新浄財の基(プロトタイプ)
帳簿については元薬師の男性が既に完璧だったため、ルナは先ほどの求人の応募整理を指示しもう一人の教育に小商店主を集中させる事にする。
「....ルナ、....場所替え。....まるで、....道具を....動かしてるみたい。」
リュンヌは、適材適所に割り振られていく人員を眺め、少しだけ元薬師の男に同情が湧く。
逆にルナは満足げに、完璧な帳簿を指先でなぞる。
「そう、スキルのミスマッチこそ最大の損失よ。帳簿が書けるリソースを遊ばせておくなんて万死に値するわ。」
そんな標語は、誰も聞いた事がない。
「彼は事務方の要として、採用管理に結果にコミットしてもらうわ。」
一方で、小商店主をもう一人の教育に充てる判断も冷徹だ。
「商売人は人を動かしてナンボ。そこで貴女には『現場マネジメント』という付加価値を教育に転嫁してもらう。」
さえずる様にルナは語る。
「これで、この現場は私がいなくても自律的に『利益』を産むマシーンになるわね。」
ルナの瞳には、すでに建設現場を超えた「浄財生産組織の自動化」という青写真が完成している。
おばちゃんがルナを呼ぶ。
「ちょっと、あの子達なりはデカいのに器用すぎるわよ。洗濯も針仕事もできるようになったんだけど、あと、何させんのさ?」
ルナはおばちゃんにオムツ洗いのメンバーを自分の前に呼ぶ様に頼んだ。
「....洗濯の人、....ご愁傷様。....ルナの『人置き』、.....逃げられない。」
リュンヌは、針を動かす大男たちのシュールな光景から目を逸らし、同情混じりの溜息をつく。
その隣で、ルナは淑やかな動作で髪を整え、不敵に微笑む。
「あら、ただの家事手伝いで終わらせるほど、私はお人好しじゃないわ。彼らには本当の付加価値を付けてもらいますわ。」
呼び出されたオムツ洗い担当の強面たちが、ルナの前に直立不動で並ぶ。
「いい、あなたたちの繊細な指先と強靭な肉体のハイフライフローじゃなくてハイブリッドは、この街の『衛生インフラ』を支える戦略資源よ。」
ルナは意味不明な事を口走りつつ、洗濯をしている場所を聞く。
そして、敷地の外れを指さして指示を出した。
「大きめの口の浅い穴を掘って、で、その上に雨が避けれる程度の屋根を大工の棟梁に聞いて作って下さる。風で飛ばなければいいわ。」
「....穴、....掘る。.....ルナ、....また....誰か....埋める?」
リュンヌは、不用品運びに使っていたシャベルを握り直し、物騒な事を言う。
だがルナは、場所を検分しながら建築担当へテキパキと指示を飛ばす。
「心外だわ。これは『聖生式非浄物昇華抗』よ。」
リュンヌはいよいよ大混乱だ。
「微生物という名の無償労働力を活用して、排泄物を資源(肥料)に変換するのよ。わかるSNSよサステナブルっていうやつ。」
リュンヌは、何かルナが間違えている事だけは理解した。
「屋根は雨による発酵温度の低下を防ぐための、最低限の設備投資よ。」
風で飛ばない程度の簡素な造り――その徹底したコスト意識に、棟梁も苦笑しながら「へいへい、安上がりなやつだな」と腕をまくる。
「構造はサンプル(シンプル)でいいわ。ただの廃棄を価値に変える。」
どこか間違えたままルナは勇ましく号令をかける。
「....さあ、あなたたち! 汚物という名の『未利用資源』を、徹底的に堆肥化するわよ!」
ルナの号令とともに、屈強な男たちが一斉に地面を穿ち始めた。
「穴は一つでいいわ。お試しだから。」とルナは言う。
「これが想像通り上手く行く事が分かれば、本格的に土地を買えばいいし、失敗すれば埋めてしまえばいいわ。」
ルナは思い切ったのかヤケクソなのかリュンヌには分からない調子で言う。
「思い切りのいいことで。神官の嬢ちゃん。」と大工の棟梁は呆れる。
「....ルナ、....大胆。....失敗しても、....埋める.....殺し?」
リュンヌは、シャベルで土を跳ね上げながら、銀髪の相棒の極端な言葉に不安を隠せない。
ルナは泥はねを避けるように優雅にステップを踏み、小さな穴を覗き込む。
「だから殺ってないわよ、これは『スモールスタート』と『損切り(ストップロス)』の徹底よ。」
神官が殺ったとか本当にルス教は大丈夫なのか。
「最初から広大な土地を買うのは、リスクヘッジができていない素人のすることだわ。」
棟梁が「埋めちまえばタダの地面だもんな。」と笑い飛ばす横で、ルナは真顔で指を立てる。
「そう。この小さな穴が、汚物という負債を肥料という資産に変える『新浄財の基』になるの。」
多分。教会ではそんな言葉はない。
「成功すれば、この土地ごとの価値を釣り上げてから買い叩く....じゃなくて、本格投資に踏み切るだけよ。」
ルナの瞳には、すでにただの穴が「富を生む魔法の壺」に見えているようだった。




