19話 玲×敷
♢シャルside
「チャック〜!遅れてごめんね〜!」
ロクをシャボン玉で包んだ後、私は急いでチャックの後を追った。
「大丈夫。それよりどう戦う?」
チャックは走りながら、視線を上に向けた。
「う〜ん、とりあえずジェット機の狙いが分からないからなぁ〜。」
「狙いなら分かったよ。」
彼は上空を指差した。
「なになに〜?」
差し示す先には、飛行するジェット機。その内の1機の機体の下部には、なにやら黒くて細長い筒状の物体が取り付けられていた。
じっと目を凝らしてみると……
「うわ〜。あれは最悪だね〜。」
そこに取り付けられていたのは、小型のミサイルだった。
情報共有するために、急いでバンリに連絡を入れる。
「バンリ〜!こっちのジェット機、ミサイル付きだからそっちも何かあるかもよ〜。気をつけてね〜!」
"まじかー。了解。"
彼の返事を聞いて、すぐに通話を切る。
「目的は知らないけど、ミサイルを落とされる前に、早いとこ仕留めに行かなきゃね〜。」
走りながら、玲に長く息を吹き込んだ。
…ポワン。
玲から生成された大きなシャボン玉の上に、ヒョイと飛び乗る。
「それじゃ、私は空から攻撃してくるね〜。」
そう言って、その場から飛び立とうとした時だった。
——バァァァンッ!!
背後から、聞き覚えがある打撃音が聞こえてきた。
これは、まさか……?
振り返ってみると、先程ロクを包んだシャボン玉が、猛スピードで上空を飛び去っていくのが見えた。
……あっ、あの場所で見学させるんじゃなくて、間近で戦闘の見学をさせるつもりなのね〜!
バンリの意図を察し、すぐにチャックを呼ぶ。
「チャック〜!私がジェット機を《《撃ち落とす》》までに、あのぶっ飛ばされてるシャボン玉を受け止めて、高台に着地させといてくれる〜?」
「うん。分かった。」
チャックは返事をしながら、小さなポシェットに手を突っ込んだ。そして、彼のおもちゃ"粘土"を取り出し、手で挟み込んだ。
「〈敷〉、プレイ。」
彼がプレイ宣言をした直後、ロクを入れた球体の進路を塞ぐように、粘土の壁が反り立った。
球体はそのまま壁にぶつかり衝撃を吸収された後、斜面に沿って滑り台のように高台の上へと着地した。
その様子をしっかりと見届けながら、私はシャボン玉に乗ってぐんぐん空へと上昇していく。
ここまで来れば、街に被害は出ないかな〜…?
頭の中でミサイルと自分の攻撃の規模を予測して、安全範囲であることを確信した。
球体の上にバランスをとりながら、サッと立ち上がる。
「玲、行くよ〜!」
肺に大量の酸素を取り込むように、深く息を吸い込む。そして吹き口に向かって、連続で短く息を吹き込んだ。
ドドドドドォーーーンッ!!!
5発の大砲が、勢いよく玲から発射する。
2機のジェット機は、それを避けるように左右に機体を揺らした。
いいねいいね〜。
機体が揺れれば、それだけ速度が落ちるんだよね〜。
「まだまだ行くよぉ〜っ!!」
狙うは、ミサイル付きのジェット機の翼。
そこにしっかりと銃口を定める。
ドドドドドォーーーンッ!!!
ドドドドドォーーーンッ!!!
左右の揺れを予想して10発の大砲を撃ち込むと、ミサイル付きのジェット機の翼に、数発の大砲が命中した。
雲を突き抜けて、落下していく機体。
私はすぐに腕時計で、チャックへと指示を出した。
「チャック、ミサイル付きが落ちたよ〜。キャッチしてね〜!」
"了解。"
チャックが返事をした次の瞬間、
——バサッ。
上空を覆うように、敷が視界いっぱいに広がった。
ジェット機はそこに向かって、一直線に落ちていく。
ボスンッ……
敷がジェット機をキャッチした。
そのまま瞬時に包み込み、タオルで水を絞るようにして機体を捻り潰した。
シュウ……
ジェット機の覚醒は解除され、ただのラジコンのおもちゃへと戻っていく。機体に付けられていたミサイルは、音もなく敷によって粉々に砕け散った。
"1機目確保。ミサイルは破壊完了。"
「ありがと〜。」
チャックにお礼を言って、もう1機のジェット機に視線を向ける。
「次は君の番だよ〜。」
すうっ……
深く息を吸い込み、機体の中心部分に狙いを定める。
そして一瞬のうちに、全ての息を吹き口へと注ぎ込んだ。
ドォーーーンッ!!
爆風により、周辺の雲が揺れる。
白い閃光と共に、今日一番の爆音が空に轟いた。
煙の中を裂くように、覚醒が解けたジェット機のおもちゃが墜落していく。
——落ちていく先には、敷が広がっていた。
ポトッ……
"2機目も無事に確保。"
「了解〜!あとは仕上げだね〜。」
喜ぶ暇もなく、上空からアビュサーらしき姿を探す。
すると、おもちゃが落下した付近のビルの屋上に、リモコンを持って逃げようとしている2人組の姿を捉えた。
「アビュサー2人組発見〜!敷の近くの一番高いビルの屋上!」
チャックに場所を告げて、すぐに急降下する。
"こっからじゃ見えない。細かく指示して。"
「外の階段を降りようとしてるから、そこを塞いで〜。」
"了解。"
私の指示通り、チャックは外階段を下から上へ敷を伸ばして包み込んだ。
「チャック、ナイス〜!」
突然出口を塞がれたアビュサー二人組は、絶望の表情を浮かべて、その場に膝をつき倒れ込んだ。
そんな彼らに猛スピードで近づきながら、銃口を向ける。
「や、やめろ!殺さないでくれ!!」
銃口を向けられたアビュサーは、腰を抜かして後退りする。
「失礼だな〜。トイカルマが人を傷つけるわけないでしょ〜?」
それだけ言って、吹き口に長く息を吐き出した。
……ぽわん。
「「え……?」」
玲から生成されたシャボン玉により、無事にアビュサー二人組の確保に成功した。
「確保完了〜。」
"了解。"
チャックに連絡を入れてすぐ、私はその場に倒れ込んだ。
「はぁ、はぁ……」
大量の大砲を撃ち込んだあとは、軽い酸欠状態になる。これが玲の欠点だ。
今回はだいぶドデカいの撃ち込んだからな〜…
ゆっくりと目を閉じる。
呼吸を整えるために、何度か深呼吸を繰り返した。
暫くそうしていると、不意に上から声が落ちてきた。
「シャル酸欠?大丈夫?」
声に反応して、ゆっくりと目を開く。
「平気平気〜。」
私の返事に、少し困惑している様子のチャック。
基本的に表情の変化が少ないチャックだけど、私には分かる。
……君なりに、心配してくれてるんだよね〜?
「よいしょ〜。」
チャックを安心させたくて、ゆっくりと体を起こす。
彼に視線を合わせるようにして、にっこりと微笑みかけた。
「チャック〜、私たちの完全勝利だね〜。」
そう言って拳を彼に向けた。
「……そうだね。」
彼は安堵の表情を浮かべると、自分の拳を私に拳に合わせた。
——コツン。
2人同時に顔が綻んだ。
「お疲れ様〜。」
「おつかれ。」
こうして私達は、勝利の喜びを分かち合った。




