16話 講評
バンリの言葉に、僅かに背筋が伸びた。
戦った相手ではなく、第三者目線で俺の戦い方はどう見えたのか。正直、めちゃくちゃ気になる。
じっと言葉を待つ。
すると……
「お願いします。」
フォルナがバンリに向かって、お辞儀をした。
「あっ、お願いします!」
俺もそれに続くように、慌てて頭を下げた。
「んー?俺はロクの講評しようと思ったんだけどなぁ…。フォルナも一応やっとく?」
「してくれるなら聞きたい。」
「フォルナは、本当に戦いになると貪欲だねぇ〜。」
バンリの問いかけに、真面目に答えるフォルナ。
シャルはそれを見て、クスクスと笑っていた。
「じゃあまずは、フォルナ。お前5割であの速度とは、中々に伸びてきたんじゃねーの?」
バンリの言葉に、一瞬目を見開くフォルナ。
でもすぐに表情は元に戻った。
「最初は5割だったけど、ロクが二面揃えた時の衝撃が想像以上だったから、途中から6割出してた。」
「は……?」
ちょ、ちょっと待て!
「ご、5割って、5割の力しか出してねぇって事?!」
「力っていうか、スピードだな。でも途中から6割出してた。」
いやいやいや……!!
「何だよそれ!全力でやってたら、結局俺はボロ負けじゃん!」
さっきの感動返せよ……
ズーンと落ち込む俺に、バンリがため息をついた。
「お前よぉ、昨日覚醒したばっかのやつに全力でやってみろよ。歯が立たないどころか、心折れんだろ?」
「……」
それは、おっしゃる通り。
「言っちまえば、昨日の試験でマルは1割しか出してねぇぞ。ま、途中から2割程度だったらしいけどな。」
嘘だろ……。あれで2割?!
「ちょっと待て、マルってそんな強ぇの?!」
「マルは強いよ〜。拘束特化型は汎用性強いからね〜。」
「まじか。確かにあの余裕な感じ、強そうだとは思ってたけど……」
「結構重量がある武器だから、使いこなせるようになるまでは、相当大変だったみたい〜。そこは本人の努力の賜物だよね〜!」
……言われてみれば、見た目も鉄の塊みたいに変化してたし、かなり重そうだったな。
きっとそれが、武器のデメリットなんだろうな。
視線を、ルービックキューブに向ける。
……こいつの場合、必中っていう最強の攻撃があるけど、覚醒した途端に面が入れ替わるから、下準備が出来ない。つまり面を揃えるのに時間がかかるところが、こいつのデメリットってわけか。
すっかり考え込んでしまった俺に、バンリが声をかけた。
「お〜い。講評続けるぞ?」
……しまった。つい考え込んでた。
「お、おう!すまん!」
「ん。で、続きだけど、フォルナは斬撃戦闘型を生かして、更にスピードを磨け。孤月が重てぇのは分かるが、振る動作がまだ長い。それと、近距離戦を避ける癖が出て、相手との距離を取りがちだな。」
「的確で何も言えねぇな。」
バンリからのアドバイスを受けたフォルナは、なんとなく悔しそうに見えた。
孤月も重い武器なのか……。
それにしても、
「今、斬撃って言った?孤月は打撃じゃねぇーの?」
「孤月は斬撃だ。外側に刃があったの気づかなかったか?」
フォルナの言葉に、先程までの戦闘を思い返す。
……刃ねぇ、
「ぜんっぜん、気づかなかった!」
「おいおい、武器をちゃんと見るのも、大事だぞー。いい学びになったな?」
そう言ってニヤニヤするバンリに、言い返す言葉が見つからなかった。
「……はい。」
俺が返事をすると、更に満足そうにバンリは微笑んだ。
なんかもう、落ち込むような事ばっかだな……。
つい、ため息がこぼれた。
「でもよぉ、試験の時も今回の戦闘訓練でも、お前は1割の力を2割に、5割の力を6割に引き出した。そこは自信持っていいとこなんじゃねーの?」
「俺もそう思う。」
「伸びしろがありまくりだねぇ〜!」
「……っ!」
3人の言葉が胸に刺さった。
そっか、そうだよな……!
俺ら、まだまだこっからだよな?
ルービックキューブに問いかけるように、心の中で呟いた。
「あぁ、こっからだ。こっから俺は全員の本気を引き出せるくらい強くなる……!」
気づけば決意のような言葉を口にした俺に、3人は力強く頷いてくれた。
「じゃあ、そろそろ本題のロクの講評と行きますか。」
「おう!」
こうなったら全部言われた事を吸収して、成長してみせる……!
自分でも驚くほどの、気合いのこもった返事をした。
「まず、お前がルービックキューブの全面を見てから、一面揃えるまでの時間は7秒。」
「早〜っ!」
……いつの間に、測ってたんだよ。
そう思いながらも、一応自分のノートにメモを取る。
「その後は、一秒ずつくらい短くなってた。素人から見たらとんでもねぇ早さだが、武器として使うなら、もっと早くする必要がある。」
「分かった。」
バンリに返事をすると、横からフォルナが質問をしてきた。
「でもそれって、最初から下準備とかしておけば、楽なんじゃねーの?」
「私も思った〜!」
フォルナに同意するシャル。
そんな2人に俺は首を横に振る。
「実はさっき知ったんだけど、覚醒した途端、面が入れ替わっちまうみたいなんだ。」
「……そうか。じゃあ下準備も出来ないのか。」
「見た目に大きな変化はないけど、面だけは変わるんだね〜。」
「ああ。しかも面の配置によって、難易度も結構変わるんだよなぁ。」
ルービックキューブを見つめながら、心の声が漏れ出した。
まぁ、でも……
「そこは俺が頑張るとして、他には何かあった?」
俺の問いかけに、バンリはすぐに答えた。
「相手の攻撃の軌道をしっかり見る事だな。孤月だったら、回転する向きと逆方向から攻撃をぶつければ、例え一面でも何も考えずに当てるよりマシになんだろ?」
確かに。
「私はまずロク自身の、身体能力を上げる必要があると思う〜!最初の攻撃までに時間がかかるなら、尚更捕まらないようにしなきゃだしね〜。」
おっしゃる通りだ。
「全体的に焦りすぎ。もう少し冷静になれ。」
……ぐうの音も出ねぇ。
3人から言われた的確なアドバイスを、メモをとりつつ必死に整理する。
まずは、ルービックキューブの完成までの速度を上げつつ、攻撃の軌道を読んで面を動かし、自分自身の身体能力の強化と、冷静な判断……
「うわぁぁあああ!」
課題が山積みで、頭がパンク寸前。
叫び声を上げた俺を見て、3人はクスクスと笑っていた。
「先は長いけど努力あるのみだね〜。」
「頑張れ。」
「全員に本気出させるには、まだまだ時間がかかりそうだなぁ?」
あ〜〜〜!!
バンリ、クソうぜぇ!!
でも、実際返す言葉が見つからない。
「これから、努力します……」
自分の言葉を噛み締めるように、そう口にした。
その直後——
「シツレイシマス!!!」
突然、機械音声が聞こえたと同時に、試験の時にいたおもちゃの兵隊が研修所の前に立っている姿が見えた。
不思議に思いながら、兵隊達を見つめていると、彼らはそのまま勢いよく部屋の中に突入してきた。
——トトトトッ、キュルルルルルッ!
俺の目の前で、兵隊達は急停止した。
「何だぁ?!」
「サイスン、カイシ!」
「は……?」
唖然とする俺をよそに、3体は協力しながら勝手に採寸を始めた。
「あ〜、ユニフォームの採寸ね〜!」
「よく働いて偉いな、お前ら。」
「ほーんと賢いよなぁ。」
バンリ達は普通に兵隊達を愛でてるけど、俺からしたら違和感しかない光景。
「お前達こんな仕事もすんの?」
「ワタシタチ、ココノジムナンデ。」
「事務……?!」
「ハイ。ユニフォーム、オタノシミニ!」
そう言って、あっという間に採寸を済ませると、彼らは嵐の如くその場から去って行った。
***
畳が敷かれた、広々とした和の空間。
ふわっと透ける帳の奥には、着物を着た女が万華鏡を覗いている。
紅を塗った唇が、不意に微笑んだ。
シャラ……
簪の飾りがわずかに揺れた——




