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この街に生きるものの力

ルナは殊勝な態度を崩さず、しかし獲物を追い詰めるような鋭い視線で棟梁たちを射抜く。


「あら、今さら。これは『需要と供給の最適化』よ。」


またぞろ、ガバガバ演説開始なのだろうかという勢いでルナは語る。


「あなた様方が教育した人材が、どれほどの市場価値バリューを持つに至ったか。そのエビデンスをこの場で確定させるのです。」


棟梁たちが「ああ、あいつの腕ならうちで欲しい」と顔を見合わせる中、ルナはさらに追い打ちをかけるように微笑んだ。


「よろしいですか? 優秀な人材は『共通資産』ではなく『戦略資源』。早い者勝ちなのですよ。」


わざとゆったりした雰囲気でルナは言葉を紡ぐ。


「....さあ、あなた方の評価額オファーを聞かせていただきましょう?」


ルナの瞳は、託児所の完成を祝う空気すら、仲介手数料を釣り上げるための「熱狂的なオークション会場」に作り変えている。そして目標が移る。


「申し訳ございませんが、料理のご担当は....、」と言いかけるルナ。


「 食堂の親父が、『他にも良さげなのは皆で目をつけてると言い出す。」


リュンヌは感心する。やはり商売をする人間はルナに大なり小なり対抗してくるのだと。


「....親父さん、....負けてない。....ルナの....土俵に、....上がった。」


リュンヌは、腕組みをして不敵に笑う食堂の親父を見て、密かに感銘を受けていた。


ルナの強引なペースに巻き込まれず、むしろその流れを利用して自らの利益を確保しようとする。


これこそが、この街で生き抜いてきた商売をする者の「地力」なのだ。


ルナは一瞬、予定外の反応に目を丸くしたが、すぐに右手で口元を隠してクスクスと笑い声を漏らした。


「あら、素晴らしいですわ。市場の潜在的なニーズを先読みして、独自に『青田買い(先行投資)』を始めていたなさっていたなんて。」


彼女の瞳は、対抗心への怒りではなく、競合相手が現れたことによる市場の活性化を喜ぶ投資家のような輝きを放つ。


「いいですわ、親父さん。その『独占禁止法』に触れない程度の囲い込み、嫌いじゃないですわよ。」


だが、ルナは上に立とうという動きは止めない。


「でも、忘れないで下さる。彼らを真に価値ある『商材』に磨き上げる教育カリキュラム(レシピ)を持っているのは、私だということをね。」


ルナは親父さんの対抗心さえも、託児所という名の「人材育成プラットフォーム」の品質を上げるためのスパイスとして、美味しく飲み込むつもりだった。


小さな商店の商店主が言う。


「よく言いますねルナ様。託児所ではなく『人を教え、売り出す場所を作ろうというのが本心だ』なんてお見通しですよ。」


商店主は逆にルナを見下し、言葉の刃をルナへ向ける。


「で、あなたは教師役に困っている。」


「....商店主さん、....鋭い。....ルナの....化けの皮、....剥がれた。」


リュンヌは、あんぐりと口を開けたまま、商人の放った「正論」に激しく同意した。


託児所という慈愛の箱庭を作り上げた元は、ルナの手による高付加価値な人材を量産する「工場」だった。


しかし、ルナは商人の言葉に動じるどころか、待っていましたとばかりに右手で口元を隠し、いたずらっぽく目を細めた。


「あら、お見通しなんて光栄でございます。」


その言葉は言葉が通じる者を見つけた喜びに満ちている。


「そうです。ここは労働力の『加工・付加価値向上拠点』。単なる託児所より、ずっと夢があると思いませんか?」


彼女は一歩踏み出し、商店主の不敵な笑みを正面から受け止める。


「教師役が不足しているですって? 心外ですわ。不足しているのではなく、『厳選』しているのです。」


ルナの言葉には揺らぎがない。


「現場のリアリティ(実学)を教えられる、市場感覚に優れた講師エグゼクティブをね。」


ルナの瞳が、獲物を定めるように商店主を射抜く。


「例えば....現場の酸いも甘いも知り尽くした、あなた様のような老練な商人の方。」


リュンヌにはルナがまるでジョロウグモに見えて来た。


「そのような素晴らしい方が椅子に座れば、この工場の『出荷価格』は跳ね上がると思いませんか?」


ルナは、事業の正体を見破った相手すらも「講師」という名のリソースとして、即座にスカウト(買い叩き)にかかっていた。


「申し訳ありませんが、私はまだ商いを本気でしたいのでね。」商店主は無難かつ巧みに躱す。


「....商店主さん、....逃げ足、....速い。....ルナの、....クモの巣....切った。」


リュンヌは、ルナの誘いを鮮やかに躱した商店主の背中に、プロの商人の意地を見た気がした。


同時に、この街の深淵に潜む「大店おおだな」の主たちの顔を想像し、ナギナタの柄を握る手にじっとりと汗が滲む。


ルナは「ちっ」と小さく舌打ちしたのを瞬時に微笑みで上書きし、優雅に肩をすくめて見せた。


「あら、賢明な判断ですわね。目先の講師料より、自身の商会の『独自性アイデンティティ』を守る方を選んでいらっしゃる。」


ルナは商店主を一度肯定する。


ルナは「じゃあ、お父様にお願いはできませんかしら?」と商店主に改めて投げかける。


「週1回でもよろしいですわ。」


最大限の譲歩だ。


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