22話 早朝のジムで
ピンポーーーン。
朝の6時。
突然鳴り響いたチャイムの音で目が覚めた。
……こんな朝早くから誰だよ?
眠い目を擦りながら、部屋の扉を開けてみる。
——「オハヨウゴザイマスッ!!!」
扉の向こうから元気よく声を掛けてきたのは、おもちゃの兵隊だった。
「……うぉおお!」
大きな声で叫んでしまった口を、慌てて自分の手で塞ぐ。
近所迷惑になると悪いので、そのまま俺は兵隊を部屋の中へと入らせた。
「ビックリしたぁ。一体こんな朝早くから何の用だよ?」
扉を閉めてそう問いかけると、兵隊は持っていた紙袋を差し出してこう言った。
「ユニフォーム、デキマシタ!」
「えっ!!まじ?!」
途端にテンションが爆上がりして、急いで兵隊の手から紙袋を奪い取る。
ゴソゴソと袋の中を漁り、どんどん中身を取り出していく。
「……すっげぇ!これが俺のユニフォームか!」
ベットの上に広げたそれは、フード付きのパーカーのような形をしていて、上下セパレートタイプだった。左胸の部分には、TMIの金色に光るバッジが付いている。
その他にも、バンリ達が付けていた腕時計や、六面がピッタリ入りそうな四角いポーチなども一緒に入っていた。
腕時計が入っている袋には、[常時身につけること]というポストイットが貼られていた。
「この時計って、みんなが付けてたやつだよな?」
「ソウデスネ。ソレハ、レンラクヨウキキデス。ツネニ、ミニツケテクダサイ。」
「分かった」
兵隊にそう返事をして、すぐに腕時計をつけた。
画面に表示されているのは、デジタル時計。
そこを軽くスライドしてみると、個別に連絡できる機能や、モニタールームとの接続、位置情報管理やマップなどの項目が並んでいた。
「すげぇな、これ」
「ベンリデスヨ」
腕時計に感動しつつも、俺の心は完全にユニフォームに向いていた。
「あのさ、腕時計の使い方は、あとでバンリ達に聞くとして……このユニフォーム、今すぐ着てみたいんだけど?」
「モチロンデス」
やったぁぁあああ!
兵隊の返事を聞いて、即座に寝巻きの上からユニフォームを羽織ってみた。
急いで鏡の前に移動して、ユニフォーム姿の自分をじっと見つめる。
……やっば。俺、完全にトイカルマの隊員だ!!
トイカルマの象徴とも言える、赤青白の3本ラインを指でそっとなぞる。
そのままニヤニヤと鏡を見つめる俺に、兵隊が後ろから声をかけてきた。
「ユニフォーム、キニイッテイタダケマシタカ?」
見られていた事に少し恥ずかしくなりながらも、勢いよく首を縦に振った。
「めちゃくちゃ気に入った!こんなに早く作ってくれてありがとうな!」
「ソレハヨカッタデス」
兵隊はそう言って敬礼をすると、部屋から退散した。
俺は完全に目が覚めてしまったので、朝食の前に軽く運動でもしようと思い立った。
隊服を丁寧に畳んでクローゼットにしまう。
そして、ジャージに着替えてジムへと向かった。
「……あれ?フォルナ?」
ジムの扉を開くと、ベンチに座ってタオルで汗を拭うフォルナの姿があった。
「おう。ロクおはよう」
「おはよう……って、こんな朝早く運動してたのかよ?」
「まあな」
「本当にストイックだな」
「そうか?」
フォルナはそう言って、ごくごくと喉を鳴らしながらペットボトルの水を口に含んだ。
「ロクも、トレーニングしにきたのか?」
「あー……俺は兵隊から隊服受け取って、そのままテンション上がって目が覚めちゃったんだよ」
「なるほどな」
「お前は?まさか毎朝こんな時間にここに来てるわけじゃねぇよな?」
「いや、俺は毎朝の日課だから」
何てことないように返事をするフォルナに、思わず目をパチクリさせた。
「……毎朝の日課?!」
「うん」
こいつ本当に努力家だな……。
なんだか背筋が伸びる思いだった。
フォルナの隣にドサっと腰を下ろした。
「なんかさートイカルマの人達って、本当に凄ぇやつらばっかだよなぁ」
ふと、心の声が口から漏れた。
「それは、この前の見学の感想か?」
「それもあるけど、お前もこんな朝早くから鍛えてるなんて尊敬しかねぇよ」
俺の言葉に、フォルナはなぜか顔を俯けた。
「俺は、弱いからな。少しでも強くなれるように頑張んなきゃ、どんどんみんなに置いていかれる」
「どういう意味だ?」
「そのままの意味だよ。俺は全然強くないし、武器の扱い方も上手くねぇ。戦闘訓練の時に聞いただろ?マルは1割2割の力でお前と戦った。でも俺は、6割出しても入隊したてのお前に負けたんだ」
「それは……」
「後から入ったコーンも凄いやつだし、多分俺には元々戦闘のセンスがねぇんだよ」
苦しそうな表情でそんな言葉を言うフォルナに、俺は慌てて言葉を掛けた。
「いや、それは言い過ぎだろ?!この前だってバンリに褒められてたし!」
「褒められたのは、投げた時の速度だけだろ?」
「……」
吐き捨てるような言葉に、なんて声を掛ければいいか分からなくなった。
「……孤月は、投げるだけじゃダメなんだよ」
少しの沈黙の後、フォルナは悲しそうにそう言った。
「何で投げるだけじゃ、ダメなんだ?」
「これは本来、中近接戦闘向けの武器なんだ」
その言葉を聞いて、戦闘訓練時のバンリの言葉を思い出した。
——"近距離戦闘を避ける癖がある"
バンリは講評の時、フォルナに確かそんな事を言っていた。
「……ブーメランて、元々遠くに投げて使うおもちゃだろ?それなのに孤月は、中近接戦闘向けなのか?」
「そう。玲や土竜みたいな武器が、遠距離戦闘向け。孤月はあくまで手で投げるものだから、そこまでの飛距離は出ない。刃がついてて重さもあるから、投げ回すのもしんどいしな」
「ああ、なるほどな!それじゃフォルナは、そのために鍛えてんのか」
1人で納得していると、ふいに小さく呟く声が聞こえた。
「鍛えるだけで、出来るようになれば良いのにな……」
そう言って孤月を握りしめるフォルナの手は、少しだけ震えているように見えた。
「鍛えるだけじゃダメなのか?」
頭に浮かんだ疑問をそのまま口にすると、彼は悲しそうに顔を歪ませた。
「……刃を持ったまま戦うのが怖いんだ。」
「怖い?」
シーンと静まり返る空気の中、フォルナはゆっくりと口を開いた。
——「俺は一度、人を刺した事があるんだ。」




