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ルス神様の配当

いつの間にやら列はバラけ、不合格などいなかった。


銅貨10枚のオムツ洗い2人、銅貨5枚の帳簿二人に調理が3人、大工が3人も無事決定。


そして一律銅貨1枚のお手伝い枠が24人も居た。


「....ルナ、....不合格....なし。....結局、....全員....拾った。....これ、....奇跡....それとも、....計算?」


リュンヌは、手元のメモ(いつの間にか持たされていた)に記された数字を見て愕然とした。


あれほど混沌としていたスラムの行列が、ルナの「正直申告」という魔法で、完璧な組織図ポートフォリオへと書き換えられていたからだ。


「いい? 皆様。ここには『不必要なオレンジ』なんて一つもなかったのよ。ただ、置く場所を間違えていただけだわ。」


ルナは、選別を終えて誇らしげな顔を浮かべる棟梁や親父さん、おばちゃんを従えて言う。


「そして、それぞれの役割ポジションを得た住人たちを、スラムの入口前で見渡した。


「特に、24人の『お手伝い枠』の皆様。日当は銅貨1枚....。」


まずは非お手伝い組を柔らかな目で見てから、お手伝い組に真剣な目を向ける。


「けれど、棟梁や親父さんたちは、あなたたちの働きを、神の慈悲と同じくらい平等に、そして『厳しく』見ていますわ。....おわかり?」


ルナの声が、一段と低く、そして鋭く響く。


「....ルナ、....今の、....優しい声だけど、....『サボったら、....次はない』って....脅してる。」


リュンヌはルナと過ごしていて分かる。

こういう時のルナは怖い。


「....慈悲と....一組の、....真剣....評価。」


リュンヌは背筋が寒くなった。ルナは「日当1枚」という最低限のコストで、24人もの労働力を確保した。


そのうえで、彼らに「より高い日当の職種(大工や調理)」へ昇格するための「競争インセンティブ」を植え付けたのだ。


「期待しているわ。あなたたちがただの『お手伝い』で終わるか、」


ルナは全員を再度一瞥して言う。


「それとも一週間後、親方衆に『こいつを正式に雇いたい』と言わせるまでの『優良資産』に化けるか。」


で、結局いいことを言っているようで最後は金でオチる。


「....ルス神様の配当ボーナスを掴み取るのは、あなたたち自身よ!」


「「「おうっ!!」」」


24人と、そして選ばれた専門枠の男たちの咆哮が、スラムの重い空気を吹き飛ばした。


「....ルナ、....今から....全員が、....猛烈に....働き始めそう。」


リュンヌはその勢いに圧倒される。


「....しかも、....親方たちの....指導(買収済み)付き。....これ、....明日には....預ける所....建つんじゃない?」


「ふふ、リュンヌ。労働力という名の『原石』は、正しい圧力プレッシャーをかけることでダイヤモンドに変わるのよ。」


そして、リュンヌを見て嬉しそうに笑って言う。


「そうそう、恐らく他の仕事の親方達の見学者やこの様子を見た就職希望者も絶対来るわよ。神の御慈悲は同等よ。光が当たりますように。」


ルナは祈りのポーズをとる


「....ルナ、....また、....予言マーケティング。....『希望者....来る』....確信....してる。」


リュンヌはルナのその自信に悪寒を覚える。


「....あと、....その祈り、....『集金....完了』....の....合図....見える。」


リュンヌは、ルナが流麗に指を組み、後光が差さんばかりの聖女スマイルで祈りを捧げる横で、冷や汗を拭った。


スラムの熱狂は、今やその外にまで波及しようとしていた。


「嘘を吐かなければ仕事がもらえる」「教会の後ろ盾で、あの頑固な親方たちが手解きをしてくれる」という夢の様な噂は足が早い。


すぐに、街の他の困窮者や、現状に不満を持つ労働者たちの耳にも瞬く間に届くだろう。


「当然よ、リュンヌ。良質なサービス(救済)には、自然と顧客(労働力)が集まるものだわ。」


既にルナは次の勝ち筋への布石を打っていた。


「皆様! 今日ここに来られなかった方々、そしてこの光景を遠巻きに眺めている皆様にも、ルス神様の慈悲は等しく用意されていますわ!」


そして、リュンヌの予想通りの言葉を放った。


「次の『光が当たる機会(第2期募集)』を、首を長くして待っていらしてください!」


「ルナの「祈り」は、広場に残された人々への強力な期待感プレリリースとして機能していた。


「....ルナ、....祈りながら....次回の....『予約枠』....作ってる。」


この相方は金儲けに関して隙がなさすぎるとリュンヌは呆れる。


「....しかも、....見学者....増えれば、....ギルドも…迂闊に....手が出せない。....群衆を....盾にした。」


ルナは珍しくリュンヌの言葉を否定しなかった。


「ふふ、アーティストは観客ギャラリーが多ければ多いほど、最高のパフォーマンスができるのよ。」


いつの間にかルナは自らが労働市場の流動化に乗ったらしく転職している。


「リュンヌ、あなたも最後にもう一度、聖女の祈りを。――さあ、皆様に『明日への投資意欲』を与えるのよ!」


「....おふっ....! 」


リュンヌの「仕方なく、でも完璧な」祈りが添えられると、遠巻きに見て居たリュンヌ推しのボルテージは最高潮に達したところでお開きとなった。


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