冒険者ギルドは他所の掲示板が羨ましい?
翌日もリュンヌは牧場の見回りに試作品の試験も兼ねて出かける。
途中、女性冒険者の先輩に会う。
先輩は、
「リュンヌは最近、託児所の掲示板の依頼で仕事をしてるの?」
と聞く。
リュンヌが肯定すると、先輩は、
「冒険者ギルドが、あの掲示板の事を大分と気にしているわ。あなたも、依頼を受けるのはいいけど絡まれたりしないよう気をつけて。」
と忠告して去って行った。
「……冒険者ギルド、……警戒。……いやな、気配」
リュンヌは先輩の後ろ姿を見送りながら、ひょうたん型の「試作2号」のおかげで軽やかだった足取りが、少しだけ重くなったように感じる。
昨日はガニ股で必死だったこの道も、今日は驚くほど快適だ。太ももの内側に布が当たる不快感も、歩幅を制限される窮屈さもない。
まさに「白鳥」のような足取りのはずなのに、先輩の言葉が冷たい風のように襟元を通り抜けていく。
「……託児所。……みんなで、助け合い。……ギルド、……メンツ、潰してる?」
冒険者ギルドにしてみれば、自分たちの管轄外で依頼がやり取りされ、更にリュンヌのような一人前がそちらに流れるのは面白くないのだろう。
それがルナの「効率化」の結果だと知れば、さらに目をつけられるかもしれない。
「……ルナに、報告。……これ、騒ぎのもと。……対策、……必要」
リュンヌは、自分の下腹部を守る試験中の「ふかふかした安心感」を一度確かめるようにそっと触れた。
せっかく手に入れたこの快適な日常と、ルナとの共同事業。それを、ギルドという大きな組織の「都合」で壊されたくはない。
「……効率。……お金。……それだけじゃ、守れない、……ものある」
一日がすぎ、夕暮れ時、宿へ戻るリュンヌの頭の中では、新しい製品の改良点とは違うものがあった。
それは、迫りくるかもしれない「大人たちの事情」への懸念だ。
そして懸念はまるで水苔のように静かに、けれど確実に膨らんでいた。
ルナはとてもご機嫌で帰ってきた。
「あとは、低成長期の実験をすれば完璧ね」
と自画自賛している。
リュンヌは、そこに昼間に先輩から聞いたギルドの話をぶつける。
リュンヌの予想に反してルナは
「あら?そう」
と淡白だった。
そして、
「これの完成を急ぐ必要があるわね」
と言い出す。
リュンヌには「ふかふかの安心」とギルドの関係がどこでつながるのか分からない。
「……ルナ、楽観的。……冒険者ギルド、……敵に回す、怖い」
リュンヌは、ベッドの上で試作品を愛でる相棒のあまりの淡白さに、少しだけ拍子抜けした。
もっと「損害が出るわ!」と騒ぎ出すか、あるいは狡猾な逃走経路を計算し始めると思っていたのに。
「……ギルド、……縄張り意識、強い。……託児所、奪ってる……ギルド仕事。……私、絡まれる?」
「いい、リュンヌ? ギルドが吠えるのは、自分たちの権威という『独占市場』が揺らいでいるからよ」
ルナはまるで予想していたかのように、胸をはった。
小柄だが、丸みのあるからだを反らせちょっと小動物系だ。
「でも、そんな小さな争いなんて、この『白い革命』が起きたら一瞬で吹き飛ぶわ」
ルナは碧眼の瞳をギラリと光らせ、ひょうたん型の試作2号を高く掲げた。
「……ふかふか、……ギルド。……関係、見えない」
「繋がるわよ。ギルドの上層部にも、その奥様方や有力な女性冒険者がいるでしょ? 」
ルナは、リュンヌに味方がいるだろと言わんばかりだ。
「彼女たちがこの『聖女の吐息』の中毒になったらどうなると思う? 」
ルナの目にいたずらっぽく光が宿る。
「ギルドの男たちが、私たちを排除しようとした瞬間、彼女たちが一斉に牙を剥くわ」
「……味方、抱き込む。……えらい人、……中から、崩す。……ルナ、……やっぱり、悪い人」
リュンヌは、相棒が描く「包囲網」の壮大さに、ようやく合点がいった。
このふかふかの布は、ただの衛生用品ではない。
有力者の心(と股下)を掴み、外敵を黙らせるための「最強の交渉材料」なのだ。
「……だから、……完成。急ぐ。……『その時』、来る前に」
「その通り! 冒険者ギルドが本気で潰しに来る前に、彼女たちを『これ無しでは生きられない身体』にしてやるのよ」
「……強欲。……でも、頼もしい。……私、ルナの、……盾。……ルナ、……ギルドに、首輪」




