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サボりというコスト増

リュンヌとルナは下働き担当で広場で集めた不用品を建設現場に運ぶメンバーとともに移動する。


ルナが優しい声で一人ずつを自分の元へ呼び小声であることを告げた。


「他の人達の働く様子を見て手抜きが目に余るようなら教えて下さいませんか?もちろん嘘はダメですよ。」


そう言って銅貨1枚を渡す。


「....ルナ、また....怪しいこと、してる。」


リュンヌは、自らも小さいながらも不用品が詰まった背負い袋を担ぎ直し、銀髪の相棒を冷ややかな目で見守る。


ルナは聖職者らしい慈愛に満ちた微笑みを浮かべつつ、手際よく銅貨を握らせている。


その光景は、側から見れば奉仕活動へのささやかな手当に見えるが、実際は「密告」という名のインセンティブによる相互監視システムの構築だ。


「もう、これは情報の非対称性を解消するための『コンサルティング料』。サボりというコスト増を防ぐ、現場の生きたエビデンス収集なの。」


ルナは涼しい顔で、早くも回収効率の最大化を計算し始めていた。


考えて見ればここにいるメンバーは親方のお気に入り。つまり放っておいてもちゃんと働く組だ。


『これからの人材派遣業でマージンのみ手にするには一定水準に全員をしておくべきなのよ。」しれっとルナは言い放った


「....ルナ、....エグい。....おじさんたち、....泣く。」


リュンヌは、不用品を荷車へ積みながら短く溜息を吐いた。


ルナは慈愛の微笑を崩さぬまま、手元の帳簿に現場の「可視化データ」を書き込んでいく。


「泣かないわよ、これは『教育的投資』。」


顔色一つリュンヌの言葉程度では、ルナは変えることはない。


「全員が一定水準の成果を出せるようになれば、特定の誰かに依存するリスクが消えて、私のマージンが安定するの。」


彼女の瞳は、目の前の労働力を、すでに規格化された「商品」として冷徹に見定めていた。


「サボりも、過剰な頑張りも、市場を乱すハウリングじゃなくてノイズなのよね。....さあ、次のエビデンスを回収しに行きましょうか。」


相変わらずガバガバなルナ語録である。


建設現場に着くと、親方や親父さん達の声が響いている。


壁と床と天井が既に剥がされ柱が剥き出しだ。

大工の棟梁が「柱はまだ大丈夫だ。神官の嬢ちゃん。」と大声で言う。


「....柱、....裸。....家、....寒そう。」


リュンヌは剥き出しの構造体に、どこか居心地の悪さを感じて身を縮める。


しかし、ルナの瞳は節穴一つ逃さず、建材の耐久年数を瞬時に査定するフリをする。


「棟梁、その『大丈夫』を定性的な勘じゃなく、定量的なデータで示してくださる?」


彼女は柱を指先で弾き、冷徹に言い放ち知ったかぶりをする。


「腐朽やシロアリのリスクを無視した『根性論』は、将来的な修繕コストを爆発させる負債でしかないわ。」


柱に根性とはさすが神官だ。八百万の神、異世界に降臨である。


「神の家を支える骨組みに、妥当性のない妥協は許されないのよ。」


慈愛の微笑みの裏で、ルナは早くも手抜き工事という名の損失ロスを、徹底的に排除する構えだ。


「ああ、そう言うと思った。」と棟梁は笑ってルナを呼んで具体的に説明する。


その横で3人の元冒険者は食らいつく勢いで話を聞いている。ルナは内心満面の笑みだ。


「....おじさんたち、....目が、怖い。....獲物を、狙う....獣みたい。」


リュンヌは、食い入るように図面を覗き込む元冒険者の男たち3人の熱量に、一歩引いて呟いた。


棟梁が指差す「構造の急所」に対し、ルナは淀みなく補強材の耐用年数と費用対効果(ROI)を聞いていく。わかっていなくともフリが重要だ。


だが、元冒険者たちは違う。その数字が自分たちの「次の稼ぎ」に直結することを本能で悟り、必死に知識を吸収しようとしていた。


ルナの頬が、わずかに吊り上がる。

「いいわ。その『飢え』こそが、市場を回す最高の電気保安協会エネルギーよ。」


彼女にとってこの場は、単なる建設現場ではない。


未熟な労働力が、磨けば光る「高付加価値な人的資源」へと変貌を遂げる、極めて効率的な育成所インキュベーターだった。


即席のかまどで作られる全員の食事にも、ルナは口を出す。こちらは料理をするルナが『フリ』をせずに済む分野だ。


「小さな子供でも口に出来る工夫はどうなさっているの?」とルナが質問を飛ばす。


食堂の親父は答えた。


「材料を小さく切る。ただ、今は、こいつら職人用はそうはいかんので普通の大きさだがな。」


と言いつつ調理担当の元冒険者に次の手順を指示する。素材が小さければ、煮る時間も短くなるはずだ


「....親父さん、....ルナに捕まった。....火の粉より、....言葉が痛そう。」


リュンヌは、吹き出す煙を避けながら、刻まれる野菜の規則正しい音を聞いていた。


ルナは煮え立つ鍋を覗き込み、調理担当の元冒険者の手元を鋭く指差す。


「そうよ、表面積の拡大は熱伝導効率を最大化するわ。調理時間の短縮は、燃料という『固定費』の削減に直結するの。」


相変わらず意味不明な呪文が、ルナの口からまき散らかされる。

彼女は子供用の小皿を確認し、満足げに頷いた。


「弱者への配慮アクセシビリティが、結果として全体のオペレーションコストを下げる。これこそが持続可能な炊き出しのモデルケースね。」


ルナの頭脳は、温かなスープの湯気の中にすら、無駄のない完璧な「最適解」を描き出した様である。


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