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湯気の中のQOL

2週間後、あの元冒険者に洗濯を指導していた世話好きのおばさんを責任者とし、託児業務が始まった。


ルナは入所料の1割、それは微々たる金額だがそれを大教会長に銀貨5枚の返済の一部として納める。リュンヌはその様子を見守る


「....ルナ、....まじめ。....借りたものは、....一応...返す....足りないけど。」


リュンヌは、大教会長の重厚な執務室で、ルナが差し出した銅貨5枚の鈍い光を見つめた。


あの様々な「投資」に対して、返済額はあまりにも慎ましく、それでいて象徴的だ。


ルナは背筋を伸ばし、一分の隙もない聖職者の礼法で深々と頭を下げる。


「大教会長様、この銅貨は単なる返済ではございません。」


ルナは誇らしげに声を高くした。


「信心深き民の奉仕(オムツ洗い)が、次世代を育む『託児所』という輝きへと昇華し、そこで生み出された最初の『お布施』でございます。」


ルナの瞳は、謙虚さを装い、その言葉もどこかいつもよりわ聖女っぽい。


でも、この「銅貨5枚」という数字の裏にある別の膨大なお金の元をルナが隠し持っているとリュンヌは生暖かい目で見る。


「世話好きのおば様を責任者に据えたことで、現場のガスパチョじゃないガバナンス(統治)は安定しました。」


調子に乗ると用語ガバガバはルナの安定クオリティだ。


「第二夫人夫妻も、美しく改修された施設に己の名誉を刻み込み、満足げに微笑んでおられます。」


ルナは、しっかり地元の小さな権力者に恩を売って来たとアピールする。


「....これこそが、神の御心に適う『持続可能な奉仕』の形かと。」


ルナは更に大教会長に告げた。


「託児所で、私は掲示板の利用と堆肥製造の道筋をつけました。」


そして次の言葉にリュンヌだけでなく、大教会長もいつもの聖騎士も一瞬硬直した。


「つきましては、それらが生む益の8割を浄財としてお納めさせて頂き、残りは私とリュンヌの今後の活動に使わせて頂きたいのですが.....Î


「....ルナ、....えっ....。....8割も、....あげちゃう? ……私の、....取り分、....減る?」


リュンヌは、提示された「8割」という破格の数字に、思わずナギナタの柄を握りしめた。


あの強欲な相棒が、これほどまでの「高還元」を口にするなど、裏に巨大な落とし穴があるに違いない。


ルナは大教会長の慈愛に満ちた(あるいは欲の皮の突っ張った)視線を正面から受け止め、聖女の微笑みを深める。


「ええ、8割ですわ。掲示板が生む『情報の掲載料』も、堆肥が生む『実利』も、すべては教会の慈悲ライセンスがあってこそのもの。」


ルナは胸の前で両手を自然に合わせる。


「その大半を神へ捧げるのは、敬虔な信徒として当然の務め(タックス)ですもの。」


彼女の瞳は、大教会長が「8割」という目先の数字に食いつくのを、冷徹に計算し尽くしている。


「私とリュンヌは、残りの2割....いえ、あえて『管理・運用経費』と呼びましょうか。」


「そのわずかな端数で、ルス神様の御心に背かぬよう、泥にまみれて実務デバッグに励む所存です。」


更にルナは言葉をかぶせていく。


「もちろん教会の憐憫浄財割合向上にもお使い頂きたく。」ルナはそこを欠かさない。


「ルナ同志よ、相変わらず素晴らしいことです。神の祝福が貴女により多く与えられるでしょう。」


大教会長は孫の顔を思い出し抑えられない笑みを浮かべつつ言う。聖騎士はルナの申出を聖女のお申出と盛大に勘違いしていた。


「....ルナ、....大教会長様、....メロメロ。....聖女の...仮面、....剥がれない。....のり、....強力?」


リュンヌは、頬を緩ませる大教会長と、それを感激の面持ちで見守る聖騎士の純粋すぎる反応に、めまいを覚えた。


彼女たちの目には、ルナが「私利私欲を捨て、教会の財政と福祉のために身を粉にする聖女」に見えているのだ。


ルナは感極まったように胸の前で手を組み、潤んだ瞳で大教会長を見つめる。


「もったいないお言葉ですございます、同志パートナー....。」


ルナは可憐な花を顔に咲かせる。


「憐憫浄財の割合向上は、この街の隅々にまで神の慈悲を届けるための、私共の切なる願い(経営目標)でございます。」


花は輝いたままセリフが滑り出す。


「私やリュンヌの取り分など、その尊い活動を維持するための『必要経費』に過ぎません。」


教会への訪問を終えた二人は家代わりの宿の風呂で寛ぐ。


「....ルナ、....お腹、....ぷにぷに。....中身は、....真っ黒なのに、....見た目は、....子供。」


リュンヌは湯船に浸かりながら、ルナの真っ白で柔らかそうなお腹、そして可愛らしい丸いおへそをぼーっと見つめていた。


教会の荘厳な空気から解放され、湯気に包まれると、どうしても気が緩んでしまう。


ルナは「ふぅー....」と深くため息をつき、お湯をパシャパシャと跳ねさせた。


「失礼ね、これは『将来への備蓄バッファ』よ。」


ルナは風呂ではいつもご機嫌だ。リュンヌへの言葉も用語は一緒でも口調は柔らかい。


「今はリソースを頭脳に割いているから、物理的な脂肪ハードウェアの更新は後回しにしているだけだわ。」


リュンヌの託児所であった先輩元冒険者の用事が、「子供を預けたいという申し出だった」という言葉を伝える。


ルナは満足そうに目を細め、湯船の中で丸みを帯びた肩をゆらした。


「そう、それでいいのよ、リュンヌ。」


お金を落とすべき場所に落とせば、そこに新たな『需要』という名の血が通い、誰かがまた勝手に経済を動かし始める....。いいものを見たわね。」


彼女は湯気に顔を半分埋めながら、不敵な笑みを浮かべる。


「引退した冒険者が、汗水垂らして復職した成果を私たちの『システム』に投じる。....これは単なる託児依頼じゃないわ。」


風呂のせいか高揚か分からないが少しルナの頬はピンクがかっている。


「私たちの作った場所が、荒くれ者たちが『未来』を託すに値する『安全資産セーフヘブン』だと市場に認められたエビデンスよ。」


ルナは指先で水面に小さな渦を作り、冷徹に、しかしどこか誇らしげに続けた。


「いい、リュンヌ。こうして信頼クレジットが積み重なれば、掲示板の価値もさらに跳ね上がるわ。」


リュンヌにルナは楽しげに語り出した。それは次のビジョンでもあった。


「....次は、その預けられた子供たちの『教育』という名の付加価値サービスをどうサブスク化するか、じっくり練り上げる必要があるわね。」


「....ルナ、....お風呂でも、....強欲。....でも、....先輩、....嬉しそうだった。」


リュンヌは、ルナの冷徹な計算の裏側に、結果として人々が救われ、街が動き出す不思議な調和を感じ、温かいお湯に深く身を沈めた。


3章終わり


ちょっと長くなってすいません。区切りの加減でお許し下さい。しかし、まさか思いつきで書き始めたものがここまで来るとは。

自分の中ではここで折り返しと決めましたので、引き続きよろしくお願い致します

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