カスタムvs汎用品
「……管理、指示。……技術、作る。……これで、……『出来上がり』」
針に糸を通し、夕闇の中でリュンヌの細い指が動き出す。犬の歯並びのような縫い目が、見る間に整然とした「工芸品」へと書き換えられていく。
「……明日。……二人で、『最高』を、試す。……もう、……痛くない」
リュンヌの丁寧な運針が、二人の切実な「快適さ」をしっかりと縫い止めていた。
翌日、二人とも「低成長期に使う紐」を使って例のものをつける。
何重にも布地を重ね合わせたのと同様に固定紐の感覚はあるが、一番気になる点がリュンヌはすごく楽だ。思わず笑みがこぼれる。
「……これ、……すごい。重くない。……全然、違う」
牧場へと向かう足取りが、これまでにないほど軽い。
リュンヌは歩きながら、下腹部に感じる「ふかふかとした安心感」に、思わず頬を緩ませた。
いつもなら、「低成長期」の移動は「不快な重み」と「漏れへの恐怖」で、一歩踏み出すごとに神経を削られる「苦行」だった。
だが、ルナの計算と自分の針仕事が生み出したこの白い布は、まるで身体の一部になったかのように優しく、それでいて頼もしく寄り添っている。
これなら本当にその日でも問題ないだろう。
「……紐、……少し、気になる。……でも、擦れない。……痛くない」
牧場の柵を飛び越え、羊たちの群れを追いかけても、あの嫌な「ズレ」が起きない。
リュンヌは草原の真ん中で、一度大きく深呼吸をした。
「……ルナ。……天才。……銭ゲバ、だけど。……本物の、聖女」
ふと、街の方角にある教会を振り返る。
今頃、あちらでも「官能評価」の真っ最中だろう。
硬い椅子に座り続けている相棒が、今この瞬間、どんな「勝利の顔」をしているか、リュンヌには容易に想像がついた。
「……これ、……帰ったら。合格、……出す。満点」
リュンヌは、自分の笑顔が止まらないことに少しだけ照れながら、軽快なステップで牧場の見回りを続けた。
世界が、昨日までよりずっと明るく、そして「動きやすく」見えていた。
帰宅するとルナの顔も上機嫌だ。
ルナは
「明日もう一度試験をするわ」
と言って二つ同じ大きさの切った布を出してきた。
「今日のはお互いの大きさに合わせたもの。でも売るには大きさを一人ずつなんて合わせるなんてできないでしょ?」
ルナは言う。
リュンヌは「……それ……すると変な人」
と同意する。
「……大きさ、固定。……型、作成。……ルナ、……仕事、早い」
リュンヌは、机に並べた自らが縫い上げた二つの「白い塊」をまじまじと見つめる。
今日、使った、自分たちの身体に合わせた「特注品」とは違うもの。
つまり、それは誰の股下にも収まるよう、冷徹な計算で導き出された「平均値」の形をしている。
「……でも、……明日、……これ、つけるの?」
「当然よ! 昨日の『自分サイズ』で満足してちゃ、商売にならないわ。」
ルナは至極当然という顔をする。
『どんな体型の人でもズレない、漏れない、不快じゃない。その『黄金比』を見つけるのが、明日のミッションよ!」
ルナは鼻息を荒くし、昨日よりもさらに一回り大きい「汎用品」を掲げてみせた。
「……これ、……つけると、歩き方、……絶対、変。……ガニ股、確定。」
リュンヌは自分の股関節を想像し、思わず顔を赤らめた。
いくら「ふかふか」でも、サイズが合わないものを無理やり固定すれば、歩く姿はまるで生まれたての小鹿か、あるいはガニ股の酔っ払いだ。
「……変な人。……街中で、注目、浴びる。……恥ずかしい。」
「……っ、背に腹は代えられないわよ! 聖女たるもの、民のQOLのためなら、多少のガニ股なんて安いものだわ!」
ルナは言い切りつつも、耳たぶまで真っ赤に染めている。
リュンヌは、明日、教会でガニ股のまま「経営相談」に乗る相棒の姿を想像し、つい吹き出した。
「……ルナ。……一緒に、……歩くの、お断り。……私、……牧場で、一人で、歩き方、練習」
「裏切り者! でもいいわ、その『違和感』こそが、次の改良への貴重なデータなんだから!」
夕闇の中、二人の少女は「究極の汎用性」を求め、明日の「奇妙な歩行訓練」に向けて、静かに、けれど熱烈に気合を入れ直した。




