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リュンヌの不満、ルナの打算

おばちゃんたちの何気ない知恵が、リュンヌの抱える不快感を解消する「必需品」のヒントに繋がっていく。


「……おばちゃん、……それ、……少し、分けて」


「いいよ、こんなのいくらでもあるからね!」


リュンヌは、汚れのついた太ももを気にしながらも、その枯れ草を宝物のように預かった。


「……帰ったら、聞く。……ルナ、……起こす」


彼女の瞳に、少しだけ「生活の質(QOL)」への野心と、相棒への期待が宿った。


「……完了。銅貨2枚、……確実……、受領」


託児所に立ち寄ったリュンヌは、指先で硬貨の感触を確かめ、掲示板から使い古された依頼紙を引き剥がした。

終了の箱へそれを落とすと、カサリと乾いた音がして、一つの「仕事」が完結した実感が湧く。


「……子守、……買い物代行。……ここ、いい感じ」


改めて眺める掲示板は、冒険者ギルドのような殺気立った功名心とは無縁だ。


そこにあるのは、誰かの「困った」と、誰かの「得意」を繋ぐ、泥臭くも温かい生活の循環。


「……ルナの、言った通り。……『地味』、……独占中」


ふと、懐に入れた水苔の感触を確かめる。

ギルドの普段の会話にはあまり登場しない、名もなき乾いた植物。


だが、これこそが明日の自分たちの「生活の質」を劇的に変える可能性を秘めている気がリュンヌにはしてならない。


「……よし。……帰る。……ルナ、……帰ってるはず」


西日に染まり始めた託児所を後にし、リュンヌは宿へと足を速めた。


宿に戻るとルナが


「あら、低成長期に仕事に行くなんてワーカホリックは感心しないわね。効率も良くないわ」


と言ってからかってきた。


リュンヌは太ももの内側の汚れを手早く拭き取ると今日一日世話になった布を洗濯しに行く。


「……効率、……関係ない。……おばちゃん達、……守るの、……私の、……仕事」


リュンヌは短く返すと、宿の屋外の水桶の前に屈み込んだ。


泥とわずかな「証」が混じった布を、重い腕で押し洗う。洗濯板と擦れる音が、疲れきった身体に無機質に響く。


「……これ、……毎日。……乾きにくい、……汚い。……時間、……取る」


冷たい水が指先の感覚を奪い、不快な湿り気が気力を削いでいく。


この「洗って乾かす」という非生産的なサイクルこそ、今のリュンヌにとって最大のコストだった。


「あら、その顔。……何か『改善案ビジネスチャンス』でも拾ってきたのかしら?」


背後からかかるルナの計算高い声。様子を見に来たらしい。リュンヌは懐の水苔を思い出し、濡れた手で前髪を払った。


「……ルナ。……これ、……見て。……『使えそうなもの』、……もらった」


彼女の瞳には、面倒な家事への嫌悪感よりも、この不便を「利益」に変えようとする相棒への期待が、微かに、けれど確かに浮かんでいる。


ルナは水苔と『月一回の身体が重い時期』であるリュンヌを見て『ははーん』という顔をする。


だが、次に出てきた言葉はリュンヌをがっくりさせるものだった。


「発想は悪くないわ。でも、加工効率が悪すぎるわね」


「……効率……悪い?……ルナ……また、それ」


期待を裏切られたリュンヌの肩が、目に見えて落胆に震えた。


せっかくもらった『解決の糸口』を、強欲神官は冷徹な収益計算スプレッドシートの上で切り捨てようとしている。


「いい、リュンヌ? その苔を洗浄して、乾燥させて、布に詰めて縫い合わせる……その『人件費』を考えたことある? 完全に赤字よ」


ルナは人差し指をチッチッと振り、呆れたように銀髪を揺らした。


「……みんな、……喜ぶ。……私も、……助かる。……利益カネだけ、じゃない」


「甘いわね。持続可能な救済サステナブル・ケアには、適正なマージンが必須なの。でも……」


ルナは続けた。


「すぐに普及品ではなく、贅沢品として売るのはありかもね」


「……結局、……お金。……普通の人、……後回し」


リュンヌは不満げに口を尖らせ、手をぎゅっと握りしめた。


自分の不快感を拭うための切実な願いが、相棒の頭の中では冷徹な「事業計画書」に書き換えられていくのが我慢ならない。


「甘いわね、リュンヌ。最初から安売りしたら、質の悪い模造品が出回って市場が死ぬわ。まずは『貴族の嗜み』としてブランドを確立するの」


ルナは琥珀色の瞳を鋭く光らせ、人差し指を立てた。


「……高級品。……高い、……意味ない」


「意味は大ありよ! 高価格帯で得た利益キャッシュを設備投資に回して初めて、おばちゃん達が安く買える『量産型』が作れるの』


ルナは目を光らせる。


「これは搾取じゃなくて、未来への『先行投資』よ」


ルナの弁舌は淀みなく、まるで聖典を読み上げるような滑らかさで「大きな世界」の展望を語る。


「……ルナ。……いつも、あってる。……でも、難しい」


リュンヌは溜息をつき、反論を諦めた。


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