3話 玩具特務機関《TMI》
「サンタ・クロースからもらったおもちゃに限る…?」
なんだよそれ……
ドクドクと、鼓動が早まっていく。
「意味わかんねぇ。誰からもらったって、おもちゃはおもちゃだろ?それなのに、どうして覚醒するのはサンタからもらったおもちゃ限定なんだよ?」
「……」
バンリはニヤニヤしながら、黙って俺を見つめる。
「は?ここまで言っといて、その先教えてくれねぇのかよ?」
段々このニヤケ顔に、腹が立ってきた。
「……そ〜んなに知りてぇか?」
「は?」
「そ〜んなに知りてぇなら〜…」
そう言って、少し先にある赤い屋根の建物を指差した。それは誰もが知っている玩具特務機関、Toy Mission Institute。通称TMIの本部だった。
「あそこで、プレイ承諾書をもらってこい」
「プレイ承諾書?」
初耳な言葉に、思わず首を傾げた。
「そう。その承諾書をもらわねぇと、サンタの話は教えられない決まりなんだよ」
「つまり、機密事項って事か?」
「そういうこと!」
「機密事項なのに、こんな途中まで喋って良かったのかよ?」
「まぁ、それは俺の塩梅だから」
「……」
なんとなく、バンリは適当なやつなのだと悟った。
「つーか、プレイ承諾書とかって話の前に、おもちゃが覚醒したら、まずTMIに届出が必要って規則だよな?」
「そうだな」
「届出したら、プレイ承諾書も一緒に貰えんの?」
「貰えるかもな」
貰えるかもな……?
その曖昧な返事に、不信感を抱いた。
だけど実際、サンタの話の続きがどうしても気になる。
「……まぁ、とにかく覚醒の届出は絶対だしなぁ」
「そうそう。とにかく行ってみろって!」
怪しげな笑みを浮かべるバンリは、やっぱり怪しさ満載だった。
「……あれ?つーか、お前が案内してくれるんじゃねぇの?」
「は?しねぇよ?」
……は?
「そもそも説明してやるとは言ったけど、案内してやるとは言ってねぇし」
こいつマジか……
「だったらあの場で、さっき話せば良かったのに……」
「あそこには子供もいたし、その内警察が来たら野次馬も集まってくんだろ?だからあの場ではゆっくり説明出来なかったわけ」
……それは、確かにそうかもな。
「でも、あんなに強引に連行する必要あった?」
「あーそれは、悪かったな!」
バンリは悪びれた様子もなく、手を合わせてサラッと謝るポーズをとった。
……何かこいつと喋るの、疲れてきた。
「まぁ、いいや。とにかくその、プレイ承諾書ってのをもらえば、サンタの秘密は聞けるんだな?」
「そうそう!」
「じゃあ、行ってみるわ」
「おう!また会えるかはお前次第だが、とにかく頑張れよ。じゃあな〜!」
ん……お前次第?
それって、どういう意味だ?
何となく引っかかって、聞き返そうと口を開いた瞬間、先程見たシャボン玉のような球体が、再びふわりと目の前に現れた。
「バンリ〜!こっちは終わったよ〜!」
シャボン玉の上には、シャルと呼ばれていた女性が乗っていた。
「おう!シャル、ナイスタイミングだ!」
バンリがシャボン玉の上に飛び乗ると、シャルが俺に声をかけてきた。
「あっ!君は、さっきの黒髪勇者くん〜!」
……黒髪勇者くんて、俺の事?
「あっ、どーも」
「ど〜も〜!」
「……」
変なネーミングだなと思いつつ、柔らかく笑う彼女の雰囲気に、なんだか少し緊張してしまった。
「んじゃ、お前は頑張れよー!」
バンリはそう言って、俺に元気よく手を振った。
「あっ、ちょっ!さっきの"お前次第"って……」
慌てて声をかけてみたが、もう遅い。
2人を乗せたシャボン玉は、あっという間に遠ざかって行ってしまった。
その場に1人取り残された俺は、呆然とその背中を見送る事しか出来なかった。
***
「で、でかっ……!!」
初めてのTMIの本部。
そのあまりの大きさに目を見張った。
建物自体は、白い壁に赤い屋根の塔が並ぶ、お城のような外見。入り口には大きな白い門、庭にはこれまた大きな噴水。その周辺にはたくさんの花が咲いていて、まるで絵本の世界に入り込んだような気持ちになった。
……と、とにかく、中に入ってみるか。
キョロキョロと辺りを見渡しながら建物内に入って行くと、案外すぐに"覚醒届出センター"の案内板を見つけた。
つーかこれ、本当に覚醒したのかも定かじゃないのに、このまま届出とか出してもいいのか?
今更ながら、ちょっと不安になってきた。
カチャ、カチャ……
気付けば手の中で、ルービックキューブを回していた。
「……あの、もしかして覚醒の届出でしょうか?」
突然、分厚いメガネをかけた女性係員が、声をかけてきた。
「えっと……」
「慌てなくて大丈夫ですよ。覚醒の有無はこちらで確認できますので。」
係員のその言葉に、少し安心した。
「じゃあ、これなんですけど……」
手に持っていたルービックキューブを、そっと彼女に差し出す。
「かしこまりました。それでは確認させていただきますね」
係員はルービックキューブを丁寧に受け取ると、カウンターの奥へと消えていった。
……なんか緊張してきた。これで、本当に覚醒してるか分かるんだ。バンリは「ほぼ確実」とか言ってたけど、実際どうなんだろうなぁ。
でも本当に覚醒してたら、それって実際めちゃくちゃ凄くね?
もしかしたら俺も、トイカルマに入隊出来たりとかする……?
そんな淡い疑問が、頭に浮かんだ時だった。
——「検査が完了しました」
聞こえてきた言葉に、ごくりと唾を飲み込んだ。
「ど、どうでした……?」
「結果は、こちらになります」
係員はそう言って、[検査報告書]という文言が記載された白い紙を、俺の目の前のカウンターに置いた。
「こちらのおもちゃは……」
係員が紙の中央を指し示す。
そこには、赤い文字で[覚醒反応確認済]と、大きな判子が押されていた。
「覚醒反応が確認できました」
「……っ!」
「恐らく、空間操作型の武器だと思われます」
空間操作型……
確かにバンリも、さっきそんなこと言ってた気がする。
「操作方法や能力については、こちらでは分かりかねますが、検査で覚醒反応を調べた際に、見た目がほとんど変わらなかったので、まず間違いないですね」
見た目がほとんど変わらない…
それも、あいつが言ってた通りだ。
「そして、ここからが本題なのですが……」
「……本題?」
紙から視線を外し、係員に視線を向ける。
「実は、届出を提出していただいた場合、今後トイカルマに入隊を希望するか、それとも覚醒を永久に解除するか、どちらかお選びいただく決まりになっています」
は……?
なんだその、極端な選択肢!
「何でそんな選択を……?」
「こちらのおもちゃは覚醒した時点で、ただのおもちゃではなく“武器”になりした。つまり、"管理対象物"に変わったという事です。そのため、おもちゃの武器を扱うことを許可されているトイカルマの隊員以外は、悪用防止のためにも、覚醒の永久解除が必須になります」
……なるほどな。
選択を迫られる意図はわかった。
だけど——
「その、永久解除っていうのは、おもちゃ自体に何か影響はあるんですか?」
「いえ、おもちゃ自体に影響はありません。あくまで"武器としての力"だけが、永久に失われます」
「……じゃあもし、このまま武器として使いたいなら、トイカルマに入隊を希望すれば、すぐにでも入れるんですか?」
俺の質問に係員は一瞬間を置き、ゆっくりと口を開いた。
——「トイカルマに入隊希望の方は、入隊試験を受けていただく事になります」




