教会の御威光発動
「まあ! 皆様で秩序を作ってくださるなんて、なんて慈悲深い....。」
ルナは零れんばかりの笑顔を振りまく。
「本来、調整は私がすべき仕事ですが、皆様がそう仰るなら、その熱意、ルス神様もきっとお喜びになられるでしょう。」
ルナは心の中でガッツポーズをした。
銀貨1枚の支出で、1人ではなく「5人のプロ」が、各職種で、しかも自分たちの誇りにかけて指導を請け負うと言い出したのだ。
管理の手間が省けただけでなく、監視の目も5倍になる。
「いいでしょう! その『連帯責任....もとい、共同伝道プラン』、受理いたしますわ! ただし条件は一つ。」
ルナは改めて念押しする。計画の重要箇所は譲れない。
「一週間後、教え子たちが一人前になれなかった場合、皆様方の『伝道師』としての評価が下がりますが、よろしくて?」
「おうよ! 街の面汚しを育てるような真似はしねぇ。任せときな!」
「....ルナ、....完璧。....銀貨1枚で、....街の....いろんな....有名人....各5人....完全に....縛り付けた。....もはや、....呪い....。」
「また意味不明よ、リュンヌ。これは『街の力を最大化する最適化』よ。さあ、契約は成立ね! 次は....」
ルナが次の「仕掛け」に移ろうとしたその時、群衆を割って、様子見していた冒険者ギルドの職員が、書類を振り回しながら飛び出してきた。
「待て、待て待て! 教会公認だか何だか知らんが、勝手に冒険者の『報酬』の相場を釣り上げるな! 冒険者ギルドを通さない契約は無効だ!」
「あら、おかしいですわ。....耳を疑ってしまいましたが。」
ルナは職員の剣幕を、まるで春風に舞う花びらでも眺めるような涼やかな目で見つめた。
そして、小首をかしげて完璧な「純真無垢な聖女」のポーズをとる。
「職員様、落ち着いてくださいませ。私、どこか一言でも『元冒険者に銅貨20枚払う』と申し上げましたでしょうか? 」
ルナは小首を傾げ困惑した顔を作る。
「今、皆様に申し上げているのは、あくまでルス神様の知恵を広める『伝道師(講師)』の方々への正当な対価....。」
そして穏やかな微笑みを浮かべつつ言い切る。
「冒険者ギルドの管轄外である、街の親方衆との『聖なる委託契約』ですわ。」
ルナの声には微塵の揺らぎもない。むしろ、相手の「勘違い」を優しくたしなめるような慈愛すらこもっている。
「....ルナ、....目が、....笑ってない。....『勝手に....間違え....するな』って....言ってる。」
リュンヌが背後でナギナタの柄を手で軽くトントンと叩き、職員を無言で圧迫する。職員は「う、うぐっ」と言葉に詰まった。
「それに、ギルドマスター様も寛大な御方。引退した方々の第二の人生まで、ギルドがすべてを縛り、彼らから教会の救済を受ける権利(自由)を奪う....。」
ルナ一呼吸おいて悲しげな顔に変わる。
「そんな横暴なことは、万に一つも仰らないはず。....それとも、あなた様はマスターの代理として、教会の聖業を『妨害』されるおつもり?」
ルナの教会の御威光発動である。
「ひ、教会の聖業を妨害だと....!?」
王家と貴族と教会はこの世界では三大魔境だ。
「ええ。これは大教会長様からも『未来の礎』と認可をいただいた、神聖なるプロジェクト。」
大教会長の認可書をべべーんと広げるルナ。
「ギルドがそれを止めると仰るなら....今すぐ大教会長へ、その旨を報告りに行かなければなりません。ああ、嘆かわしいことです....。」
ルナがわざとらしく目元を拭う仕草をすると、周囲の聴衆たちから「おい、職員!」「教会の邪魔すんのかよ!」と怒号に近い声が上がり始めた。
「....ルナ、....完全に、....あの人を....『神の敵』に....仕立て上げた。....もう....後戻り....できない。」
「さあ、職員様。この広場の皆様が、あなたの『公式な回答』をお待ちです。」
ルナは職員に向かい半歩前に出る。
「冒険者ギルドは、この街を良くしようとする神の光を、その慣習で遮るおつもりかしら?」
ルナは営業スマイルを最大限に輝かせ、職員の逃げ道を完全に塞いのだった。




