11話 TMIが守っているもの
「っし、行くか!」
家を出る直前、鏡の前で気合を入れた。
正直、昨日は全然眠れなかった。
眠ろうと目を閉じるたびに、試験の時の映像が頭の中に映し出された。
あの時の緊迫した雰囲気と、どうすればいいか分からない焦り。そして、一面を揃えた時の攻撃の衝撃音……
全てが初めての感覚。なんとも言えない達成感で胸がいっぱいだった。
一晩中、繰り返し何度も脳内で再生されるその映像に、指は無意識にルービックキューブを動かし続けていた。
だけど、不思議と朝の目覚めは悪くなかった。
「行ってきます!」
店の中にいる両親に声をかける。
「行ってらっしゃい」
「頑張れよ!」
温かく送り出してくれる両親に、軽く手を振って外に出た。
TMIまでは割と距離があるから、今日はバスに乗って向かう。
研修ってどんな感じなんだろう?
座学とかばっかりだったら嫌だな。
初日から戦闘訓練はさすがにないかな……?
いろんな考えが頭の中を駆け巡り、なんだか落ち着かない。
窓の外に見えてきた赤い屋根の建物に、どんどん距離が近づいていく。
[玩具特務機関前]
ゆっくりとバスが停車した。一段ずつ階段を降りて、そのまま真っ直ぐにTMIの入り口へと向かう。
扉の前で、一瞬足が止まった。
「……」
昨日とは違って、今日はトイカルマの1人として、俺はここにいるんだ……!
自分に再び気合いを入れて、建物内へと足を踏み入れた。
3階にある、研修所に行けばいいんだよな……?
覚醒届出センターをチラッと覗いて見たけど、今日はマルの姿は見当たらなかった。
エレベーターで3階に上がる。
——チンッ。
軽快な音と共に扉が開いた。その先には、ただただ真っ白の広々とした何もない空間が広がっていた。
「えっ、広っ……!」
キョロキョロと辺りを見渡していると、ふと頭上から声が聞こえた。
「あ〜!ロクおはよ〜!」
その声に視線を向けると、ふわふわとシャボン玉に浮かんでいるシャルの姿が目に映った。
「……あれ、シャル?」
首を傾げて彼女を見つめていると、今度は奥の部屋の扉がガチャリと開いた。
「おう、来たな」
そこから姿を現したのは、バンリだった。
「え、何で2人がここにいるんだよ……?」
「私は暇だったから見学〜!」
「見学?」
俺の研修の見学ってこと……?暇だからって、そんな事ある?
チラリとバンリに目線を向ける。
「お前は?」
「俺、講師」
バンリが講師……?いや、聞き間違いだな。
本物の講師はどこだろうと、再び部屋の中を見渡す。すると……
「ちょいちょいちょい。聞こえただろ?お前の講師は、おーれ!」
バンリが自分を指差しながら、俺に訴えかけてきた。
「本当にお前が講師なの?!」
目をぱちぱちと瞬かせる俺を見て、シャルがぷっと吹き出した。
「ロク、面白い顔してるね〜!でも、安心して〜。バンリはこんな感じだけど、人に何かを教えるのすっごく上手なんだよ〜!」
「……まじで言ってる?」
「あのさ、お前ら俺のことなんだと思ってんの?」
バンリは不機嫌そうな顔で、俺たちをチラリと見た。
「適当チャラ金髪」
「え〜っと、いっつも適当な事言ってる体力おバカで〜、でも時々計算高くて〜……」
「わかった、もういい」
こめかみを抑えて溜息をつくバンリを、シャルはニコニコと微笑んで眺めていた。
「まぁ、とにかく研修始めっから、そこ座れ」
バンリは仕切り直すようにそう言うと、ホワイトボードと椅子と机が一つずつ置かれた場所を指差した。
「なんかあそこだけ、妙に違和感だな」
「お前用に出しといてやったの」
「それはありがたいけど、普通に座学とかやるんだったら、そもそもこんな広いスペース要らなくね?」
「ロク、それは違うなぁ〜!」
不意に、シャルが横から口を挟んだ。
「違う?何が?」
「もし座学だけしかやらないなら、私は見学になんて来ないよ〜」
……そう言われてみれば、確かに。
「ロクよぉ、トイカルマって何の部隊だ?」
「特殊戦闘部隊」
……って事は、もしかして!
俺は期待の眼差しをバンリに向けた。
「するに決まってんだろ。戦闘訓練!」
きたきたきたきたぁぁああ!!!
「初日から戦闘訓練やるなんて、さすがトイカルマだな!」
テンションがぶち上がるあまり、ガッツポーズまでしてしまった。
「まぁ、まずは覚えるべき事、ちゃーんと覚えてからだけどな?」
喜びを全身で表現した俺に、バンリはしっかり釘を刺した。
「……おう」
小さく返事をして、ぶち上がっていた気持ちを一旦落ち着かせた。
「まぁ、とりあえず座れって」
「あぁ」
返事をして椅子に腰掛ける。
「んじゃまずは、この機関のそれぞれのフロアについてな」
バンリは机の上に置かれていた資料を開いて、俺の目の前に広げた。
「まず、1階は一般開放エリア。昨日お前が行った覚醒届出センターとか試験場の他にも、おもちゃに対する問い合わせ全般をここで対応してる」
「ちなみに、届出センター以外は、基本的にトイカルマの隊員じゃない人達がやってるよ〜!」
「そうなのか!」
一応持ってきておいたノートに、しっかり書き込みながら集中して耳を傾ける。
「んで、2階がトイカルマの本部」
「俺が一番使うのは、2階って事だな?」
「その通り。で、3階は今いる場所だ。研修とか戦闘訓練のための空間。ちなみにこの奥にも何個かこういう広いスペースがある。ここはトイカルマの隊員に限らず、TMIに所属してるやつなら、申請すれば誰でも使える」
「こんな広いスペース、トイカルマ以外に何用で使うんだよ?」
こんなの、ほぼ戦闘訓練用じゃねーの……?
「ここは、普通のおもちゃの使用試験とか、耐久度合いを見るのに使われたりするんだよ〜!」
「ああ、そう言う事にも使ってんのか!」
シャルの説明に、納得して頷いた。
「そして、4階と5階にTMIの本部が置かれている。その辺の細かいフロア分けは、聞いてもわかんねぇだろうから、説明は省く。最上階は、お偉いさん達のお部屋って感じだな」
……やっぱ、適当じゃん。まぁどうせ使わないだろうから別にいいけど……。
「つまり、それぞれのフロアで役割が分かれてんのか」
「そういうこと!」
ただでかい建物なだけじゃないんだな……。それぞれのフロアがしっかりと役割分担されているのだと、メモを見ながら実感した。
「で、ここで重要な事を伝える」
急に改まった顔をしたバンリ。
「重要な事?」
話をしっかり聞くために、ピンと背筋を伸ばした。
「ロク、今の説明聞いて、しっかりした機関だなって思っただろ?」
「ああ。思った」
「じゃあ何で、ここまでしっかり役割とか決めて、フロア分けまでしてると思う?」
「そんなの、武器化するおもちゃの脅威から人を守るため……じゃねーの?」
その回答に、バンリは首を横に振った。
「逆なんだよ」
……逆?
——「俺らが守ってんのは、武器化するおもちゃの秘密だ」




