15話 戦闘訓練
フォルナと互いにプレイ宣言をした直後、俺は一つの事実に気がついた。
……何だこれ!?
何故かルービックキューブの並びが、さっきまでとは明らかに変わっていた。
試験の時は、直前までマルに預けていたから、こんな変化をするなんて思いもよらなかった。突然の変化に焦りつつ、急いで全面を確認しようとした瞬間——
ヴォンッ!!
唸るような低い風音と共に、巨大化したブーメランが勢いよく飛んできた。
やばいっ……とにかく軌道をずらさねぇと!
カチャ…
慌ててルービックキューブの面をずらすも、ブーメランは軌道を変えることなく、こちらに向かってそのまま直進してきた。
くそっ……!面をずらした程度の衝撃だと、ピクリともしねぇのかよ!
このままじゃ、ぶつかる……!そう思ってギュッと目を閉じたのと同時に、フォルナの声が聞こえた。
「〈孤月〉、プレイ解除」
恐る恐る目を開けると、ブーメランは元の大きさに戻り、床に転がっていた。
「え……覚醒、解除したのか?」
「ああ」
短く返事をしながら、フォルナは床に落ちたブーメランをゆっくりと拾い上げた。
その様子をただ見つめていた俺に、バンリが話しかけてきた。
「ロク、実は昨日の試験の映像を見せてもらった」
「試験の映像……?」
「ああ。戦闘訓練の前に、そのルービックキューブの攻撃を知っておきたくてな。で、その映像を見た時に、ただ面をずらしただけの衝撃と、一面を揃えた時の衝撃で、結構な差があると思ったんだ」
彼の話に、俺は黙って相槌を打つ。
「さっきの攻撃が面をずらしただけの攻撃だろ?だったら次は、一面揃えた攻撃を見せてくれ」
バンリはそれだけ言うと、今度はフォルナに向かって声を掛けた。
「フォルナ、インターバルあと何秒?」
「20秒」
「OK。そしたらロク。お前は今すぐ一面を完成させる、一歩手前まで動かしてみろ」
バンリはそう言って、時計に視線を移した。
インターバルってなんだ?と疑問に思いながらも、とりあえず言われた通りにやってみる事にした。
カチャカチャカチャ…
「出来た」
指示通りに面を動かし終えた俺に、フォルナは謎のカウントダウンを始めた。
「4…3…2…1…」
何のカウントダウンだろうと疑問に思って、フォルナを見つめていると——
「〈孤月〉、プレイ」
フォルナは再び、プレイ宣言をした。
その直後、空気を切り裂くように素早く飛んできたブーメランを見て、慌てて面を左方向にスライドさせた。
カチャ…
カンッ!
先程よりも大きな空間の歪みによって、ブーメランの軌道を僅かに左にずらす事ができた。
「よし!」
面の配置は、さっきの時間で大体は把握したから、このまま畳み掛ける……!
カチャ…カチャ…
二面を揃えた。
ガァンッ!
今度は大きく軌道がずれ、ブーメランはフォルナの手元に戻っていった。だがフォルナは間髪入れずに、先程よりも速度を上げてブーメランを投げてきた。
カチャカチャ…
俺は思考を止めずに、三面を揃える。
ガコンッ!
大きな衝撃音と共に、ブーメランは弾け飛んでいく。
カチャカチャ……
そのまま四面を揃えた、次の瞬間——
バコンッ!
ブーメランは、一瞬しなるように折れ曲がり天井まで吹き飛んでいった。
シュウ……
巨大化していたブーメランは、落下するのと同時に萎むようにして、元の大きさに戻った。
「……しゃあっ!」
覚醒を解除できた嬉しさで、両手の拳を天井に向かって突き上げた。
「ロクやるねぇ〜!」
喜びの声を上げる俺の元へ、シャルが駆け寄ってきた。
「すごいな〜!空間操作型のおもちゃって、本当に"必中"なんだねぇ〜!」
「ひっ、ちゅう……?!」
興奮気味に話すシャルの口から出た言葉に驚いて、思わず声が裏返ってしまった。
……でも言われてみれば、確かにその通りかもしれない。
今までの戦闘を思い返してみると、俺は何も考えずに、ただルービックキューブを回していただけ。それなのに、攻撃は毎回百発百中で相手の武器に当たっていた。
……お前、そんなすげぇ武器だったのかよ?
掌の上にあるルービックキューブを、じーっと見つめた。
「ロク。それ、いいおもちゃだな」
不意に、そんな言葉が聞こえて顔を上げると、フォルナがブーメランを拾いながら歩み寄って来てくれた。
「おう……!」
返事をしながら、顔が自然と綻んでしまった。
「フォルナのブーメランも、めちゃくちゃいいおもちゃだな!」
「そう言ってもらえて嬉しいよ。あと、これは孤月な」
そう言って、フォルナはブーメランを指差した。
「あのねロク〜、私たちはおもちゃに名前をつけてるから、仲間のおもちゃも名前で呼び合ってるんだよ〜」
「あっ、そうだったのか!」
シャルの話を聞いて、互いのおもちゃを名前で呼び合うなんて、トイカルマらしいなと思った。
改めてフォルナに向き合う。
「フォルナの孤月は、最高だな……!」
俺の言葉にフォルナは小さく微笑んだ。でもそれも束の間で、すぐに真顔に戻る。
「あっ、そうだ。ロク、お前無意識にルービックキューブ回す癖あるから、覚醒解いとけよ」
「ああ、そっか。えーっと……」
プレイ宣言とは違う、おもちゃの覚醒を解く言葉。
これを言うの初めてだな……
俺はゆっくりと噛み締めるように、言葉を紡いだ。
「〈ルービックキューブ〉、プレイ解除」
宣言と同時に、ルービックキューブは戦闘前の配置へと面が静かに戻っていった。
……なんか、フォルナやマルの武器と違って、こいつの覚醒状態地味だな。あまりに見た目の変化が少なくて、ついそんな事を考えてしまった。
「そんじゃ、今回の講評といきますか」
「あ、ちょっと待って!」
講評を切り出したバンリに、慌てて横から口を挟んだ。
「どうした?」
「さっきバンリとフォルナの会話で、インターバルとかって言ってただろ?あれってどういう意味?」
「あっ、そういえば説明してなかったな」
そう言ってバンリは、ポンッと拳を手のひらに当てた。
「あれはだなぁ、自分でプレイ解除した場合、次におもちゃをプレイ状態に出来るまで、必ず1分間のインターバルが発生すんだよ」
「そういう事だったのか」
「因みに戦闘で負けて覚醒が解除された場合は、TMIにある強制起動装置を使わない限りは、1時間使えなくなる」
「おい、それすげぇ重要じゃん!」
俺は慌てて、机の上に置いてあったノートに、その情報を書き足した。
「じゃあ、フォルナが何かカウントダウンしてたのは、1分間を測ってたってこと?」
「そうだ」
「やっと理解できたわ。遮って悪かった。そんじゃ、講評お願いします!」
バンリはこくりと頷いた。
——「では、改めて今回の講評を始める」




