4話 決断
「入隊試験……?! 」
目をパチクリさせる俺に、係員は説明を続ける。
「はい。入隊試験の内容はお伝えできませんが、適正審査のようなものになります」
「……適正審査か」
確かに適正が無いようなやつに、武器を持たせられないもんな。
「もし試験を受けて、不合格だった場合は? 」
「その場合も、永久解除は必須になります」
「……そうですか」
俺はふと、頑丈そうな透明のケースに入れられたルービックキューブを、無言で見つめた。
「……それって、いつまでに決断すればいいんですか? 」
「選択猶予期間は、1週間になります」
「……その間、このルービックキューブはどうなるんですか? 」
「ご決断いただくまでは、武器の悪用防止対策のために当機関で厳重に管理されます。その間は、一切こちらのおもちゃに触れる事は出来ません」
「……」
重大な決断をする時こそ、そばに置いておきたいのに……
「では、説明は以上になります。この後は、覚醒の届出申請を進めさせていただきますね」
そう言って彼女は、すぐに手続きを開始した。
カチカチ……
静かな空間に、パソコンを打つ音だけが鳴り響く。
手続きをしている間も、俺はずっとルービックキューブを見つめていた。
「それでは、以上で申請は完了となります。
1週間以内にまた当機関にお越しいただき、先程のご回答をお願いいたします」
そう言って、ぺこりと頭を下げる係員。
「え、あれ?……これで終わりですか? 」
キョトンとする俺に、係員も不思議そうな表情を浮かべる。
「はい。本日の手続きは以上になりますが? 」
ちょっと待て。
バンリの話と違くね?
「……あの、プレイ承諾書ってやつは、いつもらえるんですか? 」
俺の質問に、彼女は一瞬驚いたように目を見開いた。
「失礼ですが、なぜプレイ承諾書をご存知なのでしょうか? 」
「それは、トイカルマのバンリってやつから聞いたんです」
「……そうでしたか。プレイ承諾書については、トイカルマに所属している者にのみ、お渡しできる書類となっております」
それってつまり……
「トイカルマに入らなければ、そのプレイ承諾書はもらえないって事? 」
「おっしゃる通りでございます。そもそも武器を扱うための書類ですので」
あいつ〜〜っ!
俺次第ってこう言う意味だったのかよ!
「……わかりました。少し考えてみます」
バンリに対する怒りをなんとか抑えて、椅子から立ち上がった。
係員も立ち上がり、俺に深くお辞儀をする。
そんな彼女に軽く会釈をして、チラリとルービックキューブに視線を移した。
暫くお別れだな……。
寂しい気持ちを、心の奥に仕舞い込んだ。
歩いて出口へと向かう途中、いつもの癖でポケットの中を無意識に探っていた。
……いやいやいや
ルービックキューブは、ないんだって。
さっき自分でお別れもしたじゃんか。
サッとポケットから手を出して、出口の扉に手をかけた。
だけどその瞬間、ゼンマイと戦った時の光景が、頭をよぎった。
あの時の"恐怖と焦り"。
子供を"守りたい"って思った強い気持ち。
それらが、一気に胸の中に押し寄せてきた。
「……」
扉を開けようとした手が止まる。
頭の中でいろんな考えが駆け巡る。
トイカルマは世界を守る、ヒーロー的な存在。
そんな部隊の試験を受けて、自分が受かる確率なんてほとんどゼロに近い。
だけど、あのルービックキューブは、せっかく俺の思いと共鳴して、覚醒してくれたんだ。
何もしないで永久解除してしまったら、共鳴したことまで無かったことになるみたいで嫌だ……
それに、覚醒するおもちゃは、サンタからもらったおもちゃ限定だって話。そこに隠された、秘密がどうしても知りたいと思った。
何故なら俺はサンタのおかげで、ルービックキューブで遊ぶ楽しさを知った。
そして、自分で何かを完成させる事の喜びを知り、"笑顔"になれた。
だからこそ、サンタがくれたおもちゃが、笑顔を奪う"武器"なんかに変わってしまう理由が知りたい…!
扉から手を離し、じっくりと自分の手を見つめる。
すると、ぼんやりとルービックキューブの面影が浮かんだ。
これは、今まで誇れる事なんて何も無かった俺が、"何かを守れる人間"になれるためのチャンスなのかもしれない。
——そんな考えが頭をよぎった。
試験内容も武器の扱い方さえも、全く分からないこの現状で、試験を受けるなんて正直怖い。
でも、なんでだろう……?
自信なんかこれっぽっちもないくせに、あいつと一緒なら不思議と何とかなる気がしてきた。
沸々と湧き上がる自分への期待。
サンタの秘密を知りたいという気持ち。
覚醒してくれた、ルービックキューブへの思い。
その三つが、一つの答えを導き出した。
……よし!
覚悟を決めて、扉に背を向け走り出した。
別に急ぐ必要なんてないのに、夢中で何かに向かって走り出す。そんな、生まれて初めての感覚だった。
はぁ、はぁ……
息を切らして、手続きしたカウンターに戻ると、さっきの係員が書類を整理している姿を見つけた。
「あの……! 」
呼吸を整えながら、声をかける。
「そんなに慌てて、いかが致しましたか? 」
肩で息をする自分とは対照的に、落ち着いた表情の係員。そんな彼女に向けて、俺はゆっくりと口を開いた。
「……した」
「はい? 」
あっ、やべぇ……。
走って来たのと、緊張とで、せっかくの覚悟を上手く言葉にできなかった。
仕切り直すために小さく咳払いをして、係員の目をしっかり見つめる。
「答え、決めました」
「そうですか。……では、どちらの選択をされますか? 」
ギュッと手に力を込めて、口を開く。
「俺は、誰かを守れる人間になるために……試験を受けます! 」
その言葉を口にした途端、ドキドキと心拍数が上がっていく。
「その決断に、迷いはありませんか? 」
係員はあくまで冷静に、俺にまっすぐに問いかける。
迷いか……。
さっきまでは、正直迷ってた。
でも、今は……
「ありません! 」
力強くそう言い切った。
そんな俺に係員は、初めて温かみのある表情でにっこりと微笑んだ。
そして、ゆっくりとこう言った。
「ロクさん……一次試験、合格おめでとうございます」




