5話 係員の正体
「………へ?」
言われた言葉の意味が理解できない。
ポカンと口を開いたまま固まった俺の様子に、係員はクスリと小さく笑った。
いや、笑い事じゃないだろ!と、思わず心の中でツッコミを入れた。
「あっ、えっと……一次試験合格って、どういう事ですか?」
「そのままの意味ですが、説明いたしますので、まずはそちらにお掛けください」
「……はい」
深く深呼吸をして、指示に従い椅子に腰掛けた。
「それで……?」
ゆっくり係員に視線を向け、説明を促す。
「実は、私がロクさんに選択を迫った時から、すでに一次試験は始まっていました」
「えっ、あの時から!?」
「そうです。試験の内容は、おもちゃに対する"愛着"と"決断力"を見る試験でした」
「……愛着と決断力?」
「はい。愛着は信頼に直結します。武器を信用することは、戦いのポテンシャルを上げるためにも重要な要素になります」
愛着=信頼。それはかなり納得がいった。自分自身、ルービックキューブを信頼してるからこそ、試験を受けてみようと思えたもんな……。
「……じゃあ、決断力ってのは?」
「決断力は戦闘時において、必要不可欠なもの。決断の速さで勝敗を分けると言っても、過言ではありません。武器をどのように使うか、自分がどう動くべきか、様々な決断をして戦いに挑むが故に、そこも見させていただいた次第です」
「なるほど。……それの判断基準は?」
「出口の扉を開けるかどうかです」
出口の扉……!!
「ロクさんの場合、扉に手をかけていたので、かなりギリギリでした。ですが、開けてはいないので一次試験は合格となります」
「あっぶなっ!まじでギリギリじゃん!!……つーか、ずっとそこから見てたってこと?」
「はい。ずっと見ていましたよ」
係員はそう言って、にこりと微笑んだ。
……見られてたなんて、全く気づかなかった。
でも、とにかく俺は第一関門を突破できたんだ。
「良かったー……!」
全身の力が抜けて、背もたれに寄りかかって大きく息を吐いた。
だが、その直後——
「それでは、この後すぐに二次試験を開始いたします」
「……は?!こ、この後すぐ?」
思ってもみなかった発言に、勢いよく椅子から立ち上がり、係員に聞き返す。
「はい。この後すぐご案内いたします」
嘘だろ……?一次試験合格した余韻に、浸ってる暇もねーのかよ……!
「準備は整っていますので、会場へご案内します」
「いやいやいや、俺の心は準備できてないんだけど……?」
「こちらへどうぞ」
俺の言葉に耳を傾ける事なく、係員は椅子から立ち上がると、そのまま背を向けてスタスタと歩き始めた。
「ちょっ……休憩すらねぇのかよ!」
不満を口にしながらも、慌ててその背中を追いかけた。
どこまでも続く長い廊下を、ひたすら歩いていく。
横目でチラリと壁を見ると、大小様々な大きさの歯車が付いてたり、積み木みたいな模様が描かれていたりと、歩くだけでも心躍るような装飾が施されていた。
さすがTMI……。建物の中まで、こんな凝った作りをしてたんだな。
これから始まる二次試験のために、少しでも心を落ち着かせようと、じっくりと壁を眺めながら歩いた。
暫く廊下を歩いたところで、係員は大きな緑色の扉の前で立ち止まった。
「二次試験会場はこちらになります」
発せられたその言葉に、全身が強張っていく。
ギギーー…
錆びた音を立て、係員が扉を開けた。
「中へどうぞ」
部屋の中へ促され、恐る恐る足を踏み入れると、そこには大量の鏡があらゆる方向に向けられ、無造作に置かれていた。
「……っ!なんだこれ……」
先程までの可愛いらしい廊下とは対照的に、異様な空気が漂うその部屋を見て、全身に鳥肌が立った。
「ここは入隊試験専用、"鏡の部屋"でございます。この部屋では、鏡も壁も壊れる心配はありませんので、思う存分武器をお使いいただけます」
係員が説明を終えると、突如床の中央が開いた。そこから、ウィーンと音を立てて出てきたのは、俺のルービックキューブと謎のフラフープだった。
「……フラフープ?」
これは何用だ……?
「まずは、ご自身のおもちゃをお取りください」
フラフープの存在が気になりつつ、とりあえず指示に従い、ルービックキューブを手に取る。すると係員は迷いなくフラフープを掴み、俺から十分に距離を取ったところで立ち止まった。
「これより、二次試験を開始させていただきます」
「……えっと、そのフラフープは何に使うんだ?」
俺の問いかけに、係員は薄っすらと微笑みを浮かべた。
「こちらは私のおもちゃ兼、武器でございます」
「武器……ってことは!?」
ドクン……
心臓が大きく脈を打つ。
「申し遅れました。私、覚醒届出センター兼、トイカルマ所属のマルと申します」
彼女はそう言って、微笑みを浮かべたまま胸に手を当て、深く一礼をした。
……まじかよ
TMIのただの係員だと思っていた彼女が、まさかのトイカルマの隊員だった事実に、一気に緊張が跳ね上がった。




