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28話 万能な鉄壁

 

「ダーツ……一瞬で空間を貫くって聞いただけでも、相当強そうな武器だな」


 それに加えて、空間操作型ってことは必中か。


 瞬殺かつ必中って……


 ユイがトイカルマ最強と言われる理由が、なんとなく理解できた気がした。


「なんかもう、あの人だけチートだよなぁ。ダーツの武器特性聞く限り、デメリットなんかあんのかよって思うしなー」


 コーンが天井を仰ぎながら溜息を漏らすと、チャックもそれに続くように口を開いた。


「確かにあの武器のデメリットは、僕も知らない。そもそもユイが戦っているのも、一回しか見たことない」


「え、チャックも一回だけ?」


 ギョッとするコーンに、チャックはこくりと頷いた。


「ユイは基本1人で戦うんだ。共闘とかしてるところも見たことない……」


「まぁ、確かにそれだけ強い武器なら、協力とかも要らなそうだもんな」


 コーンとチャックの会話を聞きながら、ますますダーツに興味が湧いてきた時だった。


「俺らは先に戦闘訓練やってー」


 バンリのところで話していたはずのユイが、こちらに戻ってきた。


「了解」


「了解です!」


 すぐに返事をするチャックに続き、慌てて俺も返事をした。



 ***



「んじゃ戦闘訓練始める前に、ロクのおもちゃはどんな武器になるんか、聞かせてくれへん?」


「はい、俺の武器はこれっす!」


 ユイとチャックの前に、サッと六面を差し出す。


「このルービックキューブ"六面"は、面をずらすことで空間を歪ませて、衝撃を与える武器です。一面揃えるごとに威力が増します」


「ほーーーん。そう言う感じなんや。全面揃えるとどうなるん?」


 ユイの質問に、ハッとした。


 そういえば俺、全面揃えた事ねぇじゃん!


 今までの傾向を考えれば、最大威力が出るだけだと思うけど……


 考えながら、六面に視線を移す。


「実は、覚醒時に全面揃えた事ないっす……」


 俺の回答に、ユイはニヤリと口角を上げた。


「……揃えてみる?」


 その微笑み方は、どこかバンリに似ている気がした。


「は、はい!」


「ん。じゃあチャック頼むで」


「……了解」


 ユイの言葉に返事をしたチャックは、俺と少し距離を取った。


「お前、ちゃんと加減せぇよ?」


「適当にね……」


 ユイとチャックの会話が、俺の闘争心を掻き立てる。


 この前の見学で見た限り、チャックの敷は相当な質量の粘土を操っていた。あれだけの質量に、六面はどれだけの衝撃を与えられるだろう……


 そして全面を揃えた時、六面は最大威力の衝撃を放つのか、それともまた別の攻撃が出せるのか。


 今、判明する。



「準備ええか?」


「はい」

「うん」


 ユイの問いかけに、俺とチャックはそれぞれ返事をする。



「ほな、はじめ!」



 ——「〈シキ〉、プレイ」


「〈六面ロクメン〉、プレイ」——



 プレイ宣言とほぼ同時に、面が入れ替わった。


 チャックからすぐに攻撃が来るかと意識を向けるも、彼は敷を床と平行に薄く伸ばして浮かせたまま、微動だにしない。


 俺の攻撃待ちか?

 それなら遠慮なく……!



 カチャカチャ……


 素早く面をずらす。


 だが、ずらした程の僅かな空間の歪みでは、敷はピクリとも動かない。


 ここはとにかく一面を揃えることに集中しようと、頭を切り替える。


 カチャカチャ……


「……」


 一面揃えてみるも、敷は全く動じない。


 カチャカチャ……


 続いて二面を揃えるが、敷は一瞬ふわりと揺れただけだった。



 段々と焦りが浮かんでくる。


 その時ふと、研修時のバンリの言葉が頭に浮かんだ。


 ——"相手の攻撃の軌道を読め"


 そうか……!


 視線をチャックへと向ける。


 彼は敷を浮かせるためか、自身の両手で何かを持ち上げるような格好をしていた。


 見学の時には気づかなかったけど、敷はチャックの手の動きに連動して動くのか……?


 もしこの考えが合っていれば、今彼は上向きに力を加えている事になる。


 ってことは——


 ガチャカチャカチャ……


 三面を揃える間際に咄嗟に本体の向きを変え、下から上に向かって面をずらしてみる。


 ……これならどうだ?


 ——バン!


 敷が一瞬、ドーム型のように膨れ上がる。でもすぐに衝撃を吸収して、元の形に戻ってしまった。


「ロク、今の攻撃めっちゃええで!」


 今まで静かに見守っていたユイが、興奮気味に言葉を発した。


 よしよし……!バンリのアドバイス通り、軌道を読めば攻撃は受けやすいらしいな。



 カチャカチャカチャ……


 先程と同じように、下から上へ面をずらして四面を揃える。


 ——バコンッ!


 面を合わせた途端に、空間がうねるように歪んだ。

 同時に強い衝撃が生じて、敷が上に向かって弾き飛ばされそうになった。


 しかしチャックは即座に対応し、すぐに手で何かを包むような動作をして、衝撃を丸ごと飲み込んでしまった。


 くっそ……なんて万能な鉄壁だよ!


 カチャカチャカチャ……


 焦りを募らせながらも、急いで五面を揃える。


 今度は、包み込んだものを吐き出させるかのように、上から下への衝撃を放った。


 ——バコンッ!!


 かなりの衝撃音が響いたが、瞬時に敷は形を変え、上からの衝撃を包み込んだ。


 ……まじかよ、やべぇ。五面まで揃えたのに、敷はほぼノーダメージだ。


 これが六面こいつの、最後の攻撃だ……


 じんわりと手に汗が滲んできた。

 それでも六面を落とさないように、しっかりと握りしめ、最後の面を揃えた。


 ……カチャン


「これで全面だっ!!!」


 叫び声を上げたと同時に、敷を囲むように上下左右6方面の空間が一気に歪んだ。


 バンッ!バンッ!バンッ!バンッ!バンッ!バンッ!


 凄まじい衝撃が、敷を四方八方から叩きつける。


「……くっ」


 チャックは衝撃に耐えるように、ギュッと両手をまっすぐに伸ばした。


 だが次の瞬間——


 ググググググッ!!!


 全方向から押し込まれるようにして、敷がギュッと凝縮した。


 チャックは表情を歪ませ、両手は震え出していた。


 ……あとひと押しだ、頼む!!


 懇願しながら、祈るように六面を両手で挟み込んだ時だった。


 メキメキメキ……


 ——ボンッッッ!!!


 空間の歪みの囲いから、弾けるようにして敷が飛び出した。


「……嘘だろ?」


 慌てて視線を手元に移すと、全面揃えたはずの六面は、戦闘訓練前の状態に戻っていた。


「……覚醒が解除されてる」


 これって、俺が負けたって事か……?


 信じたくない気持ちと、全面揃えても勝てなかった悔しさで、膝から崩れるようにその場にしゃがみ込んだ。


「勝負ありやな。戦闘訓練は終了や」


 チャックと俺が向かい合うように立っていた中心へと、ユイがゆっくりと歩いてきた。


「六面は空間操作型やから、必中攻撃やんなぁ。せやけど全面揃えたところで、今のロクの力じゃチャックに敵わへんかったなぁ」


 ユイの無情な言葉が、心を抉るように深く突き刺さった。


「……」


 言葉がうまく出てこない。

 ただ悔しくて悔しくて堪らなかった。


「いや、こっちも相当なダメージだけど……」


 チャックはそう言って、手首を押さえ込んだ。

 辛そうな彼の表情を見て、ユイは心配そうに声をかけた。


「……その手、ちょっとしんどそうやな」 


「割としんどい」


「医務室で見てもらい」


「うん。行ってくる」


 チャックはそう言って、医務室の方へ向かった。

 そんな彼の背中を無言で見送っていると、ユイは再び俺に向かって喋り出した。


「……まぁ、取り敢えずこれで全面揃えた時の攻撃が、どんなもんかは分かった」


「はい……」


「初心者にしちゃ、威力も随分凄まじかったと思うで。現にチャックをあそこまで追い込めたしなぁ。でも……」


 そう言ってユイは顎に手を当てながら、ゆっくりとこちらに歩み寄ってきた。そして目の前まで来ると、俺に顔を寄せて小声で囁いた。


「……負けは負けや」


 ——ドクン。


「必中なんて最強の武器を持っているにも関わらず、持ち主がポンコツならおもちゃの持ち腐れやんな」


 鋭い言葉が胸に突き刺さった。


「どうや?心折れた?」


「……」


 トントンと、俺の肩を指先で叩くユイ。


「才能の無さに落ち込んでんとちゃう?」


 矢継ぎ早に酷い言葉を掛けてくる彼に対し、俺は無言で俯いたまま唇を噛み締めた。


 ……確かに俺がこの武器で戦うのは、宝の持ち腐れなのかもしれない。そして彼の言う通り、もしかしたら自分には戦う才能なんてないんじゃないかと思ってしまう。


 元々誇れるようなものが、何も無かったもんな……


 だけど——


 ゆっくりとその場に立ち上がり、胸の奥に湧き上がった感情を絞り出すように口に出した。


「……折れてねぇよ」


「んー?聞こえへんで?」


 耳に手を当て煽るように聞き返してきたユイに、臆することなく真っ直ぐな視線を向けた。


 ——「心は折れてねぇ……!」


 力強くそう言い切ると、ユイの口角が僅かに上がった。


「……へぇ?」


「俺は……強く……強くなりたいんです。だから俺に、空間を操る方法を教えてください!」


 そう言って俺は、彼に深く頭を下げた。


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