関係ありますよ。ここは"兵隊の部屋"なので」
なんだそれ……?
パッと部屋を見渡すと、[スタート]という看板と[ゴール]と言う看板が立っている。
というより、この部屋にはそれ以外何もない。赤と青のストライプ状の派手な壁紙とは裏腹に、部屋自体はかなり殺風景だった。
キョロキョロと部屋の中を見渡していると、二次試験の時同様、突然中央の床が開いた。
部屋の中に響く、ウィーンという機械音と同時に、ルービックキューブとフラフープが出てきた。
「え、今回も試験内容は説明なし?」
「ロクさん、おもちゃをお取りください」
無視かよ……。
覚悟を決めて、ルービックキューブを手に取った。
……状況は読めないけど、仕方ない。武器の扱い方も分かったし、鏡の部屋と違って視界が混乱することもなさそうだ。
やるしかねぇ……!
心の中でそう呟いて、ギュッとルービックキューブを握りしめた。
「準備はよろしいですね?」
「……おう!」
マルに返事をして、向かい合うように立つ。
その直後——
「ぜんたーい、並べ!」
突然マルが、そんな言葉を発した。
ギョッとして後ろを振り返ると、部屋の奥にいた兵隊達が、スタートの看板が立つ場所に一列に並んだ。
これから一体、何が始まるんだ……?
兵隊は、敵なのか味方なのか。
あの看板は一体どう言う意味なのか。
とにかく戦いながら状況を考えるしかないと、腹を決めた。
「それでは、最終試験を始めます」
マルはフラフープを構えた。
俺はルービックキューブを片手に、いつでも動けるような体勢を取る。
——「〈輪〉、プレイ」
彼女の掛け声と同時に、ついに最終試験が幕を開けた。




