資産運用という名の人材紹介業
「....! ルナ、....一気に....人を配り....始めた。....お金....取るの?」
リュンヌの価値観では未だこの辺に抵抗感がある。が、ルナは何を今さらという表情だ。
「当然よ、リュンヌ。教育コストをこちらが持ち、リスク(素行不良)を排除してプロの目(棟梁たち)で鑑定した『一級品』よ?」
そして、自信満々で言い放った。
「銅貨3枚なんて、広告費や仲介手数料としては破格の安値だわ。」
親方たちは顔を見合わせた。日当一日分で、信頼できる働き手が手に入る。
現場で「使えない」新人を雇って教育するリスクを考えれば、ルナが提示した価格は、あまりに魅力的だった。
「....銅貨3枚か。よし、分かった! その代わり、一番いいタマを優先的に回してくれよ!」
誰かが言うと我先に声が上がる。
「俺も予約だ! あの調理の奴、うちの飯場の炊き出しに欲しい!」
「ふふ、ご予約承りましたわ。では、あちらの『受付(元薬師の青年)』のところで、求人票(スペック要件)を記入してくださる?」
ルナは、事務仕事が板についてきた青年に顎で合図を送った。
「....ルナ、....また....儲けた。....銀貨1枚の....予備費、....使うどころか、....どんどん....増えてる。」
リュンヌはあまりに事が上手くいくので不安に思う。
「....この街の....雇用....全部....飲み込むつもり?」
「バカ言わないで。私はただ、労働市場の『目詰まり』を解消しているだけよ。」
ルナは、事もなげに言う。
「さあ、次は....この『紹介料(仲介益)』を使って、託児所の離乳食をさらに豪華に(リターンを大きく)しましょうか!」
そして慌てて気付いた様な振りをして、ルナは親方達に注意喚起した。
「そうそう、親方様がた。焦らないでくださいませ。あくまで『人は指定せず』でお願いいたします。」
ルナは、穏やかな声で語りかける。
「どういう技能を持った方が何人必要か、その条件をお書きくださいませ。」
そしてリュンヌはルナが放った言葉を唖然として聞いた、
「既にルス神様の慈悲の光....つまり、専属の雇用契約を掴みかけている『先行予約済み』の方もいらっしゃいますから。」
ルナは、特定の個人に人気が集中して価格が吊り上がるのを防ぎつつ、全体の「希少価値」を煽るような言葉を添えた。
「....ルナ、....完璧な....操作。」
リュンヌは言葉こそ少ないが勘と元々地頭はいい。なので段々とルナのしている事も理解しつつある。
「....特定の....誰か、....じゃなくて、....『仕組み』を....売ってる。....予約済み....って、....たぶん....まだ....一人も....いないのに。」
リュンヌは呆れつつも、親方たちが「早い者勝ちだ!」とばかりに、元薬師の青年のもとへ殺到する様子を眺めていた。
「ふふ、リュンヌ。市場を安定させるには、特定のスターを作るよりも『全体の品質保証』が重要なのよ。」
ルナはリュンヌに説明すると、また受付に向き直った。
「さあ、親方様方! 記入が済んだ方から、こちらの『受付窓口』へ。」
そして、珍しくまともな事を口走った。
「――ああ、それと、お試し期間中もその後も彼らをいじめて『損壊(離職)』させた場合ですが....」
ただ、それは慈悲というより、効率の観点からの発言のようだ。
「違約金をいただくことになりますから、大切に扱って差し上げてね?」
ルナの営業スマイルは、もはや聖女のそれというより、冷徹なギルド長か、あるいは街を裏から操る黒幕の風格すら漂わせている。
「....ルナ、....親方たちの....背中、....丸まってる。....完全に、....紐で....握られた。」
そして、リュンヌはえらいことを想像する。
「....これ、....託児所が....完成する頃には、....この街の....労働力....ルナの....兵隊さんに....なってそう。」
さすがのルナもこの発言には驚いたようだ。
「まさか。私はただ、彼らが『自分という名の資産』を正しく運用できるよう、お手伝いしているだけよ。」
そして気を取り直した様に言う。
「さて、紹介料の予約金も入ってきたことだし....。リュンヌ、現場の様子を見に行きましょう! 」
リュンヌもルナの誘いを聞いて気持ちが軽くなる。
「あの『幽霊屋敷』が、どう『聖なる託児所』に化け始めているか、この目で監査しなくちゃ!」
ルナは、予備費の銀貨一枚をポケットの中で転がしながら、スラムの男たちが誇らしげに資材を運び込む「現場」へと、颯爽と歩き出した。




