21話 見学
「お〜い!ロク〜!」
名前を呼ばれて、振り返った。
少し遠くからシャルとチャックが、こちらに向かって歩いてくる姿が見えた。
「おー!2人ともすっげぇカッコよかった!!」
「ありがとう〜!ロクはバンリにぶっ飛ばされてたけど、無事で良かったね〜!」
そう言って無邪気に笑う彼女は、先程まで大砲をぶっ放していただなんて到底思えなかった。
_数分前。
シャボン玉に包まれ、ハンマーでぶっ飛ばされた俺は……
「いやぁぁぁぁあああああ!!!」
1人で絶叫していた。
……どこまで飛ばされんだよー!
猛スピードで飛んでいく先には、突如として巨大な緑色の壁が現れた。
ぶつかるっ!!
そう思ってギュッと目を瞑った瞬間——
ふわっ……
巨大な壁は俺が入ったシャボン玉を柔らかく包み込むと、そのまま滑り台のように形を変え、高台の上へと着地させてくれた。
「助かったのか……?」
ペタペタと自分の体を触って、無事なことを確認する。
つーか、なんだこの壁?
壁を凝視してみたけど、それが一体何なのかは分からなかった。
すると、はるか上空から突然爆発音が鳴り響いた。
ドドドドドォーーーンッ!!!
驚いて上を見上げる。
「え、シャル……?!」
思わず目を疑った。
視線の先にいたのは、シャボン玉の上に立ち、バズーカと化した玲から大砲を発射させるシャルの姿があった。
……さっきは、シャボン玉みたいなふわふわしたやつ出してたのに、あんなガチな大砲まで出せんのかよ?!
ジェット機に向けて、次々に大砲を撃ち放つ彼女は、普段からは想像もつかない真剣な表情をしていた。
そんなシャルの姿に目を丸くしていると——
ズズズズズ……
背後から地面を擦るような、奇妙な音が聞こえてきた。
何事かと振り向けば、先ほど俺を着地させてくれた謎の壁が、どこかへ吸い寄せられるように猛スピードで飛んでいった。
……あの壁は、一体どこに向かってるんだ?
目で追いかけると、それは空中で風呂敷のように薄く大きく広がった。
——バサッ。
そのままシャルが打ち落としたジェット機を包み込むと、いとも簡単に捻り潰した。
少し遠くに見えるのは、なにかを操作するように両手を動かす緑色の髪の少年。
あの物体は、チャックの武器だったのか……!
大胆に砲撃するシャル。相当な物質量の物体を自在に操り、徹底的に戦闘のサポートをこなすチャック。
抜け目のない完璧な連携。まさに阿吽の呼吸だった。
2人の戦闘をじっと見つめていると、今度は地上から何かが弾ける音がした。
目線を下に向ければ、赤と青の2台の車が下から突き上げられるように弾け飛び、宙を舞っていた。
「……あれは、地雷か?!」
飛び上がる車の先には、巨大化したホッピングで高くジャンプするコーンの姿。
彼が着地したと同時に、猛スピードで車に向かって突っ込んできたのは、大きな鉄の塊だった。
弾け飛んだ2台の車に直撃したそれは、引き合うかのようにして激突した。
——バゴォーーーン!!
鉄の塊が飛んできた方向には、見慣れた赤いパーカーを着た金髪の男の姿があった。
「みんな、こんな強ぇのかよ……」
自然とそんな言葉が、口から溢れ出た。
地上でも上空でも抵抗の余地を与えず、戦力で圧倒するトイカルマの隊員たち。
——だが、それで終わりじゃない。
次に彼らが動いたのは、アビュサーの確保だった。
アビュサーの逃げ道を壁で塞いで、シャボン玉で確保するシャル達。
大爆発で立ち込めた煙の中へ、躊躇なく入っていくコーン。
ダルマを勢いよく撃ち放ち、逃げようとしていたアビュサーを捕まえたバンリ。
迅速かつ的確に自分の役割をこなす4人の姿を、六面を握りしめながら目に焼き付けた。
そして現在__。
「なぁ……俺を助けてくれたの、お前の武器だよな?」
チャックへ、問いかけた。
「……うん」
彼は目を合わせずに、小さく返事をした。
「あれはチャックのおもちゃの粘土、敷って言うんだよ〜」
「敷か。お前のおもちゃめちゃくちゃ凄い武器だな!助けてくれてありがとうな」
「……うん」
チャックは照れたように、顔を俯けた。
「ねぇねぇ、実は私とチャックは同期なんだよ〜!」
「はぁ?!同期?!」
どう見てもチャックは自分より年下に見えるから、シャルと同期というのは少し驚いた。
「……え、2人って歳はいくつ?」
どうしても気になって、ついそんな質問をした。
「あ、まだ言ってなかったね〜!私は17で、チャックは13だよ〜!」
「ええーーー!チャック若っ!!」
驚いて大きな声を出したせいで、彼は肩をビクッと震わせた。
「チャックはね〜、10歳で覚醒した最年少入隊者なんだよ〜!」
「10歳っ?!」
そんな年齢で覚醒するほど強い思いを抱くなんて、一体どんな過去があったんだ……?
思わずチャックを凝視してしまった。
するとそこへ——
「おーーーい!」
こちらに向かって、大きく手を振る2人組の姿が見えた。
「あ〜!バンリとコーンだ〜!」
シャルが大きく手を振り返すと、コーンがニコニコしながら駆け寄って来た。
「お疲れーーー!」
「お疲れ〜!」
「……お疲れ様」
にこやかに労い合う三人を、どこか羨ましいような、誇らしいような……
そんな複雑な気持ちで見つめた。
「あー、つっかれたぁ」
突然バンリの声が聞こえたと同時に、ズッシリとした重さが肩にかかった。
「……重てぇんだけど」
「んー?そんな羨ましそうな表情しちゃって、どうしたぁ?」
バンリはそう言って、俺の顔を覗き込んできた。
「別に……。つーか!お前にぶっ飛ばされて、こっちは死ぬかと思ったんだからな?!」
「でも、ピンピンしてんじゃん」
「それは結果論だろ?!」
「結果論じゃねぇよ。作戦通りにいっただけ」
作戦通り……?
「チャックが受け止めるって分かってたってことか?」
「まあなー。」
……本当かよ。
口から溢れ出そうになった言葉を、どうにか飲み込んだ。
「それより、ロク。今日の俺らの戦闘を見て、何を学んだ?」
急に改まった顔を向けたバンリに、何となく背筋が伸びた。
「武器をただ扱うだけじゃなくて、相手の動きを予測したり、仲間との連携も大事なんだなって気づいた。それと……」
「それと?」
小さく息を吐く。
今日の見学を通して、一番学んだこと。
それは——
「俺らはおもちゃと戦ってるんじゃなくて、アビュサーと戦ってるってことを再確認した」
俺の回答に、バンリはいつものようにニヤリと口角を上げた。
「ちゃーんと学習したみてぇだな。その通り。俺らの敵はおもちゃじゃなくて、アビュサーだ!」
彼はそう言って、先程まで戦っていた場所に視線を落とした。
「アビュサーを捕まえて初めて、俺らは勝利を手にする!」
バンリのその言葉に、その場にいた全員が深く頷いた。
***
シャンデリアが光を灯す、広々とした空間。
そこには、ビリヤードやルーレット台、スロットマシンなどが無造作に置かれている。
部屋の中心にあるカジノテーブル。
その隅にある大きなモニターを、じっと見つめながら座っている数人の陰……
モニターには、ラジコンのおもちゃと戦うトイカルマの隊員達が映し出されていた。
「ラジコンカーに、ジェット機。ミサイルまで奮発したのに、アビュサーが弱すぎて全然ダメじゃん?トイカルマの相手にもならないじゃん?」
男は退屈そうな声を漏らしながら、ピンク色の長い髪をくるくると指で回した。
「けしからん!けしからん!あんな雑魚共をいくらかき集めようと、微塵も戦力にならんわ!」
タバコの煙を吹かしたハンチング帽を被った老人は、声を上げた。
「まぁまぁ。焦らずとも、ゆっくり彼らの実力を《《見極め》》ましょうよ」
2人を手で制すのは、左右で黒と白に別れたスーツに身を纏う男。
「私は正直、トイカルマ現最強の男”イチ”にしか興味ないかなぁ。……あ、でもつい最近入った空間操作型のロクってもちょっと気になるなぁ」
ふっわふわに巻かれた虹色のツインテールを揺らす女は、楽しそうに声を弾ませた。
その直後——
シャラン……
モニターに映っていた映像が、儚い硝子音と同時に切り替わった。
そこに映し出された人物に、スーツの男は言葉をかけた。
「やはりトイカルマ相手では、そこらの小物では全く歯が立たないようですね」
男のその言葉に、静かに頷いた人物。
分厚いメガネに、紫色の髪の毛。
トイカルマの隊服に身を包んだ彼女の名前を、スーツの男は口にした。
「——ねぇ? マル。」




