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再就職オーディション

「当然よ。見栄で嘘を吐くのは、自分の価値を自分で暴落させる行為だわ。さあ、次は食堂の親父さん! 」


ルナは面接者を振り分ける。


「手が震えて剣が持てなくなったという元冒険者....この方の『できないこと』を、あなたの『厨房』でどう転がせるか、見せてちょうだい!」


食堂の親父はその冒険者に「食材を洗ったりザルにあげるのはできるな。運ぶとか下働きだ。」

と打診する。


「....ルナ、....また....決まった。....親父さん、....即断....即決。....無駄が....ない。」


リュンヌは、親父さんの言葉に驚きつつも納得した。剣を捨て、絶望していた元冒険者の「震える手」は、繊細な包丁捌きには向かない。


だが、冷たい水で食材を洗い、重いザルを抱えるには十分な「力」が残っている。


「いい判断だわ、親父さん! 食材の洗浄は、料理の基本にして最も重要な『安全管理クオリティ・コントロール』よ。」


ルナはまず親父さんを称賛したあと、元冒険者をフォローする。


「あなたの震える手は、剣を握るためではなく、皆の命を繋ぐ食材を清めるためにあるのね。――日当は同じく銅貨1枚、やってくれるかしら?」


ルナが流れるような営業トークを被せると、元冒険者は自分の震える両手を見つめ、それから力強く頷いた。


「....ああ。下働きだろうが何だろうが、この手でまだ何かができるなら、喜んで!」


「....ルナ、....感動の....場面....なのに、....しっかり....下働きって....格付け....完了した。....日当も....最低限。」


リュンヌはジト目でルナを見た。

そして正直な感想を漏らす。


「....でも....感謝されてる。....魔法使い....みたい。」


「もういちいちうるさいわね!私は『やりがい』という名の配当を上乗せしているだけよ。――さあ次、お世話好きのおば様!」


ルナは、オムツ洗いの面接担当のおばちゃんに

次の求職者を案内する。


「プライドの高そうな元薬師インテリの卵はどうかしら? 彼、『力仕事は一切できません』って、さっきから顔に書いてあるわよ。」


ルナの視線の先には、汚れたローブを纏い、周囲を蔑むように見ているが、その実、震えるほど怯えて座り込んでいる青年がいた。


「さあ、おば様。この『使いにくそうなオレンジ』を、どう料理(教育)してくださる?」


ルナは、お世話好きおばちゃんの「指導本能」という名のエンジンに火をつけるべく、意味深な笑みを向けた。


「あらキレイな手。もしかして字が得意?」とおばちゃんは聞く。


「冒険者じゃなく薬師だったが怪我をして長く立ったり出来ないです。」青年が言う。


おばちゃんは、「ちょっと商店主さん!あんたのとこに向いてるのこっちに来てるわよ。」と叫ぶ。


そして、「ほら、洗濯よりあっち行ってきな。」と青年の背中を押す。


「....ルナ、....おばちゃん....すごい。....自分じゃなくて、....横の....商店主に....放り出した。....連係、....完璧。」


リュンヌは、おばちゃんの迷いのない判断に目を見張った。


薬師として長く立って調合は出来ずとも、その「綺麗な手」と「読み書きの能力」は、スラムの住人の多くが持たない希少な「知的財産」だ。


「さすがおば様! 市場のニーズ(適正)を瞬時に見抜くなんて、神の眼をお持ちだわ。


ルナは目論見通りと言わんばかりの顔をする。

そして自分も商店主に売り込みをかける。


「商店主さん! 薬師上がりの彼なら、色々素材にも明るいし、何より正確な『報告データ』と『記帳』が期待できるわよ。」


最後は具体的職種まで提案した。


「あなたのお店の在庫管理、彼に任せてみたらどうかしら?」


ルナは、おばちゃんに背中を押されて戸惑う元薬師の青年に、逃げ場をなくすような、しかし温かい営業スマイルを向けた。


「商店主さん、薬師の目は節穴じゃないわ。不調(棚卸の差異)を見逃さない、最高の『予防者兼事務員』になるはずよ。」


キャッチコピー付きでルナは追い込みに入る。


「――一週間、彼のその『手』の価値を試してみる気はない?」


商店主は青年の細く、しかし泥に汚れていない指先を見て言う。


「....ほう、薬師上がりなら話は早い。計算ができるなら、うちの煩雑な帳簿も片付くかもしれんな。よし、坊主、こっちだ!」と手招きをした。


「....ルナ、....薬師の彼、....泣きそう。....『立ってられない』....自分を....『書ける』....自分として……受け入れ...された。」


リュンヌは、バラバラだった元冒険者達が、ルナの「正直な申告」というルールによって、次々と正しい場所に嵌まっていく様子に鳥肌が立った。


「ふふ、これで『建設』『調理』『事務』の三本柱が回り出したわ。――さあ、次は誰かしら? 列はまだまだ続いているわよ。」


そして足りない職種へのアピールも忘れない。


「嘘を吐かず、自分の『欠損コスト』を『特性メリット』に変えたいオレンジは、前へ出なさい!洗濯(衛生)担当、空きがあるわよ。」


ルナの宣言に、行列はさらに活気づき、面接会場は熱狂的な「再就職オーディション」へと変貌を遂げていく。


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