9話 バンリの企み
ロクが試験を受けていた頃_。
「お疲れ〜!」
「任せちまって、悪かったなぁ。」
シャルとバンリは、フォルナと合流していた。
「残ってる仕事、何かある〜?」
「特に無いな。アビュサーは警察に引き渡した。
それと覚醒してた4つのゼンマイのおもちゃも、回収は済ませた。」
フォルナはそう言って、袋の中に入ったおもちゃを二人に見せた。
「さすが!仕事が早いね〜。」
よしよしと頭を撫でるシャル。
彼はそれを無表情で受け入れた。
「それにしても今日の四人、全員ゼンマイのおもちゃで一緒に犯行なんて、変な感じだよな。」
「……確かになぁ。揃いも揃って気味悪ぃ。」
「そうだね〜。前までは集団での犯行自体、あんまり無かったもんね〜。」
フォルナの言葉に、バンリとシャルは頷く。
「覚醒自体が、珍しい事なはずなのに……。
ここまで集団での犯行が増えてるとなると、覚醒が頻発化してるのか?」
うーん、と顔を見合わせて首を傾げる3人。
「そこは警察に取り調べを、頑張ってもらうしかねぇよなぁ。」
「まぁ、そうだな……。それにしても、こんな街中で集団戦闘はちょっときつかったな。街への被害を考えると、やたらに攻撃も出来なかったし。ゼンマイが一体視界から消えた時は、どうしようかと思った。」
「私も焦った〜!でも、あの黒髪勇者くんがやっつけてくれて助かったよね〜!」
「本当に助かった。そういえば、バンリはあいつと何か話しに行ってたよな?」
フォルナがふと、ロクについて問いかけると、バンリはニヤリと一瞬口角を上げた。
「その顔は、何か仕掛けたね〜?」
シャルはどこか楽しそうに、クスクスと笑っている。
「べっつにー?ただ、サンタについてちょーっと、匂わせてみたくらいだな。」
バンリの言葉に、フォルナとシャルは一瞬固まった。
「それ機密事項だろ…?」
「中々、攻めたことしたね〜!」
珍しく焦るフォルナ。驚いて目を丸くするシャル。
バンリはそんな2人に、「まぁまぁ」と声をかけた。
「……空間操作型は珍しいからな。」
この発言に、2人は納得の表情を見せた。
「つまり、あの黒髪勇者くんを入隊させたいのね!」
「確かに。空間操作型は欲しいよな。」
バンリはコクリと頷いた。
「でも、それだけじゃねぇーのよ。」
「それだけじゃない?」
「ああ。あいつ、ロクって言うんだけど、ロクが覚醒したのは、恐らく子供を守ろうとする気持ちがトリガーになったんだと思う。」
フォルナは、僅かに目を見開いた。
「そうだったのか……」
「あの子供も、「お兄ちゃんが助けてくれた」って言って泣いてたから、その可能性は高いね〜。」
「人を、それも弱い子供を守ろうとする奴に、悪いやつなんかいねぇだろ?。」
そう言い切るバンリに、二人は顔を見合わせてそっと微笑んだ。
「じゃあ〜TMI戻って、勇者ロクの様子でも聞きに行く〜?」
「行ってみっかー。」
「ありだな。もし一次受かった場合、実技試験は誰がやるんだ?」
フォルナは、チラリとバンリに視線を向けた。
「あれ〜?そういえば私と合流した後、バンリは届出センターに何か連絡してたよね〜?」
「ってことは、試験官が誰だか知ってんの?」
二人から視線を向けられたバンリは、そっと口を開く。
「マルだ。」
「マルか〜!拘束特化型と空間操作型なんて、どっちも頭使いそうな対決だね〜!」
「確かに面白そうだな。」
目を輝かせる2人。
「バンリはロクが受かると思ってるんでしょ〜?」
シャルは、ポンッとバンリの肩を叩く。
「何となく、一次はな。」
「……二次は?」
フォルナがバンリに問う。
「さぁな。あいつの武器の戦闘方法も知らねぇしな。」
その言葉の直後、シャルはバンリの耳元に口を寄せた。
「ねぇねぇ、私聞こえちゃったんだ〜。
届出センターに連絡してた時、試験は一割くらいの力でやれって注文付けてたでしょ〜?あれ、マルだったからなんだね〜!」
シャルの言葉に、バンリはやれやれと言った表情で頭を掻く。
「お前、聞いてたのかよ……」
「ん〜聞こえちゃったんだけだよ〜?」
シャルは楽しそうに笑った。
「なぁ、腹減った。
TMIに戻る前に、とりあえず飯食いたい。」
フォルナの提案に、バンリとシャルは頷いた。
「何食べよっか〜?」
「肉!」
「俺、魚がいい……」
「私はどっちでもいいよ〜。」
ロクが必死に試験を受けている最中、三人は平和な時間を過ごしていた。
***
「それでは、こちらが入隊に関する書類一式になります。」
……とんでもねぇ量だな。
目の前に出された分厚い書類達は、見るだけでも一苦労だと思える量だった。
「まずは、こちらがTMI機関員の登録書と、任意のTMI機関員専用寮の入寮書になります。」
「えっ、寮……?!」
まさかの寮制度あるのか!
「はい。ただこちらに関しては任意なので、ご家族の方と相談してからで大丈夫です。」
……なるほどな。
「因みに、その寮の入寮率ってどのくらい?」
「今の所、トイカルマの隊員は1人を除いて、全員寮に住んでいますね。」
「ほぼ全員入寮?!」
驚いて目を丸くした。
「でも、一応任意なので!」
マルは慌ててフォローを入れたけど、表情を見ると少し気まずそうな顔をしていた。
「なぁ、何でみんなその寮に住むんだ?」
「指令が入った際に、すぐに本部に来れるのが大きいと思います。後はこちらの案内を見ていただくと、参考になると思うのですが……」
マルは、カタログのような冊子を手に取り、カウンターの上に広げた。
そこには……
・三食無料食堂あり
・完全個室、トイレ、バスルーム付き
・最上階には源泉の大浴場完備
・24時間対応トレーニングルーム完備
などなど、他にも盛り沢山。
なんとも豪華な設備の整った寮なのだと、一瞬で伝わってきた。
……こりゃ入るわ。むしろ、寮に入ってない唯一のやつの理由が知りたい。
そう思ったけど、事情は人それぞれだろうし、敢えて聞くことは避けた。
「理由はよく分かった。次の書類に進もう。」
俺は、静かに資料を閉じた。
「かしこまりました。」
その後もマルは、諸々の書類や、トイカルマの本部に入る為のセキュリティキー、守秘義務などについて説明をしてくれた。
「では、最後にこちらです。」
そう言って彼女は一枚の厚手の紙を、カウンターの上に載せた。
そこには、"プレイ承諾書"と記載されていた。
「プレイ承諾書……」
「はい。こちらがロクさんが仰っていた書類になります。」
これが、サンタの秘密を知れるための書類か……。
無意識に背筋を伸ばして、その書類をじっと見入った。
「こちらは、"プレイ"つまり武器を使って戦う者だけに渡されます。よって当機関でも、トイカルマの隊員のみが持つ、言わば資格のようなものですね。」
俺は黙って相槌を打つ。
「そしてこの承諾書を受け取った者にのみ、お伝えできる機密事項があります。そちらに関しては、明日の研修時にお話しさせていただきますね。」
——機密事項。
それはきっと、"サンタの秘密"ってやつだな。
ついに明日、それが聞けるのか…。
「……因みにその研修は、マルが講師をやってくれんのか?」
「いえ。私は講師をやれる程の立場ではありませんので、別の者がご案内いたします。
研修はこの建物の3階にある訓練所にて行いますので、明日は直接そちらにお越しください。」
「3階だな。了解した。」
そう返事をした直後——
「お〜いっ!」
不意に背後から、賑やかな声が聞こえてきた。
入り口の扉の方に目をやると、トイカルマの隊服を着た3人が、こちらへ向かって歩いてくるのが見えた。




