6話 鏡の部屋
「ロクさんのおもちゃは、すでに覚醒状態になっていますのでご安心ください。それでは、私も……」
彼女はフラフープを構えた。
「……や、ちょっと待てって!」
焦る俺を待たずに、マルは言葉を続ける。
——「〈輪〉、プレイ。」
その言葉と同時に、ゴツい鉄の輪っかに変化したフラフープ。
それをマルは両手で放り投げた。
ビュンッ!!
一直線にこちらに向かって、飛んでくるフラフープ。
「えっ、ちょっ…!」
慌ててその場から逃げ出した。
俺がいた場所に当たったフラフープは、衝撃音を響かせながら何度も軌道を変えて追撃して来る。
その動きを目で追いたいのに、フラフープがたくさんの鏡に映り込んで、視界が混乱する。
鏡が大量に置かれてるのは、こういう意図か!
どうする…どうしたら……
悩んでる間にも、フラフープは追撃を続ける。
ビュンッ!
「うおっ!」
なんとか避けるだけで、精一杯。
そんな俺に、マルは余裕の笑みを浮かべながら話しかけてくる。
「ロクさん、避けてばかりでは試験には受かりませんよ?あなたのルービックキューブで戦うところを見せてください。」
「……っ、」
そんな事言われたって、この武器の使い方がわかんねぇんだよっ!
必死にフラフープを避けつつ、ゼンマイに立ち向かった時の事を思い浮かべる。
あの時、謎の衝撃音と共に一瞬空間が歪み、ゼンマイは地面に叩きつけられた。そしてゼンマイはペシャンコになって、元のおもちゃの大きさに戻った。
俺がしたことと言えば、ルービックキューブを投げようとしたくらい。
だけど実際は、手から滑り落ちただけ……
「……!」
もしかして、ルービックキューブを落下させる事で、あの衝撃を与えられるのか?
……とにかく、試してみるか!
再び俺に襲いかかって来る、フラフープ。
俺はそれに向かい合うように立つと、ルービックキューブを下に落としてみた。
だがフラフープには何の衝撃も与えられないまま、ルービックキューブがただ自分の足元に転がっただけだった。
そして——
「………あれ?」
気付けば、俺の体はフラフープに拘束されていた。
「ふふふ、捕まっちゃいましたね?」
楽しそうに笑うマル。
このフラフープ、見た目は鉄みたいな感じなのに、伸び縮みするのかよっ!
つーか、これじゃあ……
「もしかして、試験落ちた……?」
語尾がかすかに震える。
だが、マルは首を横に振った。
「いいえ。まだチャンスはあります。
ただし、次に捕まったらおしまいです。」
「……分かった。」
まだ試験は終わっていなかった事に、安堵した。
でも、あと1回捕まったら即試験終了。
首の皮一枚繋がったけど、崖っぷちだ……
「それでは一度、拘束を解きますね。」
彼女がそう言うと、俺を拘束していたフラフープはゴムのように伸びて、スルリと下に落ちた。
そこから抜け出すと、フラフープは再び彼女の手元に戻っていった。
「次が、ラストチャンスです。」
マルは、再び構える体勢を取った。
「少しだけ待ってくれないか?」
思考を整理したいのに、彼女は俺の言葉を聞き入れず、勢いよくフラフープを放り投げた。
慌ててルービックキューブを拾い、逃げる。
でも焦ったせいか、足がもたついて前に倒れてしまった。
やっべ……!
パッと顔を上げると、一度鏡に当たって軌道が変わったフラフープが上から降ってくるのが見えた。
とにかく、避けねぇと…!
瞬時に横に転がって、間一髪フラフープを避ける。
そして、仰向けになった体を起こそうとした瞬間、天井の鏡を見てハッとした。
——天井だ!
天井を見れば、横の鏡に映る姿に惑わされない!!
即座に体を起こす。
視線は常に上を向き、フラフープの軌道を考えながら避けることだけに集中した。
次は右から……今度は左上から……
頭の中で唱えながら動いていると、なんだかこの感覚に馴染みがある気がした。
「……あ、れ?」
この感覚、ルービックキューブを動かす時の思考と同じ……!
閃きと同時に、記憶がフラッシュバックする。
そういえばあの時……
ルービックキューブが手から滑り落ちたのと同時に、指が当たって一面だけずれたんだ!!
ってことは、面をずらせば衝撃が起きる…?
ルービックキューブに、ほんの一瞬視線を移す。
とにかく、これに賭けるしかねぇ。
頼む、「……こいっ!!」
叫びながら、面を右にスライドさせた。
カチャ……
――次の瞬間、
バコンッ!
ゼンマイの時同様、謎の衝撃音と共に空間が歪み、フラフープを右に弾き飛ばした。
「……っしゃあぁぁああ!!」
無意識に、ガッツポーズをしていた。
これで確信した。
ルービックキューブの衝撃は、面を動かす事だったんだ。
よし。これなら戦える……!
そう思って、マルに視線を向けた時だった。
——「〈輪〉、プレイ解除。」
シュウ……
彼女の発言により、フラフープは元の姿に戻っていった。
「……え、もう終わり?」
「はい、終わりです。先程の攻撃、見事でした。」
「いや、だって俺、まだ一回しか……」
「一回で良いんです。」
困惑する俺を諭すように、マルは優しく言葉を続けた。
「二次試験では、武器を操作して攻撃を与えられるか。それと、この"鏡の部屋"という特殊な空間を、どう攻略するのか。その2点を見させていただきました。」
「……」
武器は操作できた。
攻撃も与えられた。
この部屋の攻略法も見つけた。
「それじゃあ、つまり……」
先を促すように、マルをじっと見つめる。
その視線に、彼女はふんわりと微笑んでこう言った。
「……ロクさん、おめでとうございます。二次試験、合格です!」
今、一番聞きたかった言葉。
それが聞けた嬉しさと、自分の努力が報われた気持ちで、目の奥が熱くなった。




