27話 空間を貫くおもちゃ
バンリは隊長を見送った後、壊れた机の後ろにゆっくりと移動した。
「それではこれより、命令を完遂させるためのチーム分けを執り行う。だがその前に……」
彼はそう言って、つなぎのファスナーに手をかける。
「あ〜〜〜苦しかったぁ」
勢いよくファスナーを下げ、着ていた赤いパーカーに、つなぎの袖をキュッと縛った。
あっ、いつものバンリだ。
見慣れた姿を目にして、少しだけ緊張が解けた。
「バンリが随分畏まってたから、こっちもだいぶ緊張しちゃったよ〜」
窓の近くに座っていたシャルが、苦笑いで言葉を漏らす。
「だってヴェロナのおっさん、まじで怖ぇじゃん?これ見ろよ。机をけん玉で叩き割るやつなんて、他に見たことねぇって……」
壊れた机の前にしゃがみ込んだバンリは、繁々とそれを見つめた。
隊長がいなくなった途端、こんなに空気が変わるものなのか……
バンリがビビるくらいだから、やっぱり隊長ってとんでもねぇ人なんだろうな。
固まっていた体をほぐすように、小さく肩を回した。
そのままポーチに入った六面に手を伸ばす。
カチャ、カチャ……
やっぱり、この音が1番落ち着くな。
すると、隣からコーンが小声で話しかけてきた。
「なぁなぁ、チーム分け。一緒になれたらいいな!」
ニコニコしながら、そんな嬉しい言葉をかけてくれた彼に頷き返した。
「俺、ロクの戦闘見たことないから、見てみたいんだよなぁ。空間操作型とかめっちゃ気になるし!」
「空間操作型……?」
コーンと話しているところへ、突然ユイが話に入ってきた。
「あ、はい!俺、空間操作型なんです」
「へぇ……」
ユイはパッと前に向き直る。
「バンリー」
「あん?」
「俺、こいつと同じチームがええんやけど」
ユイはそう言って、俺のことを指差した。
「ええっ?!」
突然の指名に驚いて声を上げる。
全員の視線が、俺に向けられた。
「ああ。元々そのつもり」
「さっすがバンリ!空間操作型は少ないから、色々教えたるわー!」
「あ……お願いします!」
ユイは俺に体を向け、手を差し出した。
少々驚きながらも、恐る恐る自分の手を彼の手に重ねた。
……つーかこの人、さっきと随分テンション違くね?
コーンにチラッと視線を向けると、ポカンとした表情でユイを見つめていた。
「はっ!バンリさん、俺もロクとユイさんと一緒がいいっす!」
ふと我に返ったコーンは、バンリに向かってパッと手を上げた。
「コーンは残念だけど、別チームだ」
「えーーーー」
バンリにバッサリと切られたコーンは、机の上に項垂れた。
「そんじゃ、そろそろ収集つかなくなるから、チームの発表始めんぞぉ」
そう言ってバンリはホワイトボードに、黒いペンで文字を書き出した。
俺はAグループ。グループのリーダーはユイ。そして、チャックが同じチームとなった。
コーンは、バンリがリーダーのBチーム。そこにはマルの名前もあった。フォルナとシャルは、ウズがリーダーのCチームとなった。
「チーム分けはこんな感じだ。パトロール兼情報収集中に複数のアビュサーと対峙した時に備え、1チームにつき拘束型1名を入れた3名体制とする」
各チームに、拘束型1名か……
「んっ?」
「どーしたロク?」
コーンが不思議そうな顔で、俺を見た。
「ウズって何型なの?この前転送してくれた人だよな?」
「ああ、ウズさんは拘束特化型だよ」
「拘束特化型?!」
「うん!巻で捉えて、そのまま拘束も転送も出来るんだぞ!」
……転送もできる上に、拘束も出来るなんてめちゃくちゃ便利な武器だなぁ。
ここ最近、俺はみんなのおもちゃがどんな武器に変わるのか、凄く興味を持つようになった。
不意に、目の前の席に座るユイに視線を向けた。
空間操作型の武器って言ってたけど、この人はどんなおもちゃを持っているんだろう?
そんな疑問が湧いたところで、バンリが手を叩く音が聞こえた。
「それともう一点。このチーム分けは、ただ適当に割り振った訳じゃない。各々のスキルアップも視野に入れての采配だ」
隊員達が、静かに相槌を打つ。
「今後集団戦闘が更に頻発化することを踏まえ、早急に各々のスキルアップを目指す。その為、チームごとに午前午後で別れて、戦闘訓練と情報収集兼パトロールを行う。詳細は各チームのリーダーに伝えるが、他になにか質問あるやついるか?」
バンリの問いかけに、挙手をする人はいなかった。
「よし、じゃあ各チームのリーダーは詳細を伝えるから、前に来てくれ。他の奴らはちょっと休憩な」
——「「了解」」
返事をしながら、戦闘訓練という言葉にワクワクしている自分がいた。
俺のチームには、トイカルマ最強のユイと、圧倒的な防御力を誇るチャックがいる。
2人とも俺よりも当然、格上だ。
そんな2人の胸を借りるつもりで、自分の実力をアップさせるチャンス!!
燃えないわけがなかった。
ポーチに入った六面をそっと取り出す。
その瞬間、ユイが体ごと俺の方に振り返った。
「チャックがビシバシ訓練してくれるやろから、ロクは覚悟しとき」
そう言いながら、ユイはお面をそっと外した。
「……!」
初めて見る彼の素顔を、俺とコーンは凝視してしまった。
透けるような真っ白な、きめ細かい肌。目は少し吊っていて切れ長。鼻筋がスッと通り薄い唇をした、フォルナとはまた違ったタイプの整った顔をしていた。
「え……僕なの?ユイは?」
チャックは、不満そうに口を尖らせた。
「俺じゃ、瞬殺してまうやろ」
頬杖をつきながら六面を見ているユイ。
その余裕そうな言い方に、少しだけイラッとした。
「……そうすか?そんな事も、ないかもですよ?」
俺だって毎日、フォルナ相手に戦闘訓練したり、面を揃えるスピードを上げるために、時間を見つけてはトレーニングに励んでいる。
だからこそ、戦闘してる姿を見た事もないこの人に、そんな風に言われたくない。
少しだけ語尾に熱がこもった言葉を向けた俺に、コーンは気まずそうに俯き、ユイはふっと笑った。
「いいなぁ!その強気な感じ、嫌いじゃない。でも悪いなぁロク。俺、みんなと違って出来へんねん」
「出来ない……?」
「手加減」
「……っ!」
確かに俺は、フォルナの6割、マルの2割の力でやっと戦えるくらいだ。あの時よりも少しは成長してると思うけど、言い切る自信はまだなかった。
何も言い返せずにいると、ユイは言葉を続けた。
「でも安心せえ。戦い方なら教えたるわ」
「……どういう意味だ?」
「空間を操る訓練は、してやるってことや」
ユイはそう言って、俺の額を軽く弾いた。
「おい、ユイー!さっさとこっちこーい」
バンリに大声で叫ばれたユイは、気怠そうに立ち上がった。そのまま俺たちに背を向け、下駄をカランカランと鳴らしながら、前の方に行ってしまった。
額を抑えながら彼の背中を見送る俺に、コーンが興奮気味に背中を叩いてきた。
「ロク、お前よくユイさんにあんな事言えたなー!」
「だって……」
「あの人、本当に瞬殺で有名なんだよ!狐の面に見られたら最後。気づいた時には、覚醒は解除されてるって噂があるんだよ!なぁ、チャック!」
「なんだそれ?」
そんな事あり得るのか……?
疑問を浮かべながらチャックに視線を移す。
チャックは俺と目を合わせないまま、俯きながら答えた。
「……うん。その噂は本当だよ。だからこそ、ユイがさっき言ってた通り、彼は手加減ができないんだ」
「そんな……なぁ、ユイの武器って一体なんなんだ?」
俺の質問に、チャックは少しだけ目線を上げた。
——「一瞬で空間を貫くおもちゃ、ダーツだよ」




