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静と動、それぞれの戦い

リュンヌが試作品をルナに朝渡す。


「ううっ。お腹重いけど、これで教会行くのがお試しなのよね。本音はお休みしたいわね」


ルナがぼやく。


「……最新作、『鉄壁の黄金』。……ルナ、信じて」


リュンヌは、おばちゃんたちと丹精込めて仕上げた、黄金色に微かに輝く極薄の布を使った試作品を差し出す。


酒の匂いは消え、代わりに蜜蝋の清々しい香りがかすかに漂っている。


指先で触れれば、絹のしなやかさは失われず、けれど水を通さない確かな「膜」の感触があった。


「……お腹、……重い?……顔、青い。……無理、しない」


リュンヌはルナを気遣う。


「……ううっ。わかってるわよ。でも、これが『社交界での死』を防ぐ唯一の盾になるかなんだから」


弱々しく、ゆっくりと前かがみ気味でルナは立ち上がった。


「ここで私が身をもって証明しなきゃ、副光主様に顔向けできないわ」


一応、ルス教の上層部にはルナもちょっとは敬意があるらしい。


「むー、それにしても……やっぱりこの時期の腰とか腹の重さは、理論ロジックだけじゃ解決できないわね」


ルナは脂汗を浮かべながらも、神官服の下におばちゃん特製勇者布の「二重構造プロトタイプ」を装着した。


「……どう? ……ゴワゴワ、ない?」


「……あら。……意外。松ヤニを入れたからもっと硬くなると思ったけど、おばちゃん達の『消しゴム』違った『お酒マジック』のおかげかしら」


しんどいはずなのに、義務のように言葉ガバガバなルナである。


「しなやかだわ。これなら、教会の懺悔相談や礼拝で座りっぱなしになっても、服に響くことはなさそうね」


ルナは立ち上がり、慎重に足踏みをし、そして深呼吸をした。


「……ルナ、行ってらっしゃい。……教会。……副光主、いないけど。……神様の、……前で、お試し」


「ええ。もしこれで今日一日、私の神官服にしみがなかったら……」


ルナも縋るように希望を漏らした。


「リュンヌ、私たちは億万長者ミリオネアよ! 勇者の伝説を塗り替える、新しい時代の幕開けなんだから!」


強気な言葉とは裏腹に、ルナは大事なものを抱えるように腹部をそっと押さえ、教会の礼拝へと向かって歩き出した。


「……銭ゲバ、じゃなくて。ルナ、……頑張れ。……私の、……縫い目、信じてる」


リュンヌは、相棒の背中を祈るような気持ちで見送った。


リュンヌはルナを見送るといそいそと身支度して冒険者ギルドへと行く。


今日は女性冒険者の先輩とその仲間に呼ばれて狼退治の依頼を受けているのだ。


冒険者ギルドの前に行くとリュンヌは若い男性職員に呼ばれた。


「お前の連れに言っておけ。調子に乗るなってな」


「……男の職員。嫉妬?……利権、……守りたい?」


リュンヌは、去り際の言葉を背中で受け流しながら、磨き上げたナギナタを軽く握り直した。


ルナが「銭導士」として名を馳せ、何か大きな後ろ盾を得ようとしていると周囲は見ている。


そうなると、冒険者ギルドにとって託児所の掲示板を運営する自分たちは「制御不能な異分子」でしかないのだ。


「……わかった、伝える。……でも、……ルナ、止まらない。……進む、だけ」


内心で毒づきながら、リュンヌは約束の場所へと向かった。


そこには狼退治を受諾した先輩女性冒険者と、その仲間たちが待っていた。


「お、来たわねリュンヌ。……あら、今日はなんだか装備が一段と綺麗じゃない? 鎧もナギナタもピカピカじゃない」


先輩がちよっと興味深げに声をかけてきた。


「……入念に、磨いた。……ちょっと、用事で。……あと、気合」


「ふふ、いいわね。でも今日は泥にまみれるわよ。狼の群れが牧場の近くまで降りてきてるの。あんたもそのナギナタで、一気に散らすの手伝ってね」


リュンヌは短く頷き、少し強い風が吹く森へと足を踏み入れた。


男性冒険者二人が狼の群れに弓を放つ。目標の狼の群れは8頭。


弓から逃れ、仲間を討たれこちらへ逆上して向かってくる狼の鼻面に向けて水平にリュンヌはナギナタを叩きつける。


「ギャインッ!」と狼が悲鳴をあげる。


だが、一撃では仕留められない。リュンヌは更に刃の部分を思い切り直角に振り下ろした。


「……一撃。重い。……これ、いける」


リュンヌが振り下ろしたナギナタの刃は、狼の硬い頭蓋を真っ向から叩き割った。


飛び散る鮮血と泥。けれど、リュンヌの心は驚くほど静かだ。


「……残り、四頭。……矢、外さないで。……次、来る」


弓を引く男性冒険者たちが「あ、ああ……!」と気圧されたように声を上げる。


彼らの視線には、自分たちより小柄なリュンヌが、無駄のない動きで猛獣を屠る実力だった事への驚愕が混じっている。


少し経つと。 森の入り口には、八頭の狼の亡骸と、息を切らす冒険者たちの姿があった。


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