17話 ホッピングに乗った青年
「行ってきまーす!」
両手いっぱいに荷物を抱え、両親に向かって元気よく声を掛けた。
「行ってらっしゃい。あんまりご迷惑かけないでよ?」
「中華が恋しくなったら……いや、ならなくても、たまには帰ってこいよ」
両親はそれぞれ、俺にそんな言葉を掛けてくれた。
「迷惑なんかかけねぇし、ちょくちょく帰ってくるって!」
「……まったくもう。食堂に感動して、即入寮しますだなんて、この子は本当に食い意地張ってるんだから」
やれやれと言った表情の母親に、何も言えなくなった。
「食堂に飽きたら、中華屋に帰ってきてもいいからな。……いや、飽きなくても……」
「父さん、それもういいって」
「……すまん。頑張れよ」
「おう。んじゃ、本当に行ってきまーす!」
笑顔で手を振る2人に背を向けて、俺は家をあとにした。
今日はTMIまで、この大荷物を抱えて歩いて行く。
理由は、体力向上のため。
元々運動に関しては、そこまで苦手意識は持ってなかった。だけど、昨日シャルに言われた、身体能力の向上のためにも、まずは体力をつけないとなって考えたからだ。
とにかく、やれる事からやってみる。
前を向いて、しっかりと地面を踏み締めた。
……それにしても昨日の夜も、荷造りしたりルービックキューブの名前を考えたりで、全然眠れなかった。
でも、そのおかげでしっくりくる名前を考えついたんだ……!早くあいつらに、名前を言いたいな!
……寮であいつらに会えたりすんのかな?
そんな事を考えながら歩いていると、いつの間にか寮まであと少しのところまで来ていた。
えーっと、ここら辺だよな?
「TMIを正面に見て左の建物……」
呟きながら、視線を左に向けた時だった。
ピョーン、ピョーン、ピョーン!!
視界の端に何か上下するものが、映り込んだ。
……なんだ?
目を凝らして見てみると、オレンジ色の髪にヘッドバンドを巻いた人が、ホッピングに乗りながら近づいてきた。
「おーーーい!そこの大荷物持ったお前ーーー!」
キョロキョロと辺りを見渡したが、俺の周りには誰もいない。
「お前だよ!黒髪のキョロキョロしてるやつーー!」
……もしかして、俺?
再びオレンジ色の髪のやつに視線を戻した。
「お前、今日から入寮する空間操作型だろ?」
そいつは俺の目の前まで跳んでくると、ヒョイっとホッピングから降りた。
「……そうだけど、お前は?」
「俺はコーン!トイカルマの隊員だ。俺以来の新人が今日から入寮するって聞いたから、どんなやつか見たくて迎えに来たんだ!」
「そうだったのか。俺は……」
「ロクだろ!シャルから聞いた!」
……おお、勢いすごいなこいつ。
俺を遮ってはきはきと喋るコーンに、少しだけ圧倒された。
「ロク、寮まで案内してやるよ!」
コーンは俺の荷物を一つ手に取ると、そのままホッピングしながら寮へと向かい始めた。
「えっ、ちょ……!」
勝手に俺の荷物を持ち去って行くコーンの背中を、慌てて追いかけた。
「なぁなぁ!コーンは、いつ頃トイカルマに入ったんだ?」
何となく、"俺以来の新人"って言葉が気になって尋ねてみた。
「2ヶ月前だよ!で、俺の4ヶ月前がフォルナ!」
「え、半年で2人しか受かってねぇの?」
「そうだな。大体1年で3、4人しか受かんないらしいよ。そもそも覚醒で届出に来る人も、1ヶ月に3人くらいだからなぁ」
「覚醒自体も、そんなに少ないのか……!」
「俺も最初聞いた時は、驚いた」
ははは!と笑うコーンは、初めて会った気がしないと思えるほど気さくなやつだった。
そんなコーンの表情が、一瞬陰りを見せた。
「でもそんだけ希少な覚醒が、今は頻発化してるんだ。絶対おかしいよな?怨念がどうとか上のやつらは言ってるらしいけど、なんか裏がありそうだよなぁ」
彼の話を聞いて、研修の時にバンリたちが話していたことを、ふと思い出した。
……確かに、バンリたちも同じこと言ってたな。
「まぁ、どんなことが起きようと、俺らがやる事は変わんねぇけどな!」
そう言って再び笑顔に戻ったコーンに、俺は力強く頷いた。
暫く彼と会話をしていると、木々が生い茂る中から、カラフルな色の建物が姿を現した。三角や四角や丸の形が、重ねられるように積み上げられたその建物は、まるで積み木で作ったお城みたいだった。
「あれが俺らの寮だぞ!」
コーンは目の前の建物を指差した。
「こりゃまた、すげぇ凝りようだな……」
思わず足を止めて、しげしげと建物を見つめる。
「中入ろうぜ!荷物は、このまま中まで運ぶな?」
「お、おう!荷物運ぶの手伝ってくれてありがとな」
お礼を伝えると、コーンはホッピングから飛び降りて、大きな黄色の扉に手をかけた。
ここが、今日から俺が生活する拠点になるんだな……!
ワクワクと期待を込めて、コーンの後ろから中をチラリと覗き込んだ。
すると……
「あ〜!ロク来た〜!」
「おーう、やっと来たか」
「腹減った」
バンリ達3人と、
「ロクさん一昨日ぶりですね!」
大きく手を振る、マルの姿が見えた。
他にも数名が、大きなソファが並ぶ広い部屋から、俺の事を見つめていた。
「……あ、えっと、ロクって言います。き、今日からよろしくお願いします!」
部屋全体から向けられた視線に緊張しつつ、慌てて頭を下げて挨拶をする。
そんな俺に、バンリはニヤニヤしながら余計な口を挟んできた。
「あっれ〜?お前、そんなキャラだったか?」
「……うっせぇよ」
「ロク、こっちおいでよ〜。美味しそうなものたくさんあるよ〜!」
シャルの言葉を聞いて、大きなテーブルに目を向けると、たくさんの料理が並んでいた。
「実はこれサプライズ歓迎会なんだよ〜!」
「歓迎会……?」
「お前のな」
フォルナのその一言で、途端に緊張が吹っ飛んだ。
「お前がロクってやつか。よろしくな!」
「空間操作型なんて珍しいな。おもちゃ後で見せてくれよ!」
初めてみる隊員達が、次々にそんな言葉を掛けてきてくれた。
「ここにいるやつら、みんな本当にいい奴らなんだぞ!ほら、行こうぜ!」
「お、おう!」
俺の手を引くコーンに戸惑いながらも返事をすると、みんなが笑顔で迎え入れてくれた。
なんだか心の中が、じんわりと温かくなった。
ソファに腰掛け、みんなと乾杯しながら並んでいる料理に手をつける。
「ロクは今、いくつなんだ?」
食事をしながらコーンと話をしていると、斜め向かいに座っていた男性隊員から声をかけられた。その人は、パーマのかかった茶髪に髭を生やしていて、大人な雰囲気の男性だった。
「俺は16っす!」
「お!まじか。俺も16!」
隣に座っているコーンが、自分のことを指差しながら嬉しそうに目を細めた。
「みんな若ぇなぁ。確か、フォルナもコーンとタメだったよな?」
「えっ、そうなんすね!」
茶髪の男性の言葉に、少しだけ驚いた。
フォルナは、いつも落ち着いてるから俺より年上だと思ってた。
……そういえば俺、みんなの年齢とか知らないな。
チラッとバンリに視線を向ける。
いつもの赤いパーカーに、ダボっとした黒のズボンを履いた私服姿の彼は、タバコをふかしながら、他の隊員たちと楽しそうに会話をしていた。
……あいつは、さすがに年上だろうな。
そう思って今度は、シャルに目線を向ける。
彼女は、緑色の髪に黒メッシュの入った小柄な男の子と、何か話しているみたいだった。時折無邪気そうに微笑みながら、口いっぱいに料理を頬張るシャル。
……うん。シャルはそんなに年は、変わらなそうだな。隣にいる男の子は少し幼そうに見えるけど。
そんな事を考えながら、ピザを食べようと口を開いた瞬間——
「あ。ロクさんは、おもちゃの名前って決まったんですか?」
不意に聞かれたマルからの質問に、思わず口角が上がってしまった。
「なんだ?決まったって顔してんなぁ」
バンリがそう言って、ニヤリと俺を見る。
「決まったのか?」
「なになに〜?何の話〜?」
フォルナとシャルも会話に気づいて、みんながこちらに視線を向けた。
俺は手に持っていたピザを、そっとお皿の上に置き、口の周りの食べかすを拭って、みんなの視線に応えるように前を向いた。
「えーっと、実は……決まりました!」
その言葉に「おおー!」っという、歓声が上がった。
「もったいぶるなって。なんて名前にしたんだよ?」
バンリが先を促す。
俺はポケットの中から、ルービックキューブを取り出し、それを上に掲げた。
「このルービックキューブの名前は——」




