14話 おもちゃの名前
「……え?」
突然背後から聞こえた声に振り返ると、なぜかフォルナが物陰からこちらを覗いていた。
「あ、フォルナ〜!お疲れ〜!」
「来たか。」
シャルとバンリが声をかけると、彼はゆっくりとこちらに向かって歩いて来た。
「みんなすげぇ真剣な顔で喋ってたから、ずっとそこの陰から見てた…。」
「あはは!入ってきて全然良かったのに〜!」
「フォルナらしいなぁ。」
にこやかに会話をする3人に、俺だけ首を傾げた。
「お前も、研修の見学に来たのか?」
「見学っていうか、戦闘訓練しに来た。」
「……ん?」
戦闘訓練ってまさか……
「俺の戦闘訓練の相手って、フォルナなの?!」
その問いに、フォルナはこくりと頷いた。
「まじか……」
なんとなく訓練は講師のバンリとやると思ってたから、フォルナが相手というのは少し意外だった。
「あれ〜?そういえばロクはおもちゃの名前、もう決めたの〜?」
シャルが俺に、そんな質問をしてきた。
「おもちゃの名前……?」
「そうそう〜!マルと試験した時に、マルはフラフープのことを、輪って呼んでたでしょ〜?」
彼女の言葉を聞き、試験の時の様子が脳裏に蘇った。
――「〈輪〉、プレイ。」
「……ああ!確かに、名前みたいなやつ言ってたな。」
「それそれ〜!トイカルマは戦闘を始める時に、おもちゃの名前とプレイ宣言をする事で、おもちゃが覚醒するようにプログラミングされてるんだよ〜!」
「なるほどな。あれは戦闘を始める合図だったのか!」
シャルはうんうんと頷いた。
「あーそういや、名前の説明忘れてた。」
そう言って、ヘラヘラと笑うバンリ。
……出たよ。適当なやつ。
ジト目で見つめる俺に、彼は「すまんすまん」と言って軽く手を上げた。
「まぁ、いいや……。
ところでバンリのおもちゃの名前は?」
「俺のだるま落としは、禅。」
「お前のおもちゃ、ダルマじゃなくてだるま落としだったのか!」
ゼンマイのアビュサーを飲み込んだのが、ダルマだったから、勝手にダルマ単体だと思い込んでた……。
「そうそう。俺のおもちゃは、こーれ。」
彼はつなぎに付けられた巾着から、だるま落としとハンマーを取り出した。
それを、じーっと見つめる。
「……このダルマ、思ったよりも可愛い顔してんだな。」
「ふん、そうだろ?」
俺の言葉に、バンリは嬉しそうに微笑んだ。
その表情から、彼にとってこれが大切なものなのだと一瞬で伝わってきた。
「そういや俺、みんなのおもちゃもよく知らねぇな。シャルのは?シャボン玉?」
「私のおもちゃは、シャボン玉の吹き具だよ〜!名前は玲って言うんだ〜。」
シャルはそう言って、筒状の水色のシャボン玉の吹き具を見せてくれた。
「綺麗な色だな。」
「ありがと〜!」
彼女もバンリ同様、嬉しそうに微笑んだ。
「フォルナのは?」
「俺のブーメランは、孤月。」
フォルナは手に持っていたブーメランを、俺の目の前に差し出してくれた。
白地に黄色のラインが入ったブーメランは、彼によく似合っていた。
「……孤月、かっけぇ名前だな。」
みんなのおもちゃの名前を聞く限り、おもちゃと名前がしっくりハマってる気がした。
「んで、お前はどーすんの?」
バンリの問いかけに、チラッと自分のルービックキューブに視線を落とす。
「まっ、すぐに決めなくてもいい。名前を付けるまでは、そのまま"ルービックキューブ"で登録しておくか。」
バンリはそう言って、部屋の中にあった備え付けの電話を手に取り、どこかに連絡をとり始めた。
「ロクのルービックキューブの名前聞くの楽しみだな〜!」
ふとシャルが、そんな言葉をかけてくれた。
名前か……
正直、みんなみたいにカッコいい名前が付けられる自信がない。
再びルービックキューブを見つめていると、電話を終えたバンリが戻ってきた。
「今、仮名として、ルービックキューブで登録してもらった。少し時間かかるから、一旦休憩挟んでから訓練を始めるぞ。」
「分かった。」
返事をしながら、楽しみな気持ちと少しの緊張が入り混じった。
「よし!じゃあ、とりあえず飯にすっか!」
バンリはそう言いながら、パンッと手を叩いた。
「でも飯って言っても、どこで食うんだ?」
俺のその質問に、バンリはニヤリと口角を上げた。
「TMIのしょ・く・ど・う!……行ってみるか?」
「……っ!!」
TMIの食堂……!確かに興味ある!!
俺は、コクコクと勢いよく首を縦に振った。
「決まりだな。じゃあ一旦、お疲れした!」
「「「お疲れした〜っ!」」」
全員で頭を下げた後、俺達はTMI本部と寮の間にあるという食堂へと向かった。
***
「ご馳走様でした!」
はぁ〜〜〜美味すぎた!!
満たされた腹をさすりながら、食事の余韻に浸る。
「お前、食い過ぎだろ……」
呆れた目で見つめるバンリ。
「バンリが奢ってくれるとか言うから、限界まで詰め込んだ!本当にごちそうさまでした。」
両手を合わせてバンリにお礼を言った。
その後、大満足で食堂から出た俺たちは、再び研修所へと向かった。
「ここの食堂、本当に美味しいんだよね〜!」
隣を歩くシャルが、ニコニコしながら話しかけてきた。
「マジでそれ!入寮したら、これがタダで食えるなんて最高すぎるだろっ!!」
見た目は普通にレストランだし、メニューは選びたい放題。俺は完全に食堂の虜になってしまった。
「そういえばロクは、入寮すんのか?」
フォルナが不意に、そんな質問をしてきた。
「そのつもり!親にも相談したら、ぜひ入寮しろとか言われたし。」
「いいねいいね〜!楽しくなりそうだね〜!」
「……あっ、そういえばこの入寮届けって、どこに出せばいいんだ?」
ポケットにしまってあった、入寮届けを取り出してみんなに見せた。
すると——
「俺。」
……えっ?
「バンリ……?!」
まさかの、バンリが手を上げた。
驚く俺に、シャルが笑いながら口を開いた。
「バンリはトイカルマの幹部だからね〜。そういう書類とかは、バンリに出しとけば大丈夫だよ〜!」
「そうそう。て事で、その書類預かってやる。」
……まじか。
バンリって結構な、お偉いさんなんじゃねーかよ。
正直、意外だった。
「よろしくお願いします……」
そっとバンリに、書類を手渡した。
「んで、入寮はいつからが希望?」
「別にいつからでも。出来るだけ早くが希望かな。」
朝のバス通勤が、ちょっと面倒なんだよなぁ。
そんな事を考えていた俺に、バンリは驚きの言葉を口にした。
「ふーん。別にこっちは、即入寮も可能だけど?」
……即入寮可能?!
「え、それはつまり……」
「入寮したいやつのタイミングで、荷物運んでいいって事だ。」
フォルナが、至って冷静に答えた。
「そんな事あんの……?」
「まぁ、いろんな事情のやつが居るからなぁ。その辺の備えはしっかりしてんだよ。」
備えが完璧すぎるだろ……。
「家具家電もほとんど備え付けがあるから、本当に着替えとか持ってきたら住めちゃうよ〜!TMIえぐいよねぇ〜。」
……まじでエグすぎ。
「って事で、いつにすんだ?」
「えぇ……」
ここで俺の頭は、フル回転を始めた。
……家具家電付きなら、特に何も揃える必要はない。
何より、タダであのクオリティの飯が食えるようになるのはアツすぎる。それに、大浴場とかもかなり気になる。
シャルの言う通り、着替えとか必要最低限のものさえ準備すれば住めるなら……
「……明日とか?」
少し考えた結果、こんな回答を導き出した。
目の前にいた3人は、一瞬キョトンとした表情を浮かべた。
「ロクは相当、食堂が気に入ったみてぇだなぁ?」
吹き出しながら、俺の背中をポンッと叩くバンリ。
「これは、完全に胃袋掴まれたね〜!」
シャルもバンリにつられて、楽しそうに笑っている。
「……悪りぃかよ?」
何だか少し恥ずかしくなって、ムスッとしてしまう。
「全然。むしろ歓迎してやるよ。」
「そうそう〜!ロクもきっと寮生活気にいると思うなぁ〜!」
「なんか困った事とかあったら、手伝う。」
3人からそんな言葉を掛けられて、入寮するのが凄く楽しみになった。
「んじゃまぁ、入寮時期も決まったって事で……」
バンリが研修所の扉を開く。
「食後の運動タイムの始まりだ。」
その言葉を合図に、俺は手に持っていたルービックキューブを前に出す。
それと同時に、フォルナと向かい合う。
——「〈孤月〉、プレイ」
「〈ルービックキューブ〉、プレイ」——




