12話 秘密
「……え?」
ドクン……
"武器化するおもちゃの秘密"
その言葉を聞いた瞬間、
——"サンタの秘密"
それが頭をよぎった。
「その秘密を知られないために、この機関は存在してる。」
「……どういう事だよ?」
ごくりと唾を飲み込み、バンリの次の言葉を待つ。
「先に言っとくと、武器化するおもちゃの秘密を知ってんのは、この機関でも最上階のお偉いさん達と、トイカルマの隊員のみなんだ。」
「……それじゃあ、本部のやつらでもほとんどの人が知らねぇのかよ?」
「そうだ。だから俺はあの時、秘密を知りてぇなら、"プレイ承諾書"をもらってこいって言ったんだ。あの書類は、トイカルマの隊員にのみ与えられる資格みてぇなものだからな。」
あの時のバンリの言葉の意味が、今になってようやく理解できた。
プレイ承諾書は、トイカルマの隊員しかもらえないって、昨日マルも言っていた。
でも、それじゃあ……
「どうして秘密を知らない機関員まで、ここに置いてるんだ……?」
TMIがおもちゃの秘密を守るための機関なら、その秘密を知らない機関員を置いておく理由が理解出来なかった。
そんな俺の質問に、バンリは視線を下げて答えた。
「俺らが戦うのも、結局おもちゃの武器だろ?そんな物騒な集団、他の奴らから見たら完全な信用は得られない。」
それを聞いて、ハッとした。
「もしかして他の機関員達は、安心感を与えるために置いた存在……って事か?」
バンリは静かに頷く。
「その通り。人は自分が頼れる場所=自分を守ってくれる存在って認識するだろ?つまり、秘密を守るために動く俺らの、カモフラージュ的な役割ってわけだな。」
「……。」
この機関の本当の存在理由。
それを聞いて、言葉を失った。
「そして、こっからが本題だ。」
呆然とする俺に、バンリは畳み掛けるように言葉を続けた。
「お前が聞きたかった、"サンタの秘密"について。」
……ついに、その秘密に触れる時がきたか。
「聞きたい。聞かせてくれ。」
バンリはその返事に頷くと、一拍置いてからゆっくりと話し始めた。
まず前提として、サンタ・クロースは1人ではない。沢山の子供達にプレゼントを届けるために、この世には複数のサンタ・クロースが存在している。
その中の一人、サンタ・アルディアは、子供達を"笑顔にしたい"、"幸せにしたい"と、誰よりも強く願いを込めて、おもちゃを配っていた。
子供たちは最初は、受け取ったおもちゃに目を輝かせて遊んでいた。けれどいつしか、そのおもちゃは使われなくなり、やがては捨てられていった。
アルディアは、その光景を何度も目にするうちに、おもちゃで子供達を笑顔にできるのは、ほんの一瞬だけなのだと気づいてしまった。
彼は、その事実に深く心を痛めた。
そして痛みは、歪んだ思考へと変わっていった。
アルディアはいつしか、"おもちゃそのものに、持ち主を笑顔にさせるような力があれば"……そう考えるようになった。
“持ち主を笑顔にさせる力”とは、どんなものなのか?
考え抜いた先に、アルディアはある結論に至った。
それは、“持ち主の想いに応えてくれる存在”だと。
悲しい時や辛い時は、支えてあげる。
楽しい時や嬉しい時は、静かに見守る。
危険な時は、守ってくれる。
苦しんでいる時は、助けてくれる。
おもちゃがこんな存在になれば、きっと子供達は、ずっと笑っておもちゃと共に過ごせるはずだ。そんな答えを導き出した。
それから彼はプレゼントを配る際、"おもちゃを強い意志を込めて握った時、それらは持ち主の想いに共鳴してくれるように"という願いを込めるようになった。
そんな歪んだ願いは、“武器”という形でこの世界に叶えられてしまった……。
「これが、サンタの秘密だ。」
「……」
話を聞いて、俺は何とも言えない気持ちになった。
子供達の笑顔を、誰よりも強く願った結果の"武器化"か……。
「残酷だよね〜…。」
今までずっと黙っていた、シャルが口を開いた。
「アルディアの願いは、ずっと同じだったはずなのにね〜…。」
彼女のその言葉は、核心をついていた。
「なぁ、アルディアは今は……?」
「この話自体が、二百年も前のことだ。既に亡くなってるよ。」
「……そっか。」
アルディアは、武器になったおもちゃを見た時、どんな気持ちだったんだろう?
ふと、そんな疑問が思い浮かんだ。
「つーか、本人が亡くなってるのに、なんで今もおもちゃの武器化は終わらないんだ?願いを込めていたやつは、もういなくなったのに……」
「それは彼の死後、数十年経ってからTMIの調査で解明されたんだが、アルディアが生前、一冊の絵本を出版したことに関係しているらしい。」
「絵本……?」
「"きみがわらってくれるといいな"っていうサンタが出てくる絵本。知ってるだろ?」
……えっ?
「あ、あれを?
あの有名な絵本を、アルディアが…?」
記憶を遡る。
幼少期に何度も両親が読んでくれた、あの絵本。
子供と優しそうなサンタが、微笑ましい会話をしているような絵本だったはずなのに……
一瞬にして鳥肌が立った。
何か他に、アルディアの怨念を止める方法はないのか……?
そんな考えが浮かんだ時だった。
「でな、最近その怨念ってやつが、どうやら強まってるらしいんだよなぁ。」
バンリが頭を掻きながら、そんな発言をした。
「強まってる?」
「ああ。ここんとこ、集団での戦闘が頻発化してたんだ。それで色々調べたところ、昨日ある事実が判明した。」
「それは……?」
「覚醒条件を満たしていないおもちゃが、覚醒をしていた。」
「は?……そんなことあり得るのかよ?」
疑問を口にする俺に、シャルが横から説明を加えた。
「普通は、強い思いとか感情に共鳴して覚醒するよね〜?でも、昨日のゼンマイのおもちゃや、集団戦闘時に回収した他のおもちゃからは、共鳴した履歴みたいなものが検出されなかったんだって〜。」
「なんだそれ……。じゃあどうやってゼンマイは覚醒したんだ?」
「そこが謎なんだよなぁ。サンタからもらったって事はアビュサーが話してたらしいけど、それ以上は口を割らねぇらしい。」
「それでお偉いさん達曰く、アルディアの怨念が何かしらの影響で、強まったんじゃないかって言ってるんだって〜。根拠もないくせにね〜。」
やれやれと言った表情で溜息をつく2人。
そんな2人の姿に、なんとなく"お偉いさん"とやらが厄介な奴らなのだと悟った。
「まぁとりあえず、俺らが守ってる秘密の内容はこんな感じだ。」
バンリはそう言って、この話を締め括った。
"秘密を守る組織"か……。
サンタの秘密は理解した。
そして今起きている問題も、なんとなく分かった。
だけどあと一つだけ、どうしても腑に落ちないことがあった。
色んな情報を一気に聞かされて、頭の中はもうキャパオーバー。
それでも、どうしても聞かずにはいられない疑問。
「……なぁ、TMIはどうやってサンタの秘密を知ったんだ?」
気付けば俺は、それを口にしていた。




